「結人……」 「会うなりいきなりなんなの……」 「いいからいいから」 三人で会うのは一週間ぶりだというのに感慨もなにもないようで、『遅れてゴメン』の言葉もなく、 「一馬、耳を貸すことはないよ。無視しよう、あんなヤツ」 「え? なんで?」 「そうだ、失礼だぞ英士」 「……鈍感」 「英士?」 なぜ、聞く前から聞かない方がいいみたいなことを言い出すのか。真意がよくわからなかった。とこ 「はいはいはい、そこ、勝手に見つめ合わない。二人ともこっち注目。いいか、俺がこれから質問す 「悪いけど内容にもよるね。答えられないことには答えられないし、答えたくないことにも答える気 「あのさぁ英士クン、聞く前からケチつけんのやめてくんないかな」 英士のはっきりした物言いに、大人しく返す結人だったけどその口調はかなり硬い。気分を害したの 「べつにケチをつけてるわけじゃないよ。遅刻してきて詫びもなく早々に話し出すほどなんだから、 あー……なるほど。そりゃそうだよな。30分近くも待たされてやっとやって来たかと思えば早々に 「結人」 「あ? なんだよ一馬」 「質問する前に俺の質問に答えろよ」 この場の険悪な雰囲気を収めるにはまず結人が遅刻してきた原因を知る必要があると、俺は考えた。 いたしかたない理由があるのか。ただただ結人に非があるのか。まずはそれを知ってからであろう。 今にも食って掛かってきそうな勢いなのだが、とりあえず『なんで遅れたんだよ』と投げ掛ける。 「結人の遅刻なんて珍しくはないから今さら『待たせてゴメン』の一言もなしかよなんて文句をつけ 俺はもちろんだけど英士も結人の答えを待ち続けた。 じっと、ただじっと見つめられて、居心地悪そうに結人は頻繁に下唇を舐めている。 やがて、それまでのとはちがってきつく下唇を噛みしめるようになり舌打つようにして唇を鳴らして 「出掛けになって母親に留守番頼まれちまったんだよ。訪ねてくる客があったのに急に町内会の連絡 結人は意識して俺たちを見ないようにしているみたいだった。俺たちを避けた視線は、結人自身どこ 恥かしかったのかもしれない。文句のつけようもない仕方の無い理由を口にするのが。『遅い。なに まぁアレだ。ついてなかったねって、こっちも言ってやることしかできないんだけど。 でも確かに馬鹿正直に告白するのは内容問わず恥かしいものがあるよな……。 ……っと、いけね。同情するよりまずはこっちの機嫌直させないと……。 「それならそうちゃんと言いなよ。俺たちはまたお前の都合で遅刻してきたんだと思ってたよ」 「一馬の言う通りだよ。真っ当な理由があるならちゃんと言わないと誤解されてしまうよ」 「いちいち言うことじゃねーと思ってたんだよ。だいたいいつもはこんな問い詰めてこねーくせにな 「遅れてきたらまずは『ごめんなさい』これ基本でしょ。最低限の礼儀を欠くたび言ってやろう言っ 「……えっと……そうだったんだってさ結人……?」 ちょっと結人。そっぽ向いて不貞腐れてる場合じゃないっての。ここはとりあえず『あー、ゴメンナ 「結人……」 「……んだよ、引っ張んなよ伸びるだろ……」 「遅れた理由はわかったよ。お前が悪いわけじゃないこともわかった。けど今は過去の罪状について 「……やだよ、済んだことに今さら……」 「でも英士は根に持ってるみたいだよ? 一言ないと多分このあともねちねち言われ続けるよ? い 「……」 睨むなって。 だから、英士も挑むなっての。 勘弁してよ……。 「これから気をつけりゃいんだろ?」 睨み合わせてた視線をぷいっとそむけて席についた結人に一安心しつつ、だんまりを続けたまま視線 気をつけるって言ったのだからもういいんじゃないの許してやったら? 視線だけで語りかける。多分伝わると思うのだ。なにせ英士だ。 「期待はしてないけど今度待ち合わせに遅刻してきたら容赦なく奢らせるからね」 ちらりと結人の視線が動く。『なにそれマジかよ?』って顔になっている。 「これくらいのペナルティ課しておかないとすぐ忘れちゃうだろうからね。一馬は証人ね。あとでそ にこり。 こ、怖ぇぇぇぇ。さっきと違って今度は目も笑ってんだけど背中がぞくぞくしてくんですけど。 「じゃ話がまとまったとこで結人の話ってなに?」 あ、あの、まだなにも言ってないんですけど? や、異論はないんだけどそんなキレイに無視される ゆ、結人、お前はいいのか? おい言いたいことあんだったらむくれてないで今のうちに言っといた 「なにじっと人の顔見てんだよ?」 「え、や、そりゃ……あれだよ……なんとなく……」 どうせ俺はへたれです……。噛み付かれるのがイヤで言いたいことがあっても飲み込んで黙っちゃい 「一馬」 痛いって英士! なんだよいきなり顔を引っ張るなって、なんなんだよ!? 