WHISTLE!のページへ戻る






 今年のクリスマスはどうする?

 当然会えるものと信じて聞いたのに……、

 『あー……その、ごめん……! 24日も25日もバイト入ってて……』

 思いもかけない返事が返ってきて今年のイブとクリスマス当日はひとりぼっちで過ごすことに決定!

 ……バーカ……。なんでそういう日に仕事なんかしてんだよ……断れよ……つーかなんで断んねんだ
よ……。ばっくれろよ……!

 バーカバーカバーカ……!

 


                   ク リ ス マ ス ・ キ ス

 


 街中クリスマスに浮かれてどこへ行っても軽快なあの曲や色鮮やかなあの色が聞こえてきたり目に飛
び込んできたり。トイレに入ってさえもばったり遭遇してしまう人々にクリスマスの色はつきまとい、
マジでどこへ逃げても逃れることができない状態。

 最悪……なにこのバカ騒ぎ……。

 たかがクリスマスじゃん。なにそんなにみんな浮かれてのさ。なにそんなに金、捨ててんのさ。

 ばっかじゃねーの。商戦に乗せられて……頭ゆるいんじゃん?

 どうせあさってになりゃ街中は一変して今度はお正月色に染まるってのにさ。なに浮かれまくってん
のさ。昨日までのケーキと今日からのケーキとどこに違いがあるって言うんだ。むしろデコデコ飾られ
て食いにくいし、味だって落ちるじゃん。その割には値段はアップしててさ。ケーキの前にクリスマス
がつくだけなのに騙されちゃってさ。ばかじゃねーの?

 それになにがクリスマスプレゼントだ。自分の誕生日でもねーくせに『なに買ってもらおうかな』だ?
欲しけりゃてめーで買えっての。ほいほい買ってやるヤツもヤツだよ。商戦に乗せられるなっての。そ
いつの誕生日じゃねんだから買ってやる必要なんてねーんだよ。欲しけりゃ自分で買えっ言ってやれっ
ての。

 あーもう……! くそ! 街中バカばっか!! アホばっか!

 雰囲気に乗せられてイチャイチャくっついてんじゃねーよ! どーせイベントに乗じて付き合いだし
た期間限定のコイビトごっこなんだろ? どーせあと少ししたら今度は初詣用に新しいのに取り替える
気なんじゃねーの? こいつは金出してくれそーとか、とりあえず一人は寂しいからとか、そーいう理
由でつきあってんだろーが。

 あーもうくそっ……!! 邪魔なんだよお前ら……!!

 そこ……!! 荷物!! 人に持たせて凭れ掛かって歩いてんじゃねぇ!! そいつさっきからずっ
と歩きにくそうにしてんのお前にはわからねーのか!? 配慮が足りねぇ!! 見るからに愛が足りて
ねーぞ!!

 くそ……!!


 「ママァ、ばぁばにはいつ会えるの?」

 「ばぁばは明日ね。明日のお昼、一緒に食べようねって言ってたよ。お昼近くになったらきっといつ
ものように電話かかってくるわよ」

 「ボクが前に頼んでいたゲームのソフト、ちゃんと予約してくれたかなぁ?」

 「してくれたわよ。ばぁばがタカちゃんとの約束忘れるわけないじゃない。きっと明日持って来てく
れるわよ」

 「早く明日にならないかなぁ」

 「そうねぇ」


 けっ!! ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁかじゃねえの!?

 おいこらガキ! お前のその手に持ってるデパートの袋はなんだ!? 大袈裟な割りに見るからに軽
そうだぞ。どうせそん中に入ってるのもソフトじゃねーのか!? 何本もあったってまとめては出来ね
んだぞ!? わかってんのかよ!? 一本ありゃしばらくはそれで遊べるだろが!!

 やだねぇ……最近のばぁばってのは金持ってるのな……。俺の田舎のおばぁちゃんなんて俺がゲーム
のソフト欲しいって言ったって意味がわかんなくていつも親経由でお金でもらってたぞ……。そんなん
だから無駄遣いなんか出来なくて貯金に無理矢理回されたことだってあったし……かぁぁ、最近の孫は
恵まれてるねぇ……。

 ……あーやだやだ……。

 ほんと、やだやだ……。

 通りかかった親子連れの会話にまで愚痴るなんて……。

 これと言うのもみんなみんなあいつ、ばか結人のせいだ……!

 こんな街中が浮かれるこの時期に人様の為に働きに出たあいつの神経がわからん……!!

 なーにがクリスマスだ!!

 どいつもこいつもアホ面して浮かれまくりやがって……!!

 クリスマスになんの意味があるって言うんだよ……!!


