「日吉、お願いだから噛むなよ……?」
流れに任せて目を瞑った唇の上に鳳がしたのは、そっと触れるだけのキス。なのにその瞬間から鼓動が速くなる。他人とこんなに間近で肌を合わせるのはこれが初めてで、こういうときどういう気持ちを抱いてしまうものなのか情報がなくてうまく表現出来ないのだが、俺はいまもしかしたら欲情しているのかもしれない。 ジェットコースターに乗ったときに感じたあのドキドキ感にも似ているけれど、いまここにスリルなんてものはどこにもないわけで。そういう環境の中でこういう昂りを持つってことは、つまりはそう言うことなのだろう。でなけりゃ……こうやって自分から抱きついたりなんかしないだろう……。 「日吉?」 「るせえ……。いいからお前は黙ってろ。いいか、俺はほんとになにもしないからな。あとで文句なんか言ってみろ、ぶっ飛ばすから……」 「やだなぁ、文句なんか言うわけないじゃん。なにもしなくていいって言い出したの、俺だよ? あ。でも一個お願いしてもいい? たまにでいいからこうやって俺のこと抱き締めてくれる?」 「どさくさに紛れて間際んなってから注文なんかつけるな。図々しい……」 「いいじゃない。ね?」 照明のせいなのだろうが、前髪と睫毛の落す影が幾重にか重なり、鳳の顔に不思議な模様を作りあげている。その怪しい影を作る睫毛が瞬くのを見たのを機に、首に腕を回してヤツが願った通りに引き寄せてやった。 始めてもいいぞと、合図みたいなつもりで行動したのだが手が腰に回されたと言うことは、うまく伝わったと言うことなのだろう。 「ッ……あ……」 ウエスト辺りをさすられるなんてこと、むろん初めての体験だ。そんな場所に手のひらのぬくもりを感じるのも生まれて初めてのこと。 「日吉ってさ、……もしかしてくすぐりとかに弱かったりする?」 「……知るかっ……よ……。お前、いちいちうるせえよっ……」 頬を両手で挟み込んで、口数の多いヤツの唇を何度も何度も啄ばんでやる。お喋りされたって困るのだ。 「ね、日吉。腰、少し上げて?」 口づけをねだるような行動に出ているあいだずっと、太腿の辺りに鳳の昂りを感じていた。もうそんなことになっているのかと、そんなことを頭の片隅で思っていたが、実際にこうやって言われてしまうとやはり躊躇ってしまう。が、躊躇いがちにでもなんとか尻を浮かせると、 「っ……なっ……」 一気にスエットパンツが引き下ろされ、 「んっ……ああっ……」 手でそろりと昂りを撫で上げられて、初めて他人の手に触られた俺は跳ね上がるみたいにして大きく背を反った。 「ふっ……あ、ああっ……」 なんなのだろうこの感覚は。なぜ、弄られる度にこんなに腰が揺れてしまうのだろう。こんな重い疼きは、自分でしたときにはなかった。それだけじゃない。まるで指の動きに合わせるかのように喘いでもいるし……いつもはこんな風なことないのに……。 「あっ……! っ……鳳っ……!」 「うん。こっちの方が気持ちいいだろ? どう?」 耳たぶが甘噛みされ、昂りを扱かれ、囁かれた。下腹部に押し付けたまま根元からすられるなんてこんな行為自分ではしたことがない。 「ど、気持ちいいだろ?」 「は……っ……」 このまま握り潰されるんじゃないかと不安になってくる程ぎゅっと握られて、俺は声もなくぶるりと躯を震わし、鳳のその手の中にとろりとしたものを吐き出した。 息も整わぬ俺から上体を起こしたヤツは、手際良く着ているものを脱いでいく。裸になると、黙って見つめる俺にこんなことを言った。 「大丈夫。日吉のはこれから俺がじっくり脱がしてってやるから」 その言葉の通り、貪るような口づけを施されながらシャツが捲られるとあれよと言う間に首から抜かれ、半裸なままで胸の突起部分が転がされる。 