<ワンコの成人式> 

私も遠〜い昔、二十歳をむかえて「成人式」なるものを経験したときもありました。若さというモノは恐ろしいもので、当時を思い出せば赤面することばかりです。若さと幼さは、同じ不完全性の美をもっていますが、どちらも愚かで頼りないモノでもあります。成人すれば、トムソーヤのような自由も、親の保護もなく、少年・少女が二十歳を過ぎたということだけで、重い定めを強制的に負わされる、運命の日を受け入れなくてはなりません。これは日本だけではなくて、祝い・飾っての成人の儀は、それこそ裸族の「泥と鳥の羽根」の装いも、最高級の西陣織でも同じ風習であり、目的(義務・責任)と源(体内の衝動)も同じなのです。そんな新成人達が身を飾るように、犬も身体を飾るときがきます。成長期がそろそろ終わりを告げて、体のサイズ変化よりも骨格・筋肉・毛質(色・量)の充実にシフトされていくのです。同性に対する主張と挑戦、存在意識の高まりで他犬に攻撃的になったりもします。オスの場合にはそれにプラスして、テリトリー(異性のことも)の主張が激しくなってきます。「飾る」ということは、細かく解析すれば、この「存在意識の高まり」による「自己主張」からのものです。人と同じように犬も、成熟すると「自意識」が強くなってきます。どちらも、生きるための本能のメカニズム(衝動)によってそれはおこるのです。新成人たちが、お酒を飲みすぎて「おいた」してしまうのもこれでしょうか?(^^;....

「犬の一才は人間の年齢に換算すると。。。」
たしかに、生物としての比較は単純にそうかもしれませんが、実際に多くのワンコたちと暮らしていると、納得できる部分と、そうではない部分を感じることがあります。犬たちの性格や体質の個体差も当然ですが、飼育環境や飼い主との問題が精神的な成熟には大きく関係するように思えます。犬の世界は、基本的に強者が有利です。同胎の兄弟であっても体格や、乳房を独占する腕力も格差があり、母犬に任せきりにすれば、その格差は益々ひろがる傾向にあります。でも、繁殖犬の場合は、すでにここから人間(飼い主)が介入することになります。兄弟のなかで授乳の下手な仔を優先的に飲ませ、乳そのものが足らない場合には人の手で授乳まで行います。しだいに体格差もなくなり、時には形勢が逆転することすらあります。繁殖者は仔犬に対して、母犬より色々な意味で、深く影響を与えているかもしれません。このような肉体の成長スピードが、その後の精神的な成長にも、影響を及ぼすのは人も犬も同じなのです。

離乳が終わりしばらくすると、足腰もしっかりして、警戒心を保ちながらも、好奇心の趣くままに探索が始まります。新しい匂いや音にも敏感に反応して、持ってうまれたその仔の個性に、色々な経験と知恵が摺込まれます。大切な性格の形成期です。私が思うに、仔犬の性格を固定していく「ターニングポイント」は、大まかに3回あるのではないかと考えています。まずは「遺伝的な要素」ですが、私的な判断では母犬60%〜80%・父犬20%〜40%程と思っております。ですから、利口な母犬の仔は、すべておりこうさんというわけにもいかず、またその逆のケースもありますので、あくまでも「基本の性格」レベルの程度にすぎないと判断しております。次が「母犬の教育と人間(繁殖者)との出会い」です。この時の重要さは、他項にも書きましたので割愛します。最後は「兄弟以外の犬との出会い」です。
これも他項に書きましたが、追加で特記したいのは「一人っ子ちゃんか?仲間がいるか?」ということです。これは前記の2ポイントとは違い、飼い主が代役をすることが不可能な一番やっかいな問題です。多頭飼いが可能であれば問題解決の早道になります。しかし、それが不可能であれば飼い主が努力し、学習の出会いの場を積極的につくり、短い時間であっても他犬を認識させ、社交性を整えていかねばなりません。これは、犬にとっての義務教育のなかで、絶対に欠点のとれない必須科目なのです。これだけはご愛犬のためにお忘れなく。

人も環境によって成長格差があるように、本人の素地とは別に後天的な要因で大人びた仔や、幼い仔など成長の違いは必ずあります。身体的にも骨格や毛ぶきなど、一才では固定されていない仔も珍しくありません。オスの成熟・筋肉、メスの初ヒートなども同じく、一才ではすべての仔が完成するわけではありません。この点からも一才が「成熟」という基準は、合致しないのではないのでしょうか?「小型犬(一才)=成人」説は、統計学的な一般論であって、皆さまのご愛犬が「一才の女の子なのにヒートがこないの」であっても、疾患等が原因でない限り、ご心配なさることはなくて「家の子は、深窓の令嬢で奥手なのよ」と思われて結構だと思います(^O^;... 人でも「成人=大人」というのは、法律が定める範囲のことで、精神的な成熟をもってして、判断規定しているわけではないのですから、同じように、「5才を過ぎたのにおちつきが無い」場合(私のように・苦笑)もあります。現実問題として、「小型犬(一才)=大人」は成り立たず、「小型犬(一才)=成熟」も一部の仔は到達できないケースもあります。まして、「成熟=大人」はナンセンスです。人も犬も、「大人」という判断基準が、「理知的な分別」にあるとすれば、脂が落始めた年代こそがあてはまるのではないでしょうか。情熱を失うという代償を支払い、すべてに対する「欲」が峠を過ぎ、角が取れて余裕(悟り)が出始めたときが「大人」への扉を開く時期ではと。

1頭飼い(性別は不問)で、一般家庭に暮らす犬(繁殖を望まない)にとっては、性の完成(存在意識の高まり)は飼い主がうまく制御してあげないと問題行動の要因でしかありません。ただ、去勢・避妊をしたからといって、100%問題行動の回避が可能でもありません。ご愛犬が成熟し、理由が自己判断できない衝動によって、欲求不満になってしまうことを、飼い主の努力で解消することができれば、手術をすることも必要ないことです。犬にとっての成人が、生殖能力の完成時とするなら、そこからご愛犬をそれまで以上に学ばせ、将来において「より良い大人」に育てられるか、飼い主の手腕が問われることになるのです。放任主義では、まず良い結果は得られません。「うちの仔ももうすぐ二歳だわ、しばらくしたらイタズラしなくなるわよね?」は大きな勘違いです。歳を重ねるだけでは、「大人」にはならないのです。犬の「成人式」は、「性格固定期」の大切な時期の始まりだとお考えくださいませ。くれぐれも。。。


次回は、<ワンコの記憶について>の予定です。

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