一週間振りに会って軽く昼飯を食ってこのあとどうするみたいな話をしていた最中に須釜が真面目な 急にどうしたのだろうと思ってまじまじとその顔を眺めていると再び、 「真田くんにお願いしたいことがあるんです」 と言われた。 「あー、……なに?」 数秒後。 俺は固まった。 「ダメですか?」 俺はごくりと喉を鳴らした。 ダメ? イヤに決まってるだろが! ……当然俺は首をぶるんぶるんと震わせてもらった。 冗談じゃない! 絶対にそんなにことに承諾だきるかよ! あとずさった俺の手ががしっと捉まれた。須釜は俺を逃す気なんかないようだ。 ピンチ!! 悪いがこっちも必死だ。 頭と手、両方まとめてぶるんぶるん振った。 否定と拒否。 「真田くん」 うるさい! 「もうそろそろで俺の誕生日なんですけど、それでもダメ!」 ざけんな! 俺の誕生日は三日後だバカ!! お前が誕生日が近いからってそういうことお願いすんだったら俺は自分の誕生日の方が早くやってく マジでざけんなバカ須釜!!
「………………」 須釜がじとっとした目で俺のことを見つめてくる。 睨んでこないとこがらしいが恨めしさがありありと見てとれる。 冗談じゃねぇぜ。 お前の我侭に付き合わされてこうやってお前が望んだ『お願い』を聞いてやったってのにそういう態 「……おいこら」 「なんですか?」 「なんですか、じゃねぇよ! なんだよその恨めしそうな目つきはよ! お願いが叶ったってのに辛 「叶った? ……これで?」 少し大袈裟に肩をすくめるとヤツは手のひらに泡をのせてそれをふっと吹いた。小さな泡のシャボン 「可愛いことしないでくださいよ」 須釜が笑いながら言った。 俺はヤツのその言葉に顔を顰めた。 「うるせぇな。お前がこっちに飛ばしてくるからだろ」 「もっと飛ばしてあげましょうか?」 言うやヤツは湯船から泡をすくい上げ、手のひらにのったそれをふぅーと吹いて宣言した通りたくさ 「よせって須釜!」 「あれしちゃダメこれもしちゃダメ。そうやってダメばっかり言っているとそのうち痛い目を見ます 須釜のその言葉に俺はドキンとして顔を上げた。 湯船のへりの上に両肘をのせてうしろにゆったりと凭れ掛かる姿は優雅だがこちらに向けたその表情 「…………」 いまのこの現実は三十分以上も前に発した俺のあの言葉が引き起こしたことだ。 須釜が作ってくれた昼飯を二人して食い終わったあと、満腹感を覚えると同時に汗ばんできた躯に襟 こっちはなにも考えずに思ったことを口にしただけだったのにあいつは勝手にその言葉に引っ掛かり お願いがあると言い出したのはそれからすぐだ。 『いっしょしてもいいですか?』 ダメですかと次いで問われ当然俺は拒否したさ。 だけどヤツの気迫に押されるようにして力ずくで引っ張って来られて浴室の前で再び固まる俺の背を 先に入っててください。頃合を見てお邪魔しますから。そう言ってこっちの意見も聞かずに出て行っ 逃げ出そうにももうこっちは裸だったし最大の難関はドアの前に居るだろう須釜の存在だった。 振り切れる自信なんてなかった。 抵抗を続ければ廊下で押し倒されそうな嫌な予感もあった。 抵抗がどこまで通用するか考えて『じゃあもうちょっと汗かいてみましょうか』と恐ろしいことを笑 俺がいまここでどうやって足掻こうともそれらは全て須釜の前では無駄な抵抗なんだと知ったね。 それからだ。やけくそで腹を括ったのは。 湯船の中でこっからこっちに入ってくるなよと、先に釘を刺したあの言葉をヤツはきちんと守ってく だけど俺にも羞恥心はある。 須釜が焦れてきていることはとっくにわかっていたさ。だけどやっぱり恥かしさは乗り越えられない 「一緒に風呂に入ってやったんだからそれで我慢しとけよ」 「ひどい人ですよね」 「ぐちぐちうるせーな……俺はお前と違って羞恥心てものが人並み以上にあんだよ!」 「そうみたいですね。まさか湯船がこんなことになってるなんて思いもしませんでしたよ。びっくり 「見られたくねーから泡風呂にしたんだよ!」 「あ。そう言えばこれ、どうやって作ったんです?」 「どうやってって……そこいらにあったシャンプーを借りたんだけど」 「どれですか?」 「そこのピンクのやつ」 浴槽の下に置いたはずのボトルを示すと須釜が『あ』と小さく声を上げた。 「なに? 全部は使ってねえよ?」 「あれ、母のですよ。しかもけっこう高いんですよねあれ。フランス製だったかな? 友人からいた 「うそ」 「ここでウソをついても得なことなんてないですよ。本当のことです」 「まずい……けっこうな量入れちゃったよ俺……」 「でしょうね」 ふっと、須釜がまた泡を吹いた。 「あ、バカよせって! ちょっ、目、目に入ったじゃんかよ!」 「こすっちゃダメですって真田くん。ほらちょっと見せ……」 「わっ! バカお前はこっち来るなって!」 動きを見せた須釜に驚いて背中を浴槽にびたんとつけてしっしと泡風呂を波立てる。 大きく揺れる泡が波打つ間から小さなシャボンを作り出して俺たちの間をのどかに舞い飛び始めた。 