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 キミを失ってしまったなら、誰が進む道を示してくれるの?

 オレはもう弱くはないけれど、ダメツナでもないけれど、それでも隣に居てくれる人を失えば途端に
オレの周りは闇となるだろう。

 『十代目』

 キミは知らなかったの?

 キミの声が、オレを呼ぶその声が足もとを照らしてくれていたんだよ?

 わざわざ手を引かれなくたって一言、聞き慣れたその名を呼んでくれればオレは臆することもなく進
めたのに。

 それなのにキミが居ないってのはどういうことなんだい?

 昔、オレによく言ってくれた言葉があったよね?

 覚えているかい?

 キミの口ぐせみたいなものだったんだよ?

 『オレが守りますから』

 そう、キミはよくそう言って何度となくオレを危機から救ってくれたんだよ?

 あろ頃は確かにオレは今とは違って弱くて、意気地なしでダメダメだったけど、それでもキミはバカ
にはしなかったし、見捨てることもしなかった。

 『十代目、下がっててください!』

 『ここはオレに任してください。大丈夫、あなたの命はこのオレが命にかえても守りますから』

 『十代目、いいですか、オレが合図を出したら走ってください。いいですね、いきますよ』

 『十代目!』

 キミの背中はいつだってオレの盾だった。

 キミの腕や手は光の道だった。

 キミの呼ぶ声は力強くて、どんな窮地に追い込まれたって絶望を見たことがないのはキミのお陰だ。
今にもぽっきり折れそうなヤバイ状況になってもキミが呼んでくれればそれだけでオレは拳を握ること
が出来たし、絶対の自信なんて持ったことなんてないのに、それでもキミがオレを呼んでくれたから、
キミがオレを信じてくれていたから、だからオレは逃げ出さずにここまで戦ってこれたんだよ?

 知ってたかい?

 キミはいつだって最終的には戦わざるを得なかったオレのカンフル剤だったんだよ?

 オレを見捨てずにいつまでも変わらずにそばに居てくれるキミの存在が、言葉が、…オレを支えてく
れていたんだよ?

 ボンゴレの名前なんかよりもずっと支えに、…なってくれてたんだよ…?

 ねえ、知ってた? キミはね、オレの希望だったんだよ?


 「なんてツラしてやがる」

 リボーン…。

 「来い」

 「っ痛!」

 「引き摺られたいのか、担がれてえのかどっちだ」

 「…足が…」

 ――…ダメなんだよリボーン。オレはここからは離れられない…。

 イヤだ離してよ――…ここを離れてどこかへ行くなんてことは出来ないんだよ…。

 「ボスだろうがてめえは。なのになに堂々とこんなとこで腑抜け面を晒してんだ。みっともねえ」

 ――…いいよ。みっともなくたっていいよ。オレにはもう――…無理だ。…ほかのことに心を配って
いる余裕なんてもうないよ…!

 「来い」

 担がれて放り込まれた先は人気なんてまったくない、処置室。

 リボーンの手配でか、それともたまたまなのか。どちらにしてもオレにとれば長居は勿論したくない
し気持ち的に這ってだって元居たあの場所に戻ってしまいたいくらいだ。

 「そんなに世話を焼かれたいか」

 胸倉を掴まれたのは久しぶりだけど、手加減なんて一切されてなくて相変わらず容赦はない。

 焼かれたいのかと、聞きながら頭を洗面台に押し込むのってどうなの? オレの答えなんて聞いてな
いのになに勝手に世話を焼いてくれてんのさ。

 「ヒバリが屋敷に戻っているはずだ。お前もすぐに戻れ」

 だから!

 戻れとか言いながらそうやって髪の毛掴んで人の頭押さえ込むのやめてよ!

 黙って聞いてりゃさっきからなんなのお前!?

 なに当たり前のようにオレに命令してのさ!?

 「聞いてんのか? ボス」

 オレはもう我慢することが出来なくて、後ろに立つリボーンの脛を水に濡れる視界の中からでも確認
を取ってから、正確に狙いをつけて蹴りつけることを謀った。

 「ほぉ。牙はまだ抜かれちゃいねえみたいだな。安心したぜ。あんな腑抜け面を堂々と晒すようなク
ソボスに育てた覚えはなかったからな、お前が項垂れたままになってんだったらこいつをぶち込んでや
るところだったぜ」

 こいつと、こめかみにごりと押し付けられたものはいちいち目で確認するまでもなく、リボーン愛用
の銃。

 しかもご丁寧にこいつは、周りに気づかせることなくターゲットを静かに闇に葬り去ることが可能な
それを選んでいやがる。

 さらに憎らしいことにまるで本気だぞと言わんばかりにその一瞬、トリガーにわずかだが力を込めて
いやがった。

 なんてヤツだよ。

 いったいいつ、撃鉄を起こしていやがった?