 「あ、ねえ、あそこでケーキ買って帰らない?」

 「あれ、予約とかしてないの?」

 「だってこの日会えるかどうかわからないって言ってたから……。クリスマスケーキはやっぱり大き
くなきゃ。でも一人だったら食べきれないし……」

 「ショートケーキとかでもいいのに」

 「だーめ。やっぱりクリスマスマには大きいので買わないと」

 「そういうもの?」

 「そう。こういうのはね雰囲気でパァーとやるのが楽しくていいのよ」

 「よくわかんないけど……じゃあ買っておいでよ。オレはここで待ってるから」

 「チョコ系でいい?」

 「任せる」

 彼女があそこと言って目指したのは、ケーキ屋の店の外で売られているケーキ。お店の中にあるのと
同じようなガラスのケースが店の外にも置かれていて中には色んな種類のケーキが飾られているのだろ
う。人だかりも出来ている。彼女の発言ではないが、クリスマスケーキだからなのか、買っている人の
ほとんどがみんな大きな包みをぶら下げている。

 一人も二人もかわらないと思うのに……なぜ大きなケーキにこだわるのか……。きっと食べきれない
で困ることになると思うけどそれでもやっぱり戻ってきた彼女が手にしていたものは大きな包みで、美
味しくないのにスパークリングワインまで追加されている。

 あーあ……なにがそんなに嬉しいのか……たかがケーキじゃん……。

 ばーかじゃん……。

 街路樹に灯り出した電飾に『キレー』なんて歓声上げて足を止めるヤツもばっかみたい。

 益々クリスマスっぽくなった街の雰囲気に酔わされて結果サイフの紐が緩んでんだから間抜けだよ……。




 「……一馬!?」

 浮かれまくりの何人かが振り返ってくれるほどの声出して駆けてくるアイツもバカ……。

 ……あーあ……この寒い中なのにセーター一枚にエプロンかよ。しかも黄色。アホ色……。

 「お前、どーしたの!?」

 ……吐く色だって白いのに……まわりはみんなアッタカイ格好してるのにお前ら、ばか……?

 店長に言って夕方くらいからはジャケット着させてもらえっての……。

 「なんでここにいんの一馬……?」

 ……『なんで?』……んなの決まってんじゃないか……。

 「お前が会えないって言ったからこっちから会いに来てやったんじゃねぇか……ボケ……」

 「……えっと……」

 「手」

 「え?」

 「手、出せっての……」

 「あ、うん、はい……」

 「やる」

 「……カイロ……?」

 「あっためてやったんだから大切に使えよ」

 「えっと……ちょっと待ってて!」

 そう言って戻って行った結人。でもまたすぐに戻って来た。今度は黄色のエプロンつけてないから……
アホっぽくはなくなっていた……。

 「ちょっとこっち来て……」

 そう言って連れて行かれたのは店の裏手。狭い路地でそれでも知っている人は通って行く決して人通
りのない通りではなくて。まあ確かに人目は少ないと思うが……。

 「……ごめんな」

 抱き締められて……少ない人目ながらしていることがしていることなだけに……興味ありげにと言う
か訝しげにと言うか……振り返って見てしまいたくなるのだろうこの光景には……注目が集まっている。

 だけど。

 突き放す気は全然なくて。むしろ自分からも抱き締め返していたりもして……。

 「…………」

 たかがクリスマス。されどクリスマス。寂しさを愚痴って紛らわそうとしても会いたいと思う気持ち
は捨てられなくて。せめて姿だけでも眺めてみようと思い足を運んで来てしまったのだ。

 「……あのさ、やっぱクリスマスなんだよ……なんて言うかさ、普段の日とは違うんだよ……」

 この時期一人身が外に出ると寂しいものを感じて辛いものがあると言うその気持ち……わからなくな
い……。なんだかんだと愚痴ってきたけど……浮かれた街に出て強がれば強がるほど募ったものは会い
たいという想い……。こうして最後は自分もクリスマス色に染められているんだから、されどクリスマ
す、さすがクリスマスである。

 「あのさ一馬……」

 「うん?」

 「俺今日このあと九時までバイト入ってるんだけど、それまでどっかで時間潰ししててくんない?」

 「は?」

 「だから……! ……終わるのを待ってて欲しいって言ってる」

 「……それ、どういう意味?」

 「明日もバイト入ってるけど今日ウチに泊まれってことだよ……」

 「……会えないって言ったくせに……」

 「でもお前が会いに来てくれたから予定が変わったの! ……いいだろ?」

 「……ぅん……」

 「えっと……じゃあこれ……」

 そう言って差し出されたものは五千円札。

 ……これをどうしろと……?

 「近くのゲーセンで時間潰ししてて」

 「……いいよ。外で待ってる」

 「ばーか。寒いっての。そんなことさせたら風邪引かせちまうじゃん」

 「そんなやわくないよ。お前の方が薄着で俺は心配だよ」

 「んー……でも足元にはデンキストーブのちっこいの置いてあんだぜ? じゃとりあえずどっかでな
んか飲んできなよ。それから来なよ?」

 「ん、わかった……」

 「あっと、一馬……」

 

 「……お前なぁ……」

 「へへ。丁度よく人の通りが切れたからさ……なんつっても今日はイブだし? こういうのも許され
るんじゃないかと思ってさ……」

 「ふーん……。じゃ、俺からも……」

 やっぱり丁度良く人の通りが切れていたので……。今度は俺から結人に軽〜くキスをしてやった。

 

 











END

 


 

季節ネタです。

高校生な二人。バイトに励む結人。

可愛く仕上げてみました。

白状します。冬コミ原稿から逃げました。

郭真でもやってみたい……。

WHISTLE!のページへ戻る