あんなことがなければ多分、俺は英士と同じ高校を受験していただろうし、同じクラスで学んでいた そして。今、こんな風にキスされてることもなかったはず……。 ただ一度の過ちは、俺のものでありながら俺の意見を無視して、俺の人生を大きく変えてしまった。
日 々 の 声
「また、ほだされてしまった……」 「なんだよ一馬、お前まだ諦めてなかったのか」 「人のことだと思って簡単に言うけどな、そうそうあっさり覚悟なんて決まるもんか。一生の問題な 「じゃあこの際だからはっきり言うけどほだされ続けて三年も続いてたらそりゃもう愛情がないって 「だーから。簡単に言わないでくれっての。つーかお前なんでそんなに物分りがいいんだよ。自分の 「だって今さらだもんよ」 こたつの上に乗った籠からもう一つミカンを手に取って、皮を剥き出す結人に俺は肩を落とした。こ 「そんなぶすくれた面すんなよ。ほら、そーいう目つきして人のこと見ない。ま、あれだ。イヤなら ……みかん食いながら言うセリフじゃねーよそれ。お前こそなに真剣な顔つき見せてんだよ。らしく つーかなんで俺が責められなきゃいけねんだよ。強引なのは英士なのに引っ張りまわされてる俺に問 「あーあ。英士カワイソ」 は? 「なにそれ」 「だってあんなに一馬にぞっこんなのに当のお前は鈍ちんなんだもん」 「あ? それどーいう意味だよ」 「大切してんのに気持ちわかってもらえてないし。あんっなに愛されてんのにお前はちっとも応えよ 「なんでお前ってすぐにそーやって英士の味方すんだよ。俺のことはどうでもいいわけ? 全然気に 「誰もそんなこと言ってないだろ」 「言ってるようなもんじゃないか」 「ちょっと待てよ落ち着けよ」 「別に取り乱してなんかいないよ」 「だーから。不貞腐れるなっての」 「不貞腐れてなんかいない!!」 バンッて、叩いたらコタツがずれてしまったけど今はそんなことどうでもいいことだった。気が昂っ 「どーでもいいことなんだけどさ。これすげぇ年季入ってるからあんま乱暴に扱うと脚に負担行くん 俺のことよりコタツかよ。 「お前、ホントは俺のこと嫌いだろ」 「は? なにバカなこと言ってんの」 「だってお前さっきから俺に対して冷たい態度ばっか取ってるじゃん」 「そりゃ気のせいだって」 「違うね。だって英士の肩ばっか持って俺ばっか責めて……俺悪者じゃん……」 「……悪者って……あのな、一馬……」 こたつから足を出して、俺の方に向いて正座した結人は、これから説教を垂れるような人の顔をして その真摯な色にふと引き込まれて俺も正座して向き直った。 「前々から聞こう聞こうと思ってたことあるんだけど……お前はいったいあいつのことどう想ってん 「どうって……」 関係と言う言葉に引っ掛かりを感じるものの思い浮かんでくるのは英士の顔、顔、顔……。強引な態 「愚痴ばっかり言ってるけどさ、英士とそういう付き合いすんの本気でイヤだったらもっと抵抗して 「……」 どうしよう。うまく伝えられない。抵抗ならちゃんとしていた。英士の強引さに戸惑いつつ抵抗した 最初からそうだったからかそのあともなんて言うか、……気付くとなんかいつもいつも不意を喰らっ イヤダとか、ダメとかヤメロとか言う間がないんだよ……なんかいつもいつもさ……。 「……俺も確かにマヌケだと思うけどさあいつのやり方、姑息で不意ばっか取るんだもんよ……」 「隙を作る一馬も悪いと思うけど。一回不意打ちを喰らって痛い目を見たら普通学習して次からは用 一つ一つの言葉に、身に覚えがありすぎて反撃する気なんてあれよという間にそがれてしまって耳が 言われなくたって毎回毎回バカじゃねえかって俺だって思ってるよ。簡単に引っ掛かってさ。あっさ その疑問が解けりゃ、もうこうやって愚痴りになんて来ないよ。 ……くそっ……。 「なあ一馬」 不貞腐れてるわけじゃないけどそっぽ向いて黙り込んでいた俺に、食えとでも言うのか籠の中からみ またなんかヘンなこと言う気だ。 くだらないこと言ったら蹴飛ばしてやる。 「ちょっと胸に手を当ててみろ」 「は? なんで」 「いいから。ほら早くやって」 「……こんなことさせてまるで俺に懺悔でもしろって言うみたいだな」 「ちがうって。いやまあ似たようなもんか。あ、もいちょい心臓に近付けて。そう。それでいいよ。 「……答えれないことには黙秘権使うからな。それがダメだって言うんだったら質問なんて一切受け 「使いたかったら使えよ。こっちは聞きたいことがあるからこの場を借りて質問させてもらおうって、 結人は、神妙な顔つきを見せてコホンとわざとらしく咳払いなんてものをしてみせた。 どうせ人の心の中味を暴いていこうと言う腹なんだろう。やることやっといて愚痴ばっか言う俺の本 いいけどさ。どうせ納得のいく答えなんて得られやしないよ。当の俺が山積みされた疑問の上で頭抱 「じゃいくよ。まずはじめにそうだな……一馬は英士のことどう想ってるんだ?」 「物好き、世話好き、悪賢い、図々しい、ふてぶてしい、恥知らず、まぁ簡単に言っちゃえば性悪」 「おま……それ言い過ぎ。いいとこ一個もないじゃん」 「ホントにそう思ってんだから仕方ねーだろ」 「わかった。