この週末、三人は会う約束をしていた。ところが一馬に急な予定が入り当初の予定は見直されて結人 だけが英士の家を訪れていた。 『ヤンキー占い』 プレステに夢中になる結人の背後では英士が読書に夢中になっている。今まで読んだことのない海外 ミステリーものなのだがこれがまた読み始めてみると面白い。なんとなく読んでみるかなと、挑戦する 気になって手にとったものだが、読み始めてすぐに予想を覆されてしまった。実にスピード感があり途 中ではあるもののすっかりと本の作者にはまってしまった。シリーズでいくつか出ているらしいので読 み終える前に少し揃えようと思っている。 お互いが好き勝手にすごしているその静かな空間に、不意に場違いな軽快な音楽が鳴り響いた。 英士の携帯から流れてきている。メールの着信があったことを知らせているのだ。 見ると一馬からだった。 件名は『ヤンキー占い』ってのやってみた、だった。 どうも最近一馬はインターネット占いってのにはまっているらしい。 「なんだって?」 「また占いの結果を送ってきた。見る?」 「見る見る。お、今回は3ページか。短いみたいだな。でもヤンキーってなんだよ。特攻隊員とか 逃がし屋とかあなたに適任なのはなにってまた書いてあんのかね」 「名前と血液型とあと生年月日だったっけ? それだけで占うものなんだからその程度なんじゃない の?」 「あ、出てきた。なになに……」 名前 ヤンキー風に書くと 必殺技 役職 戦績 真田一馬 鎖那堕蚊頭魔 暴走ジャンプ 西関東総長 1勝24敗 若菜結人 倭蚊那遊烏吐 極楽チョップ 東関東総長 31勝37敗
郭英士 蚊苦餌射死 監獄蹴り 西関東総長 34勝3敗 「ぎゃっはははははは」 「結人、笑いすぎ」 「だ、だって英士……これもやっぱ突っ込みどころ満載なんだもんよ。いっひひ。腹、腹がいてぇ」 「まあたしかにね」 「すましてるけど英士、お前の名前よく見てみろよ。これ見て思うことなんかない?」 「べつにないけど」 「お前のこの名前見てると腹が減ってくんだけど。今にも飢え死にしそうな人の名前みてぇ」 「失礼な。それはただ単に結人がいまお腹減ってるからなんじゃないの? そろそろお昼の時間だし」 「それはそうなんだけど、でもそれだけじゃなくこの名前のせいってのもあるよぜったい」 「あのさ、俺にだってお前の名前に一言あるよ」 「なんだよ」 「まるで戒名みたい」 「お前縁起でもねえこと言うなよ」 「だってそう見えるんだから仕方ないじゃないか」 「徳がある人の名前みたいとかそういう風に言えよ」 「徳? どこに? ああ、極楽チョップね。たしかに極楽の字に和むね」 「待て。勝手に先に進むな。なんか忘れてるみたいだけど一馬のアレにはなんか言うことはねえのか よ」 「一番それらしいじゃないか。なんとか連合って書かれた旗が頭の中でハタメイテいるよ。うん、可 愛いね」 「うわっ。さむっ。誰もそこまで妄想しろとは言ってない」 「文句の多いヤツだな。言うことはないのかってお前が聞くから答えてやったんじゃないか」 「いや、だから妄想しろとは言ってないから。もうしなくていいから。な。じゃ次いこう。えーと必 殺技は……暴走ジャンプか。響きが一馬っぽいっていうかまんま一馬の性格じゃん」 「そうだね。感情の起伏が激しいからね。ふふ。それはそれで楽しいんだけどね」 「いや、だから妄想はもういいって。お前がいま想像してる一馬は明らかに俺が言った暴走とは違う 意味で暴走してるみたいだからそっから先には進まなくていいから」 「………………」 「いやだからこれは文句とかっていうものじゃなくてだね、あー……わかったわかった。わかったか ら睨むなっての。くそっ。お前のこの監獄蹴りってのもお前に合ってるよ」 「ありがと。なんなら実践してみようか?」 「いや、いいです。お心遣いだけで充分です。お前のその戦績もある意味真実味が出てきた。いや、 強い強い。かえって誰に3敗したのかそっちの方が気になるね」 「そう? 結人の戦績も結人らしいよ」 「え?」 「誰彼構わずケンカ吹っかけてるみたいじゃないか。数多く打てば当たるってものでもないだろうに もう少し効率よく動いたら?」 「……ご忠告どうも。でも1勝しかしてない一馬に比べたらましだろ」 「いいんだよ一馬はそれで。勝って恨み買われるより負けた悔しさでリベンジ目論まれてた方が俺は 安心して見守っていられる。ふふ、悔しがってるときの一馬ってすごく可愛いんだよ」 「いや、だからいちいち妄想しなくていいから……」
ふと脳裏に、一馬の一勝はもしかして英士からとったものかもと浮かんだ結人は、だけどあっさり 肯定されそうだったので口には出さなかった。 英士は英士で結人のそんな考えには気がついていなくて、 『一馬は元気がいいからね。表のことは一馬に任せて俺は裏にまわって一馬をサポートしなきゃ。心 配でひとりになんかしとけないよ』 妄想だけがどんどん膨らんでいった。
END
ちゃんちゃん。妄想膨らんだのは有島だ。有島につける薬はどこかにないものか。 それにしてもたったあれだけの結果でよくもまあここまで妄想れるものだ。 驚くと同時にあっぱれとも思ったよ。 仙人はかすみを食って腹を膨らませるというが有島は妄想を食って胸を膨らませた。 いやべつにボインちゃんになったわけじゃないよ? 胸がキューンとして幸せになりましたという意味でそう言ったのよ。 同人女の幸せは妖しい色で目に毒だねぇ。 |