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 目の前の、ちから無く垂れ下がる手を握り傷を負ったその手のひらに頭を垂れてキスを贈った。

 「…十代目」

 ――…オレはあなたを守れなかった…。

 「…十代目…」

 すみません――……独りで逝かせてしまいましたね…。

 「――…十代目…」

 ――……もう、ほんとうに間に合わないのでしょうか…。

 「…ほんとうにもう、ダメなんでしょうか十代目…」

 目を…開けましょうよ十代目。

 笑いかけてくださいよ…。

 オレを呼んでください。

 「十代目…!」

 重厚な石の壁に吸われ、もはや触れたところで指で確かめることも適わない愛しい人の躯から飛び散った血を撫で、絶望とわずかな希望に縋りつこうとする心とがぐちゃぐちゃに揺れ出すと一層悲しみも深いものとなり、愛しい人の鼓動無き胸に縋りつくと同時に泣いてしゃくり上げていた。

 「…十っ…目…!」

 ――…十代目…! ダメですって…こんなのイヤです…! オレはイヤです!

 もう二度と我侭は申しません。あなたが快く思っていないことも決してしません。無茶なことも致しません。あなたの言葉には今後ずっと従うと誓いますから目を開けてオレを映していただけませんか。

 あなたにお聞きしたいことがあるんです。

 ものすごく知りたいことなんです。

 オレはこの光景を生涯忘れることはないでしょう。あなたに問うこの謎も同じです、この胸に残るものです。そう、まるで棘のようにね。

 きっとこのあとにも何度となく問うことでしょう。

 ――…ですから十代目、教えていただけませんか…。

 あなたのこの手のすぐ近くに転がったタバコ――…これは…誰のものなのですか?

 「…代、目…」

 こんなものを吸う時間と余裕があったのならなぜ、もっとはやくに呼んでくれなかったのですか!

 こんなものを口にしたって気休めにもならなかっただろうに…。あなたならわかっていたはず!

 親指にこんな火傷の痕なんか作って…。落としてしまったんですね。それを必死になって…拾われたのですね。こんなことが出来る余裕があったのでしたらオレを呼んでくださればよかったんです。こんな、こんなに傷ついてしまって! 萎えていっただろう気力を絞ってこれが最期にしたかったことだなんて言わないでください…!

 「…じゅっ、だ…っ…!」

 なぜなのですか…!

 二日前にオレたちは電話で話しましたよね? 無事に帰ってくるようあなたはおっしゃった。用事なんかとっとと済ませて早く帰ってきなねとも言ってくださった。そのあなたがなぜこのようなところで血に濡れているのですか。

 あなたはオレを出迎えてくれなくてはならないのですよ?

 オレ、帰ってきましたよ?

 …十代目…。

 「…こんなのってないです…」

 十代目はよくおっしゃってたじゃないですか。
 『オレは大丈夫。そんな簡単にくたばったりなんかしないよ。オレはね、キミの身を案じながらキミが帰ってくるのを待ってなきゃならないんだよ。だからキミは必ずオレの元に戻ってこなきゃならない。オレをずっとずっと待たせたままなんてのキミだって嫌だろう? オレも待ち人現れずなんてのは好きじゃないからね。だから約束しよう。キミを見送ったオレは必ずキミを出迎えるよ。必ず、だ。そしてキミも見送られたなら必ず帰ってくるんだ。必ず、だ。オレも守る。キミも必ず守れ。いいね?』
 あなたの傍を離れなきゃいけなくなるたびに不安になったオレをそう言ってはあなたは宥めてくださった。
 初めておっしゃられたのはイタリアに来て一年もしない頃でしたね。
 第一回目にしてオレは一字一句零すことなく胸に刻みつけたんです。

 「必ず守るって言ってくださいましたよね?」

 オレ、嬉しかったですよ。
 
 だってあなたからしてくださったんですから。

 「なのに…」

 あなたは破ってしまわれた…。
 
 「必ず守るっておっしゃったのはあなた自身なのに……守ってくださいよ十代目…」

 ――オレはまだあなたに伝えたいことがたくさんあるんです…。

 なによりもあなたとまだまだ一緒に居たい。

 あなたを失いたくない…。
 
 ――……呼んでください…。

 ここに居ますから…。

 愛しているんです…あなたを…十代目…。

 

 

 


END
(06.07.21)

 


 

ボスの死体を見つけるのは絶対、獄寺であって欲しい。そんでもって獄寺のポジションは、デキていなくてもデキていても、念願叶ってボスの右腕ってことで。
なんていうか、たとえデキていたって愛情のベクトルは獄→ツナであることを希望。

沢田綱吉が死ねば獄寺は、泣いてその骸にすがるはず。
近くに他の守護者たちがいたって、きっと人目もかまわず泣くだろう。

そばに転がっていたタバコは最期に誰を想っていたかを知らせる、ツナからのメッセージ。
自分の元に一番に来てくれるのは、獄寺だと信じて疑わなかったツナの心を知って、もっと号泣すればいい!

うちのツナはタバコは吸わない。そのツナが虫の息でそれをくわえたのは、獄寺に別れを告げるためだ。だって獄寺は吸う人だから、きっと彼ならわかってくれると、うちのツナだったら思うと思ったのだ。その愛情がどけだけ残酷で獄寺を傷つけるかなんてことはツナは頓着しないよん。言葉では残せないメッセージを遺したい一心で、ごめんねとか謝りながらも自分の中にある想いを優先して獄寺を想いながら逝くんだよん。