TOPICS CORNER 製作担当 河井 継之介

トピックス44号 02/08/21発行

下水道が自治体を滅ぼす

選択の特集「下水道が自治体を滅ぼす」にあるように、我々の将来の糧ともいうべき 個人金融資産は、官僚、天下り機関、その利権に群がるゼネコンが食い散らかす。
この雑誌は新聞記者が匿名で書いているらしいとか、それにしても本当の情報が掲載されていてありがたいことだ。
さて選択を見てみよう。
1997年、横浜地裁に、ひとつの住民訴訟が起こされた。
「公金支出差し止め訴訟」である。
無駄な公共事業への町の支出を止め、さらに町長に対してこれまでの支出された建設費 の一部、実に83億円の損害賠償を求める、異例の高額訴訟。
この裁判の舞台は御用邸のある葉山町である。
人口3万人、財政規模90億円。
この町で、年間予算の実に5倍の440億円の巨額と、20年余りの年月をかける公共下水道建設 が1992年から始まった。
このような下水道事業の差し止めを求めているのは葉山町住民だけではない。
同種の訴訟が、岐阜県で3件、三重県で1件起こっている。
国が定めたナショナリズム(最低基準)の実現というお題目のもとで、文字通り、 「税金をドブに捨てる下水道行政」が罷り通っているのだ。
みなさんは実感としてお気づきだろうが、わが国の大都市の下水道普及率は99%に 達しており、今日の下水道事業が、道路と同じように地方バラマキ型の公共投資に化けて いる。
なぜ、自治体は財政破綻を招くような巨大な事業にのめり込むのか。
理由は簡単だ。
国の補助と起債をあてにして、「皮算用」で事業を始めるからだ。
下水道事業の主体は自治体だが、汚水処理場や主要な下水管の建設には50%の国庫補助金 が出、それ以外の建設費の大半は地方債によって賄われることになる。
国がバックにあるから、巨大な事業を起こしても自治体の懐はそれほど痛まないとソロバンを弾く。
葉山町の裁判でも、町側は「国からの補助があるから町の負担は少なく、財政は破綻しない」と ぬけぬけと主張した。
しかし、現実はそう甘くない。
国土交通省がぶら下げた「補助金」という飴に食らいついた多くの自治体が「予想外」の 負担に驚愕する。
机上の計算で作った計画は、実際に土を掘り始めるとたやすく狂うのだ。
土地の傾斜、地質、既存の水道管やガス管の存在。
国庫補助のつかない「枝管」(家々を繋ぐ末端の下水管)の建設費がどんどん膨らんでゆく。
実際、葉山町では当初、旧建設省が監修した「町村下水道財政モデル」を使い、1ヘクタール当たり の下水管の整備費用を2200万円と弾いていたが、工事開始から4年後、施工実績を受けて59%増 の3500万円へと上方修正せざるを得なかった。
これだけで当初計画に比べ50億円の負担増だ。
「掘ってみなければ、いくらかかるかわからない」と国土交通省の下水道担当者は平然と言い、 ある自治体の下水道課長は、事業の正当性を声高に語った後、「それにしても下水道って、 なんでこんなにカネがかかるんでしょうね」と嘆いた。
逆風にさらされても下水道事業がビクともしないのは、「道路と並ぶ「巨大な官益」と 化しているからだ。
高度成長期、元締めの国交省は予算を増やし続け、1975年には、技術者の足りない地方自治体 の下水道建設を進めるために日本下水道事業団を設立。
国交省幹部が理事長に天下る同事業団は、今も日本全土で進む下水道事業の約半数で、 基本計画の作成、汚水処理場の建設や改良などを行い、昨年の事業費は3000億円を超える。
過去はともかく、民間の汚水処理技術が進歩した今では、その存在意義はなきに等しい。
ところで、国交省や事業団がいかに誘いかけようと、下水道が自治体の事業である以上、 その方針に反した選択も出来たはず。
秋田県北部、ブナの原生林で知られる白神山地の玄関口にある二ツ井町は人口12,000人。
町の80%近くを森林が占め、そこに集落が点在する過疎の進む町だ。
この町では、下水道事業団委託して作った既存の下水道計画を廃案にし、合併処理浄化槽 による整備を選んだ。
新任の町長が役場内で汚水処理を担当する三つの部局を統合し、他の自治体の実態調査を 行い、町独自の慎重な検討の結果だった。
公共下水道の事業費118億2千万円に対し、合併浄化槽による整備費用20億1千万円。
常識さえあれば下水道事業は止められることを、二ツ井町は示した。
関連記事はOMS経済レポート53号を参照して下さい。