 もはやダメな男だと見切りをつけたなら、いつでも引き金を引けるようにってか?

 お前は、冷静なんだな。

 恐れやしないけどお前らしくて腹が立ってくるよ。

 もしオレがあのまま打ち沈んで反撃に出ていなかったらこいつは本当に引き金を引くつもりだったの
だろう。

 はは…。

 そういやこいつは昔っから弾を撃ち込むときにためらったりなんかはしなかったっけ。

 突きつけられた銃口から発射されるのは、実弾だというのに迷いもしないなんてな、スゴイね、リボ
ーン。

 お前がもう撃つのは小言弾でも死ぬ気弾でもないってのにね。

 引き金を引けば確実にオレは殺されるというのにね。

 

 ――…リボーン。

 お前は昔と変わらず強いね。

 相も変わらず謳われているものな。最強のヒットマン、と。

 殺し屋なんてそこいらにごろごろと転がっているというのに、それでもお前はいつまで経とうと最強
の名を返上したりはしないのな。長い間、何年も無敵でいられるなんてやっぱりお前、化け物なんじゃ
ないの。

 でもお前少しは他人を理解することを覚えた方がいいよ。

 人間てね、弱いんだよ?

 臆病者でもあるんだよ?

 どんなに他人には冷酷なヤツでも自分には甘いし、他人の死には痛みも罪も感じないくせにいざ自分
が死ぬときになると浅ましいほどに請うんだよ?

 助けてくれ、とね。

 死にたくない、とも縋ろうとしたヤツもいたよ。

 

 リボーン。

 人間てのはね、怯えてしまう生き物なんだよ?

 自身の死に際だけじゃなく、なにか大切なものを失うかもしれないというときにも人は崩れてしまう
ものなんだよ?

 「そうやって睨みつけてる気力があるんだったらいつまでもこんなとこで油なんて売ってねえでとっ
とと屋敷の方に戻れ。お前がしなきゃいけないことはほかにあるだろうが」

 「嫌だ。戻らない」

 「聞き分けのねえガキだな」

 「ガキで結構」

 「ダメボスにゃ用はねえぞ」

 「撃つなら撃てよ。いまのオレはお前の言うことでもきかないからな!」

 ごりと、押し付けられた銃口にオレは息を大きく吸いこみ、ごく自然に目も閉じた。

 撃たれたってべつにいいよ。

 カレを残したまま戻ってもやることなんてないんだから。

 もしもカレが天に召されたなら、そのときはさ迷いはしないさ。

 カレが遺したダイナマイトも抱き、俄然勇んで復讐に向かおう。

 光でもありもう一つの命でもあるカレをオレから奪った人間には、――……そうだね、遠慮なんかし
ないから、数十発もの弾丸を撃ち込んでやるさ。

 だけどまだカレの命は奪われてはいない。

 とても危険ではあるけれど、まだ、カレの魂は神の元へは召されてはいない。

 だから――。

 だから、なんの役にも立ちはしないだろうけど、それでもそばに居てやりたいんだ。

 そばに居て、祈りを捧げていたい。どうか、オレからまだ奪わないでと。その願いが適うまでずっと、
カレのそばで。

 

 「お前の為に命を捧げようと覚悟を決めているヤツはあいつだけではないんだぞ?」

 
 知ってるよ。意外と多いんだよね、威厳も風格もないのにそんなオレを慕ってくれてる人間。

 オレも彼らを愛しているよ。だって彼らは見返りを求めたりしないんだもの。だから彼らの気持ちは
とても切なくなるんだ。切なくてそして、愛しくてたまらないんだよ。

 でもね。

 ドン・ボンゴレは、彼らにとっては唯一の存在なのかもしれないけれど、オレにとって唯一の存在は
カレ、だけなんだよ。

 彼らを守りたいと思うその気持ちに偽りはないよ。

 だけどね――。

 だけどね、リボーン。

 ――……オレに進む道を示してくれるのは彼、だけなんだよ!

 ねえ、わかるかな?

 愛してくれる人はたくさんいるけれど、オレを歩かせてくれる人は、ただ一人だけなんだよ。

 カレ、だけがオレを導いてくれるんだよ!