じゃあ言い方かえるな。好きか嫌いか、ずばりどっちかで答えて」 「むかつくこといっぱいするヤツだけど、頭にはきても嫌いって思ったことは一回もないかな」 「……お前、ホントに素直じゃねぇーな……好きって言えばいいじゃん素直に……」 「あ? 素直じゃねぇーのはお前の方だろ。人がせっかく素直に答えてやってんのに色々ケチつけち 「……えっらそうに……わぁっ! 待った待った!! すいません、ごめんなさい。悪かったです。 素直に従って心臓の上に当ててた手をおろすと、結人はムっとしたらしい口調を慌てて引っ込めて、 わかんないなぁ。なんでそんな聞きたがるかなぁ。俺が英士をどう想ってるかなんて関係ないじゃん。 「えっと、もうケチはつけないから、質問続けてもいいよな」 「いいけど、俺の気持ちなんて知って楽しいか?」 「ばっかだなぁ、なに言ってんの一馬。お前の気持ちなんてとうに知れてるって。なんだかんだと零 は? なんだそれは。ばかじゃねぇの。大きなお世話だ。 「あ。一馬今大きなお世話って思っただろ。それがダメなんだよ。いいか、なんだかんだと言うけど 真面目な顔して人の性格を分析してくれた結人に向けて、俺は手にしていたミカンを投げつけた。あ 「まあ待て待て。そう怒るなって。続きを聞けって」 ミカンを投げつけられても懲りた風もなくそのミカンの皮を剥き始めた結人の態度を見て、俺はこた 「よしよし、聞き分けが良くって助かるよ。……えっとどこまで話したっけ? ああ思い出した。素 「なんで結人にそんなこといちいち答えなきゃいけないんだよ」 「やっぱな予想通りの答えだぜ」 「は?」 「お前ってホント筋金入りの意固地者なのな。でもそれって、突っぱねて振り回されてるみたいな言 「英士のヤツは言い過ぎなんだよ。あんなしょっちゅう口にされたらときめきもなくなるし、ありが 「確かにあいつは少し言い過ぎかもな」 「少しどころのハナシじゃないよ」 「ははは。あいつ、一馬にべた惚れしてっから。マジ本気で好きで好きでどーしようもなく好きみた 「正直うざいよ」 「それでもやっぱり『好き』なんだろ?」 「……」 「ホント、素直になれねぇーヤツだな」 「そういう性格なんだ、仕方ないだろ」 「ま、そりゃそーだ。素直になれなんて一馬には難しすぎる課題だわな。俺だって素直になった一馬 「おい結人。お前さっきから暴言吐きまくってんな。俺にケンカ売ってんのか」 「なわけないっしょ。でもさ一馬」 「んだよ。まだごちゃごちゃ言うのかよ」 「ばーか。ハナシはまだ終わってねぇーんだよ。あと少しだからもちっと我慢して聞け」 えっらそうに。 「お前らちゃんと好き合ってんだから、一馬もたまにでいいからちゃんと言葉にして伝えてやんなき いつになく手厳しい警告を出すものである。軽い口調を装っているものの眼差しはきつい。素直にな 俺は、こたつ布団を肩まで被って、黙ってその忠告を受け止めることにした。 付き合いも十年以上クラスになると、お互いにだけど本人以上に本質を見抜いてしまうらしい。普段 「最後にあともう一点」 ……んだよ、あれで全部じやねぇーのかよ。まだ言い足りねぇってか。 「相手の言葉だとか想いだとかをただ受け入れてるだけじゃコミュミケーション不足だよ。言わなく 不安? 英士が? こたつの卓を見据えたまま、俺は英士の姿を頭に思い描いて見た。あいつがああ ……マジで? あの余裕シャクシャクな面ばっか見せる温和に見えて実は食えないあの英士が? 意識せずしてしてしまっていたらしい百面相を見ていたのだろう結人が、肩に入っていた力を抜くみ 「ちょっ、やめろよ……!」 「や、なんかいじらしくってさ」 「るせぇーよ、ほっといてくれよもうっ!」 「一馬のさぁ、そーいうナイーブな面とさっきまでの意固地な面を見ちゃうとなんつーかほっとけな 「呼び出してやんなよ。つーかこれから会う約束取り付けてやってよ」 誰を、とは聞くまでもないこと。 「せっかくの週末に俺んとこになんて来てしかも携帯の電源切っちゃって、今頃あいつやきもきして ……電源切っていたことまで見通されていたとは。くそぉ……なんかムカツク……。 「ほら眉間に皺寄せてないで掛けてみろっての」 「……」 「これから会おうって一言、それだけでヤツは踊りながら支度始めるって」 バカだろお前。最低。 「ほら素直に手にしろっての」 ちっ。 別に英士の気持ちの上に胡坐をかいているつもりなんてないし、余裕をかましてるつもりだって全然 ……気持ちを受け入れて服を脱ぐだけじゃだめなんだ……。 こたつ布団から抜けると俺は結人に背を見せて慣れ親しんでいる番号をアドレスから探すと、発信を
ねえ、一馬はほんとにちゃんと俺のこと好きだと思う? それとも流されているだけだと思う? 結人は英士がよくこんな風に零すのを聞くんだと、携帯を切ったあとで教えてくれた。
遅れましたが、郭 英士殿、誕生日おめでとうございます。 あなたの幸せを願って。 一馬からのラブコールが無事に届きますように。 有島の脳内設定では、彼らを高校二年生くらいを希望してる模様。かっこ可愛い一馬に胸ズッキュンさ! |