「結人なんて見つめてないでこっち見てね?」 絶句。あんぐり。どっきり。ぼっ。顔が……顔が熱いんですけど……。あの、いい加減手を離してく 「バカップルめ」 ぼそりとつぶやかれてしまった。益々熱くなってくるのがわかるのにすっと、指がわざとらしくイヤ 睨んでも全然効き目ないし……。 「おい、……人の目があんだからいい加減放してやれよ……」 結人……なんていいヤツなんだ。もっと言ってやってくれ……! 「結人、席替わって。よく考えたらなんでお前がそこなんだろう。おかしいよ。一馬の隣はやっぱり ……絶句の絶句……。あーちょっと! い、行かないでよ結人……。 「ありがと」 「どーいたしまして。おい一馬、あきらめろ。英士のこーいう心の狭さを見せられんのお互いに初め そ、そんな簡単に言ってくれるなよ……。 「お互いこーいうオトコをトモダチとコイビトに持ったことをうちへ帰ってから存分に嘆こうぜ」 ……そう言うけど俺今日自分ちに帰れるかどーかわかんねえもん……多分英士んちに連れてかれちゃ 「そっか悪ぃ。お前多分今日英士んちにお泊まりだよな。じゃ嘆くのはもちっとあとになってからだ 『ね』じゃねーよ! 「まだわかってないみたいだね」 やばっ。 結人のこと見過ぎた……。 「ち、ちがうよ英士、べつに見詰め合ってたとかそーいうんじゃないんだって、ただちょっと考え事 「一馬の言うことも頭ではわかるんだけどでもやっぱり気持ちの方はそうは割り切れないんだよね」 「わ、割り切れないって、お前なにガキみたいなこと言ってんだよ、こっちにはヤマシイ気持ちなん おまっ、……! 助けを求めてんのに知らん顔すんなんて薄情だぞ! それでもトモダチかよ!? ちょっ、……お前もお前だ! いい加減向こうへ行けってのバカ英士! 「えーいし。人が見てるよ。それに一馬のやつ本気で泣きそうになってきてるよ? 見てみなよウル 「…………」 っう。だから間近で見つめないでくれっ……。 「啼かせてみたいかも」 いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 「お前、いま恥かしい方の漢字使っただろ」 なに!? なに!? 恥かしいってどんな漢字だよ!? 「マジでそいつ怯えてるよ? あーんま苛め過ぎると逃げられちゃうよ?」 そうなの? 結人からこっちに戻した視線に問い掛けられて迷わず首を縦に振った。 こ、怖いです。マジで悪寒が走ってくるんです。これ以上近寄って来たらぶっ飛ばして逃げるから。 「それはすごく困る」 「じゃ、今すぐこの手を放して自分の席についてちゃんと前を向いて……」 「もっと触っていたかったのに……」 「あとでいっぱい触れんだから我慢しろっての」 お前一言多いっ!! そのいやらしい笑いはなんだ!? 俺の身のことも少しは心配してくれよ! 「そうでもないんだよね……基本的にエッチする時以外はあまり触らしてくれなっ……」 英士っ!! 「ふーん。そうなんだ。けっこう辛い目にあってんだ英士も」 結人も黙れ!! 「涙目で威嚇されても効かないよ? むしろ可愛く見えてくるからそういう目で見ないで欲しいなぁ」 「っ……っ……っ……っ」 「ねえ。英士窒息死しちゃうよ? ほら見てみなよ。お前の手、口と鼻、両方を塞いでるって」 えっ!? あっ。ご、ごめっ……! ど、どうしたもこうしたもあるかよ……!! あ、謝ろうとしたのに舌、……舌が、舌が……な、 ぺろって……! 手のひらに……! し、信じられねぇ……!! なに考えてんのかわかんねーよ……! 人、人……人が居る前で……! 「お〜い、一馬?」 「……っ」 訝る結人に横顔を向けて大胆不敵にも笑顔を向けてくる英士に、目を向けていられなくて、ぱっと顔 ……楽しんでいる。あの顔は……楽しんでいる顔だ……! 俺のするどんな反応をも楽しもうって顔 「本当はこれよりもこっち……指の方が好き、なんだけどね?」 手のひらを見せて、そのあとすぐに人差し指だけを立ててわざと目の前で振られて……顔から火が噴 言った本人には全然恥かしがる様子も見えないのに聞かされたこっちがくすぐったい気分になるって 「あー……愛を語り合ってるとこ悪いんだけどさ、そろそろこっちの世界に戻ってきてくれないかな なに言ってるんだ結人! 帰さないよ!? 一人だけ逃げようなんてずるいことさせないからね!? 「そうか、気を遣っ……!」 「黙ってろ英士!!」 冗談じゃない! こんなとこで二人きりにさせられてたまるかっての! 調子付いたこいつにトイレ 「……痛いじゃないか一馬。頭は強く叩いちゃダメなところなんだよ?」 「うるさい! お前は少し黙ってろ」 「暴力反対。暴力でおさえつけようとするなんていけないよ。言いたいことがあるならちゃんと口で 「だからうるさいって言ってる! 