「は……あ……っ」 嫌嫌をするみたく首が振れるのは無意識なのだから仕方がない。 「く……うっ……」 首筋に唇が埋まり、そこかしこがきつく吸い上げられていく。 「ふ……くっ……」 いささかしつこ過ぎやしないだろうか。そんな吸ったら……跡がいっぱい残るじゃないか……。生活に支障が出るのはマジで困るぞ……。 「……な、鳳っ……跡っ……残すなよ、……おいっ……」 「わかってるよ」 「あっ……だからっ……ちょっ、痛いって……いやだっ、ちょっ、……鳳っ……!」 鳳は意地悪だ。唇は下へ下へと下りてきたけど今度は突起が吸われて、文句を言うとわざと噛みやがった。 「おいっ……聞けよっ……痛いんだって……それ、も、やだ……。っ……! ちょっ……! 待てよっ……よせっ……! 鳳っ……! あ……っ!」 声は無視され、焦る俺には見向きもしないでそのまま脇を滑って下りてゆき、やめさせたかったのにとうとう臍に辿り着いてしまい、俺は反射的に膝を立てようとした。が、ヤツの足が既に俺の足のあいだに入り込んでいて、わずかに身じろげただけだった。 「ね日吉。もう一度腰上げて?」 俺は黙って指示に従った。 浮かせると、その腰の下に手が滑り込んできて剥ぐみたくして一気に引き下ろされてしまいついに俺は全裸にされてしまった。 「つめ……て」 鳳のヤツは全然平気そうにしているけれど、不意に晒された外気に思わず俺は零した。ああ、ほんとに床の上なんだと、肌寒さに改めて思ってしまう。 「え? そんなに冷たい? でもいまだけだと思うから。そのうちにあったかくなってくるからさ」 「……そうかよ……っ……あ……くっ……」 勘弁してくれっ……! 不意に昂りを含まれ、尻の筋肉も驚いたのかきゅっと締まり、連鎖で腰まで跳ね上がった。 信じられないよっ……! 「は……あ……っ……やめ……ろっ……鳳っ……く……んんっ……」 舌と歯で執拗に攻められて、とろりと蜜が零れてくるのだろう。舌で器用に円を描くように先端のそれが塗り広げられていくのがわかり、戦慄が背筋を駆け上った。 「く……!」 敏感になっている先端部分が舌で突付かれ、すぼめるようにして吸われると、俺はびくんと、腰をうごめかせた。熱い舌の感触を受ける度に零れそうになる声を殺し、首を露にして仰け反るが、自分ではどうしようのない呻き声のようなものは間断なく漏れてきていた。 苦しい……。 息が、……うまく出来ないっ……。 「あっ……お、とり……」 まるで確かめるようにゆっくりと往復するのに、俺はイヤだと首を振った。 だって、鳥肌が立ってくるのだ……。 「なんで? 気持ちいいだろ?」 「よくっ……ない……全然っ……よくな……いっ……あ……」 鳳の手が胴に添えられ、するとヤツはとんでもないことを口にした。 「……結構もう辛いでしょ? このままイっていいよ」 冗談っ……! 出来るかよそんなマネっ……! て言うかなんで咥えたまま喋るんだよっ……! 当たるじゃねえかよ歯がっ……! くそっ……!
「……は……っ……あ……あっ……」
イヤだ……! っ……!
「ふ……っ……」
「ほら、我慢なんかしなくていいから……」
5/2のスパコミにて発行します鳳若の『キミとの距離』から一部抜粋してきました。 とりあえず、この二人の初エッチねたでござじゃります。チョタ、念願成就。わーおめでとう。乾杯! や。若は痛かったのだろうけどね。でもラブハッピーだから。 それにしてもチョタったら甲斐甲斐しい。若が羨ましい。うん、ホントいい子に惚れてもらってよかったね。 とにかく寸止めでなくて、マジ突っ込みさせられて、いやーよかった。 (04.04.15) |