<遺伝について>

ダックスの人気の理由である毛色はもちろん、体型・性格など「遺伝」に関わる要素はさまざまです。ダックスの身体のサイズでも、スタンダード・ミニチュア・カニヘンと、3種の分類認定がされています。これははじめからそのような固体が存在したわけではなくて、同胎のなかから選ばれ、その仔からさらに繁殖し、サイズを固定させていったのです。このことからもわかるように、同胎であってもサイズの「バラツキ」は避けられないものです。これを可能な限り避けようとするとインブリード(濃い血縁の交配)など、繁殖の結果が比較的わかり易い方法が選択される場合が多くなります。優秀なタイトル犬はその血を絶やさずに、さらに次世代に高めようとすると、他の優秀な血を入れるか(アウトブリード)、さらにインブリードを重ねるかになると思います。しかし、アウトブリードはたとえ優秀な血であっても、合う血かどうかも関係して、繁殖の結果が不確かな要素が出てしまう可能性があります。これらの選択が、繁殖者の経験により結果が左右される部分となるのです。

繁殖と遺伝は、複雑に融合したテーマです。犬種としての認定基準にすべて合致するような犬を作出するためには、繁殖するベースとなる犬も厳選された犬が必要です。「家の仔はカニヘン登録なのに大きくなっちゃったわ」とか、「○○kgになったからもうミニチュアじゃないの?」なんて、言われる方も少なくありません。たしかに、犬種認定基準からは外れた愛犬でも血統書では間違いなくカニヘンであり、ミニチュアなのです。これが「シヨー・クオリティー」と「ペットタイプ」との相違点になるのです。前者はあくまでも「認定基準」を重んじ、後者は「愛玩」を重視(毛色等)して繁殖された犬たちなのです。まったく別の犬といっても過言ではありません。ですから、「私の○○○ちやんと、貴方の○○○ちやんが結婚したら、○○カラーの可愛い仔が出来るはずだわ」は、ある程度の知識があれば、おおむね正解ですが、ペットタイプからは「シヨー・クオリティー」の仔が産まれる確率はゼロに限りなく近いのです。さらには、「私の○○○ちやんと、貴方の○○○ちやんが・・・」も知識を持たずに行ってしまうと、予想に反した悲しい結果になる場合もあって注意が必要です。

他所のブリーダーさんでこんな例もあったそうです。「家の仔はブラックタンなんです。○○さんのご愛犬もブラックタンだから大丈夫ですね?」と、ご相談があって、血統書を見せていただくと、オスの両親はブラックタンとシルバーダップル、メスの両親はシルバーダップル とレッドだったのです。後日、そのオスを見せていただくと、頭部にほんとに小さなマークがあり、さらに詳しく調べると、ところどころに小さなマークを発見。メスはもう明らかにシルバーダップルとしての特徴が腰のあたりにあったそうです。この交配ではWダッププルとなりますから、産まれてくる仔に何らかの障害が生じる危険性があるので、飼い主さんに理由を説明して繁殖を断念させたそうです。繁殖を考える場合「血統書」だけに頼らず、知識のある経験者に犬を見てもらうことが安全です。シヨータイプは「クオリティー」のために管理された血で、ペットタイプは「愛玩」のために管理された血であることを忘れないことです。どちらも繁殖に細心の注意が必要なのはかわらないのです。

別項で書かせていただいたことがありますが、「性格」がほんとうに「遺伝」するのかは、いまだに私的に結論がでていません。盲導犬などの「使役犬」の適正をはかる場合にも、優秀な犬の同胎がすべて合格にならないことからもわかるように、性格に関して遺伝性は低いと考えざるをえません。無駄吠えしない良い犬から、吠えまくりのとんでもない仔(笑)が産まれるかもしれないのです。ただ、使役犬の場合には、後の訓練の入りかたなどによっても「素質」が問われますから、産まれたままの性格だけでは適・不適の判断はできないそうです。私の愛犬バロンも、お父さんが優秀な警察犬でしたから、さぞかし優等生チックな良い仔だろうなと、ワクワクして家に来る日を楽しみにしていたのですが、いざ来てみると、とんでもない不良幼犬で、一夜のうちに玄関にあった靴は破壊されておりました(大泣。それからは聞くも涙、語るも涙の物語で、彼が日本の警察機構を破壊するのではないかと心配しました。その問題児が今はけろっとおすましで、威風堂々として「俺がやらなきゃ誰がやる」なんて言いそうなぐらい立派になっております。もって産まれた「性格」と後の「性格」とは、「繁殖」と「遺伝」と同じ予想できない領域があるのではないでしょうか。「無駄吠えしないパパの仔です」のキャッチコピーはとりあえず私は信じることはできません。それよりも、手もとに来てからの問題の方が大切だと思います。「遺伝」は繁殖を考える場合と、愛犬になってからも、何かに悩んだ時に気になるものです。ただ、先天的な疾患や体質以外の、とくに「性格」については「遺伝」だとあきらめることはないと思います。

これから仔犬を譲ってもらう時に、鼻・爪・パット・ヒゲなどの色素の状態や、足の位置や角度、姿勢など、遺伝的なファクターが影響することには、慎重なチエックは大切なことです。カラーによっては、色素がのりにくいパターンもありますが、繁殖者にその理由などを遠慮せずに聞くことです。「遺伝」は、その仔が産まれるまでのすべての情報が血にあるのです。良くも悪くも受け継ぎ、そうすることによって「命」をもらったのです。遺伝させたい部分と、消したい部分、その目的を完成させたり、犬種を固定するためには、数えられないほどの不完全体(経過)が存在します。ピラミッドの頂点に君臨するチヤンピオンドッグの下には、選定基準には達しないけれど、かわらない「命」をもった犬たちがいるのです。そう、貴方のかわいいご愛犬もそのピラミッドのどこかにいます。そんなことはワンコにとって、ビーフ・ジャーキーほどの価値もないことですが・・・

次回は<ワンコの退屈>の予定です。

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