一言もなくただ黙って去っていく背を見送るだけの図。 目が覚めた時、寝汗で身体がぐっしょり濡れていた。目が覚めて少し経ってから、心臓がばくばく騒 嫌な夢だと零したその瞬間寒気が来て、慌てて布団の中に潜りなおした。だけど状況は良くはならな
「須釜、今日、これから行ってもいいか?」 『珍しいですね、真田くんからそういうこと言ってくるなんて。どうしたんです?』 「ダメだって言うんならいい。じゃーな」 『ちょっと待ってください。ダメなんて一言も言ってないでしょう。いいですよ。来てください。 嬉しそうな声が癪に障ったけど、一時間後に行くからと伝えてその足で寄り道もしないで須釜のうち あんな夢を見るから……。夢の中の顔がちらつくから……しょっちゅうちらついてウゼェからだから 脇目も振らずに、行動を起す自分に対して俺はしつこいくらい言い訳をした。ただなんとなくと言う 歯痒い。……そんなことを俺が思うのは、自分勝手過ぎるだろうか。だけど、俺にだってちっぽけな オトコが愛だ恋だって騒いで好きって言う気持ちに溺れてしまっている姿を晒すなんて、そんなのあ 『珍しいですね』 だからなんだって言うんだ。そうさ。会いたい気持ちから目を逸らして俺は今背筋を伸ばしているん 『……待ってますから』
どうか強がる姿勢を、往生際が悪いと言う言葉一つで片さないでくれ。
「そう? 多分乗り継ぎが良かったからじゃないかな。あ、これ、ローソンで仕入れてきた」 「わざわざ何を買って来たんですか?」 「ココア」 「ココア? 随分んとまあ珍しいものを。どうしたの?」 「べつに。なんとなく」 どうせインスタントだ。カップにお湯を注ぐだけで出来上がるばかでも作れるものだ。 「今飲みたいから作って」 「いいですよ。じゃあ先に部屋に行ってて下さい」 「ん。あ。なあ。うちの人は?」 「誰も居ません。みんな出掛けててこの家に残っているのはぼくだけです」 ふーん。簡単に答えて、階段を上がった。須釜の部屋に入るのは10日ぐらいぶりだろうか。かかっ 腰をおろして、脱いだダッフルを膝の上に置いた。戻ってきたら須釜に預けるつもりだ。ふと、ベッ 「それ、クラスの子が撮ったもので焼き増しするからどれが欲しいか選んでくれって、言われてたん 「ふーん。で、選び終わったのか?」 「ええ、一応」 戻ってきた須釜の説明に、疑問が一つ解消された。須釜が撮った写真ではなかったのだ。 「悪かったな、勝手に見たりして」 「構いませんよ」 写真を元に戻した俺は、須釜の手からカップを受け取る。美味しい匂いに鼻孔が膨らんだ。人当たり 「……ぁつっ……」 「なにやってんですか。よくふーふーしてから口つけなきゃダメでしょ」 「……るさい……。須釜が熱くしすぎてるのが悪いんだろ」 「ぬるいお湯だと溶けないんですよ。ほら、ちょっと舌見せて」 須釜の顔が近づいてきて、そのまま顔を覗き込まれた。軽くヤケドしたらしい舌を歯で掻いていた俺 多分このあとあまり構うのはよくないからそっとしといた方がいいとかなんとか言うんだろう。構い 「んー、今はまだ見た目そんなにひどくはないですけど、でもあまり構わない方がいいですよ」 …………ほら、ね。 「痛みとかあります?」 「んー……ちょっとヒリヒリはしてるかな」 「牛乳がありますからそれ少し入れて飲み易く冷まそうか?」 「いいよべつにそこまでしなくて」 「だってその舌だと飲みにくいですよ」 「いいよいいよ平気」 「ほんとにいいんですか?」 「ああ」 「わかりました。あ、もういいですよ」 そう言って手を離した須釜が今口をつけているものは、カフェオレ。最近はそれにはまっていると前 「須釜」 「なんですか?」 目を向けてきた須釜の、カップから離れたその唇を狙って素早く、それを奪ってやった。 「…………」 不意をつかれて奪われてしまった須釜は、案の定、し終えたあと、びっくりした顔をして俺を見つめ 「なんでそんなびっくりすんの」 「なんでってだって……」 「俺から仕掛けるのって初めてだっけ?」 「いえ……何度かはあるけどでもやっぱり珍しいことだと思いますから……」 「俺からされんのってどう?」 「……そりゃ嬉しいですよ」 「ほんとに?」 「ええ」 「じゃあさ、しようって言ったらどうする?」 再び、須釜の目が丸くなった。動揺しているのか唇に手を持っていくと、考え込むような顔をし始め 「誘うのは、初めてだったよなたしか」 一歩踏み出して手首を掴んで引き寄せて、そのままその指先に唇を寄せる。きちんとカットされた縦 「……えっと、……嬉しいんだけど……でもあれだよ、真田くんらしくない。急にどうしたの?」 「須釜の方こそらしくないじゃん。嬉しいんだったら素直に手、出しとけよ」 「そうは言われましても気にもなりますし……だって真田くんからわざわざ会いに来てくれることっ 「別に大した理由なんてないよ。急にさ、会いたくなったんだよ。それだけのハナシ」 ……あーあ。ここに来る前にあれだけアレヤコレヤと言い訳しまくってたくせに結局言っちまったよ。 「……でも真田くんはそれを口にしたりこうやって実際に会いに来ちゃったりするようなそういう性 須釜があいているもういっぽうの手で俺の髪を梳くのを、俺は黙って受けながら、途中から目を閉じ 目を閉じた状態で脳裏に浮かび上がってくるものは、あの整えられた爪。