 「ファミリーに入るということは覚悟をも決めているはず。それなのにお前が膝をついてどうする?」


 ――……言わないで……それを言わないでよ…!

 オレだって当たり前の幸せがどれほど尊いものであるかをこの手で銃を持ったときにつくづく知った
よ!

 引き金を引いてもう戻れないことも悟ったし、同時にこれから進む道がわずかな先までしか光の届か
ない世界なことも知って、そのうえで自らの意思で一歩を踏み出したのだから、オレだって覚悟くらい
出来ていたさ!

 

 だけどリボーン!

 ――……だけど想像していたのと違うんだ!

 想像したときはこんなに悲しくなんかなかったよ!

 生きてる意味がないなんて、そんなことは思わなかったのにいまはダメなんだよ!

 道が、どこへ進んでいいのか、道がまったく見えないんだ…。

 暗いんだよ…自分の躯だけがぽわんと、闇に浮いているんだ。

 こんな世界、早く抜け出したいのに道が見えないんだ…!

 

 リボーン…。

 カレはオレを導く光なんだ…。

 ――…光を失った世界がこんなに闇になるだなんて知らなかったんだ。


 ……怖いんだ。

 
 ――……カレを永遠に失うことになったらと考えると震えてくるんだ。

 立ち上がるちからなんてどこにもないんだよ……。


 覚悟はしてたよ、でも、――…現実になったらダメだった。


 ――ねえ…。

 カレは光なんだよ…。

 失うことを恐れるなと、言わないでくれよ…。

 ――…オレの世界はいま闇なんだ。真っ暗でなにも見えないんだよ。

 光がなくても平気だなんてことは――…言えない…。


 なにをも恐れぬのが求められる強さだと言うのならオレは――……弱いままでもいいよ…。


 リボーン。


 ここに辿りつくまでのあいだお前からは多くのことを学んだ。恨んでる気持ちも消滅なんかしちゃい
ないがそれでもこの心の半分以上でオレは感謝してるよ。

 十代目となったあともお前が変わらずにそばに居てくれたこと、誰よりもこのオレ自身が安堵したし
オレが十代目である間はお前にもそばに居てもらうつもりだった。

 リボーン。オレはね、お前を引き止める手段の一つとして泣いて縋る手もありだと考えていたんだよ。

 お前には小細工は通用しないからね。だから縋ることにも躊躇いは全然ないんだ。

 そんなお前にだからウソはつかないよ。


 さすがに今回だけはお前の言葉に従えないよ。

 ダメツナと蔑んでくれていいよ。

 仕方ないもの。だってオレ、カレが目を覚ましてくれるまでここを離れないって決めたんだ。脅して
もダメだからね。全然怖くないんだから。

 ボスの資格がないって言うんなら…うん、ないんだろうね。お前の言葉に耳を傾けられなくなってん
だからオレは愚か者になってしまったんだよきっと。

 殴りたい?

 いいよ。
 
 そんなくらいじゃあ足りない?

 じゃあ蹴れば?

 ダメダメだって思うんだったら――…見捨ててくれていいよ。今までほんとうに世話になったね。感
謝してます。それなのに期待に応えられなくてごめんな。

 リボーン。本当にごめんな。

 ごめん、ごめんね。

 オレ、本当にいまはここを離れたくないんだ。

 わかって。お願いだよ。

 お願いだからわかって。

 オレをここから連れ出そうとしないで…お願いだよリボーン…。

 動けるようになったらまっすぐにお前のとこに謝りに行くからさ。

 だからリボーン…。

 お願いだ、わかって。

 

 

 


END
(06.07.21)

 


 

獄寺氏、急襲されて三発の弾を食らう。

一発は貫通しているものの、二発が体内に残こされており、ただ今オペ中。

運び込まれたときには既に意識がなく、血圧も急降下してて危険な状態であることをツナは意識のあった部下から聞かされ、神に、彼の無事を祈った。

十代目を守ってきた彼は盾であったと同時にツナを支えてもいてくれた人。

絶体絶命なときにこそ十代目と、呼ばれることをツナは願う子。

オレがあなたを守りますからという言葉を聞かされたらツナは奮い立つよ。

ツナにとったら光とも言える獄寺。彼が三途の川を渡りかけているなら必死になってその名を呼ぶだろう。そんなに信じてもいない神にだってこのさいだ縋るさ。

リボーンの脅しがなんぼのもんじゃ。殺されたって屈しないぞ!と是非とも抗ってもらいたい。うむ。