少しの間くらい黙っててくれてもいいだろっ」 「なあ」 「なに結人!? 帰りたいとかって言うなら却下! ひとりだけそそくさと帰ろうなんて絶対許さな 「や、そういうことじゃなくて……」 「じゃなに!?」 「そっちの痴話喧嘩まだ続くの? なんかすげー疎外感感じて辛いんだけど?」 「やだな結人、……なに言ってるのさ……」 「え?」 ふと、ふてぶてしくも頬杖なんかつきだした英士の姿が目に入ったので『いいか、黙ってろよ』と目 「そんな風にしてさアイコンタクトなんかしてるの見ちゃうとさやっぱ俺ってお邪魔しちゃってるの なっ。ア、アイコンタクトってそんなものした覚えはないぞ! 誤解だって……! 恐ろしい誤解をしないでくれ……! ていうか英士! お前のせいだ! お前がエッチくさい行動を 「痛いっ! ちょっと一馬、なんで俺が叩かれなきゃいけないのさ。なにしたって言うんだよ。気安 「うるさい。なんでもかんでもあるかっ。ヘンなことばっかするからだろ」 「ヘンなことじゃないよ。愛するが故に止まらないこの愛しい気持ちを表現したんだよ」 絶句! 絶句! 絶句!! なんて恥かしいヤツ!! 「あーはいはい。そーいう痴話喧嘩も俺が帰ってからしてね……」 あっ! 帰っちゃダメ!! 「ちょっ、放せよ一馬……」 「やだっ!! こんなのと二人きりなんて絶対イヤ! 帰るんだったら俺も一緒に……」 「なに言ってるのさ。一馬は今日はうちに泊まる約束してるでしょ」 「そんなものキャンセルだ……!!」 「ちょっ、マジで一馬この手放せって、マジでこれはヤバイって……おい英士……! これは俺が掴 「俺を見捨てるのか結人!」 「俺だって命は惜しいんだよ、おら放せって! 巻き込むなっての!」 「やだよっ。俺も一緒に出るっ」 「ねえ結人」 「ぅわっ! 待った待った! 先に俺に言わしてくれ! コイツがなに言っても俺は連れて出る気な 「薄情者!!」 「うるさい! これはお前ら二人の問題じゃないか! 俺は関係ないんだから巻き込むな!」 「そんなこと言うなよ! そうだ! お前なんか話があったんだろ? 続き、言ってみてよ!」 「や、もういいよ。どうでもよくなったから……」 「そんなこと言わないでよ結人……!」 「往生際が悪いのはみっともないよ一馬?」 「うるさい!! 俺だって自分の身が可愛いんだよっ」 「俺も一馬のこと可愛いと思ってるけど」 「だからお前らそういう会話は俺が帰ったあとでしてくれっての! ちょっ、マジで俺を解放してく 「やだ! 一人だけ逃げようなんてそんなのダメだ!」 「しょうがないなぁ……一馬もくっついて帰るって言い続けるなら俺にも考えがあるよ? 一馬に縋 「やめろ恥かしいから!!」 英士のその考えには俺たち二人同時に反対する意を唱えた。 冗談じゃない!! そんなみっともない真似俺の躯使ってされてたまるかっての!! 「頼むから俺を巻き込まないでくれぇぇぇぇぇ!!」 「俺たちトモダチだろ!? 俺を見捨てるのも許さないけどこいつ、なんとかしてよ!?」 「なんで俺が!? お前ら付き合ってんだろ!? そいつの取り扱い総責任者はお前だろ!?」 「もう俺の手に負えないよっ……! 見たらわかるでだろ!?」 「一週間ぶりだってのに冷たいね……」 ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 腰……!! 腰に抱きつくなってのぉぉ!! うぉ!? 今なんか臍の辺りがくすぐったかったけど ぎゃっ!! なんでそこに手があるんだよ!? つーか指動かすなぁぁ!! 「結人結人結人……!!」 助けて!! 「おい英士っ……!!」 うんうん。一発ガツーンと言ってやって!! 「ここは人の目があるぞ。やるならトイレ連れ込んでやってこい……」 「お前最低ぇぇ!!」 「あ。それいい考えだね」 「冗談だろ……!?」 「や、かなり本気。だってナマ一馬をこうして触ってるわけだし……」 ナ、ナマ……!? 「英士……そーいうエロいことは人前であまりの口にしない方がいーぞ?」 「わかってるけど……でも一週間ぶりの感触にこうなんていうかブレーキが効かなくなってるってい 「……だ、そうだよ一馬?」 帰る……!! 「放せエロ英士!!」 「その前に俺を解放しろっての……」 「やだ」 今度は英士と同時に反対する意を唱えていた。
英士ではないが一週間ぶりだというのにホント、……相変わらずな俺たちなのであった。
U−14の日常。 『結人の前で一馬ちんにセクハラチック・英士くん。どたばたなU−14でお願いね』 キリリクは受け付けてないのだけど、カホさんのリクエストに応えてみました。 どう?応えてます?それとも温かったでしょうか? 短くまとめてみたらこんなものになってしまいました…ショボーン…。 |