指先だけに近い絵で薄く浮 「真田くん? どうしました? なんか黙り込んでしまったけど気分害してしまいましたか?」 急に黙り込んだ態度を不審に思ったのだろう、絡まっていた指が外されて、隠れている表情を覗こう 俺は覗かれる前に顔をあげて近づいてきていた顔を認識したあと再び自分の唇を須釜のそこに押し当 唇を重ねるという行為は、数を重ねて最近ようやく慣れてきたとこだ。自分から応えるという反応の そんな色気もない『ブチュッ』てーなキスを須釜はからかうこともなく、『教えることがたくさんあ 「……す、が……」 思わず零れた濡れた声に、ぞくりと背中が震える。ウエストにかかる須釜の手のひらが熱くて、俺は 「珍しいですよね、真田くんがここまで甘えてくるなんて」 須釜が触れた箇所から熱が灯り思考がゆっくりと溶け出していく。 「一日に二回も真田くんからしてくれるなんて今日はもしかしてこのあと雪でも降るんでしょうか」 優しいトーンが耳たぶを撫で付けて、さらに俺の思考は蕩け出す。 雪? ああ、そうかも。二月に雪ってよく降るじゃん。冴えるような寒さだったし。降るかもな。 「じゃあ俺がお前を押し倒したら、きっと降るかもよ……」 珍しいこと続きのとどめはやっぱりそれしかないだろう。 ベッドがすぐそこにあるにもかかわらず。 床に押し倒して。 上に乗りかかって。 そして降らせたキスの雨。
「無性に、どうしても、須釜に会いたくなって……」 ちらつく後味の悪い夢の話は内緒。須釜に捨てられる夢を見たんだなんて言ったらいつか本当に起き たかが夢。笑い流せるだけの図太さがあればよかったのにと思う。 「……っ……す、が……」 いつのまにか見上げて見ることになった須釜の顔。肌の上を滑る愛撫の手。流れる微弱な電流に跳ね 須釜がこれまで散々甘い蜜を垂らし続けてくれたから、自分から縋りつくことを俺も覚えた。 須釜が甘やかしてくれなくなったら今度は俺が必死になって甘えるからいい。 逃がさない。手放さないよ。こんな独占欲植え付けられたまま捨てられるなんて冗談じゃない。 「欲しいのは唇だけ?」 首を持ち上げて唇を狙う俺に、太腿をさすりながら須釜が囁く。 「こっち、少しかたちがかわってきてるけどこれはどうするの?」 付け根をなぞる動きに、びくんっと腰が跳ね上がる。背中が小さくドームを作るとするりと腕が入り 「どうされたい?」 そんなの決まってる。 まずはその憎たらしい唇を寄こせ。
「……」 「真田くん、今日は帰らないでこのまま泊まってってよ」 散々啼かされて、乾いた喉で『やだ』と答えると、 「なんで。いいじゃない」 はやっ。 横でうつ伏せていたのがいきなり覆いかぶさってきて覗き込まれながら尋ねられる。 「なんでって、だってもう用済んだし」 会いたかった気持ちはすっかり治まってもう落ち着いてるし。 「それってすごい我侭ですね。でもそれなら今度はぼくのお願いを聞いてくださいよ」 「……今日はもうやだ」 「わかってますよ。だからそばにいてくれるだけでいいんです。まだ、帰したくないんです」 小さな疼きがまだ残る肌に指を這わされて、意識が一瞬浮つく瞬間を狙っていたのだろう。唇を塞が 言葉を自分で封じたくせして肌を指の腹に舐めさせながら答えを要求してくるなんて卑怯だ。 こんな強引なやり方で済し崩し的に頷かせようという腹なんだろうけど誰が頷くかよ。汚いよ。 「……っ」 ちょっ……! あっ。 「っん……」 なんでそこ、触るんだよ……! そばにいるだけでいいって言ったくせに……! あ、ああ……やだ 「あ……す、すが、……や、や、だ……!」 「だって真田くん帰らないって約束してくれそうもないから。それならもう帰れなくしてあげようと 汚いぞ! 「せっかく会いにきてくれたんです。御もてなしはちゃんとしなくちゃ。ね?」 もう十分過ぎるほどしてもらったからもういい!! 「それにぼくがまだ満足してない」 あっ。 「……ちょっ、あ、ああ、……す、が、……す、が、……あ、や、やだって……」 巧みな須釜の手に翻弄されて、気付けば自分から須釜に抱きついていて『帰る』つもりだっのが『帰 「このまま朝がくるまで抱き合っていよう。そしたら明日は一日ゆっくりできるから」 ちょこっと顔を拝むだけのはずが一泊する羽目になり、強気になり始めた悪魔は最後、もう一泊する 「ちゃんと朝までもつように優しくしますから心配はしなくていいですよ」
やばい。須釜がオヤジ化してる。それもエロオヤジモード全開。ショーック!! しかし。須真ならコスプレーもオケーだろと、沸いた頭が唄っております。ガーン。有島本人がやばいのかも。この先須真はどんな路線を走っていくんでしょうか。なぞなぞです。 それにしてもあれです。最初シリアスってるくせに最後これですか……。 しっかり両想いなくせして一馬→須釜っぽいよん。須釜みたくお口が巧くない一馬は一人悶々としそうなので『俺ばっかり』ってのが口癖になってそうだ。可愛い…。苛められてるかじゅまってピカピカ輝いてそうで……ちょっと妄想してみるとやばいです。血圧がマジ上昇します。 |