須釜がそれを見てにこりと顔を緩める。それを見て俺は反射的に目を瞑った。次の瞬間、ぶわっと泡 「笑ってる場合じゃねぇぞバカ須釜!!」 泡が目に入ると痛いので俺は瞑ったまま怒鳴った。くそっ、これどうすりゃいいんだよ! そうだ! 蛇口だ。水出せばいいんだよ。どこだ捻るとこ……。 「なにやってんの?」 「蛇口だよ。どこだよ……」 「そんなの探すよりこっち向いて。ほら……」 「わっ! バカ! だからお前はこっちくんなって言っただろ!」 顎に触れたのはたしかにヤツの手だ。 「なにもしないよ。泡を払ってあげるだけ。ほらおとなしくして。暴れると泡立つでしょうに」 「っう……」 手のひらがべろんと顔を撫で下ろしていくのに俺は震えた。 俺は須釜の手が苦手だ。あの手が触れてくるとその瞬間からしばらくのあいだ緊張して心臓がどきん 「急におとなしくなっちゃってどうしたんです?」 その言葉にようやく俺は目を開けた。 「……暴れるなって言ったのはお前だろ……」 「ああ、そうでしたね」 「ほら、もうはなせよ。取れたんだろ」 「はいはい」 やけにおとなしく引き下がるじゃないか。らしくもねぇ。 「ん?」 「……な、なんでもねぇーよ……」 拍子抜けしながら須釜のこと見てたら用でもあるのかと言いたげな目を向けられてしまった。とぼけ あいつがこういう顔するときは注意が必要だ。またなにかをしでかすに決まっている。 「ねえ」 ぎゃっ!! まさに俺は飛び上がった。 「なっ、なな、なにしやがる!」 「なにって手が繋ぎたかっただけですよ」 さらりと言うな!! つーか俺が引いた境界線破ってんじゃねえか! 「あーほら暴れない。また泡が飛ぶでしょう?」 「だったらさっさとこの手をはなしやがれ!」 「んー……それはきけない話ですね」 だから!! 見えないからって大胆に握り込むんじゃねぇーよ! はなせ! なんでお湯ン中で手を握り合わなきゃいけねんだよ! 「お前いい加減にしとけよな! とっととこの手はなしやがれ!」 「イ・ヤ・デ・ス」 「お前っ……!」 絡められる指の動きに、早速俺は翻弄される。 恐怖を覚えているのとはまったく違う種の感覚の中での緊張感は急速に神経を細らせ、躯が浸かる湯 歯痒さにも似たじりじりとした感覚と苛立たしさにも似たはらはら感。なにがそんなに不安なのかど 湯船の中で必死に解こうともがく俺。 そんな俺の指をしっかりと握り込んだまま逃すまいと結んだままの須釜。 ダメだ、全っ然解けねぇっ……くそぉ、……。 ついには俺は須釜の顔すらも見られなくってうつむいてしまう。 「真田くん」 須釜が呼ぶが顔は上げられなかった。 「これくらい許してよ。どうせ泡で中の様子なんて見えないんだし真田君もぼくもなにも言わなけれ 秘め事と言う言葉に俺の顔はぼっと赤く火照った。 俺は須釜のように澄ました顔をすることなんてできない。手のひらにこめられる力強さや気紛れに仕 俺は須釜みたく要領もよくないし駆け引きめいたことも苦手だ。 まして人の気持ちをはかるなんてそんなの俺には怖くてできない。 腕一本だけで境界線を破ってそのくせしっかりと指先から気持ちを伝えようとする須釜が怖くもあり なんなんだよ畜生……。 口で言ってくれればまだ簡単に済ませられるのに……こんな姑息な手を使いやがって……! 「お前の顔、エロっちぃよ……」 「そりゃあだって真田くんが真っ裸で目の前にいますから。それにこの泡風呂。ふふ、色々と想像さ 「変態……!!」 あっ、くそっ、指の間に入ってくんなよっ……。 やっ、だから、……須釜……! お前なぁ……! 「好きですよ、真田くん」 ばっ、急にばっかじゃねぇーの! 「ねえ、真田くんからぼくの方へやって来てくださいよ」 だからやらしんだよお前はくそっ……。 「ねえ、来ないの?」 ああ、もう……! 「なんなら引っ張ってあげましょうか?」 くそっ、のぼせそうだ……。 「いきますよ? 大丈夫。ちゃんと抱きとめてあげますから」
須釜がズルイ男だってことは知ってた。 でもまさか……こんな風にくいっと軽く引いただけであとは俺の判断でこのあとどうするかは俺に任 引っ張るって言ったくせにやっぱお前はウソツキだ……。 「どうするの?」 泡が、ふわんと波打った。 須釜の下腹部に、俺が足を乗せたからだ。
さあ須釜、お前はどうする?
久し振りの須真でございます。 とにもかくにも2003/08/20 真田一馬様、お誕生日おめでとうございます!! HAPPY BIRTHDAY!! 果たして間に合うのか!? 焦り捲くりです。 ほんとは郭真も若真も仕上げたかったです。 でも一日も遅れることなく本日にアプするには時間がナッシング! とりあえず本日は須真でお祝いしたいと思います。 八月いっぱいは自分の中で祭りを開くつもりでおりますのであと二本、がんばってみようと思ってます。
……誤字、ヘンな言い回しは……落ち着いて見直したので多分、ないはず……? これでひとまずほっ……。 |