■2002年6月号

今月の潮流
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今月のできごと


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バイオジャーナル



ニュース


●クローン人間
クローン技術を用いた妊娠はがんが起きやすい

 世界初のクローン人間誕生の可能性が報道されている。それによれば、イタリアの産婦人科医セベリノ・アンティノーリがアラブ首長国連邦にて公表したもので、彼の患者がクローン人間を妊娠したという。
 英国学士院のクローン・ワーキング・グループに属し、哺乳動物発生学を専門とするリチャード・ガードナーは、母親が、侵食性子宮がんの一種である絨毛上皮腫瘍に罹患する可能性があると指摘している。原因はよくわかっていないが、このがんは、栄養芽細胞膜という胚の一部に形成され、子宮壁を侵食しながら胎盤で成長していく。胎盤の成長に関与する遺伝子がうまく調節できないためにがんになりやすいのではないか、と同氏は警告している。〔ニュー・サイエンティスト2002/4/10〕

●市民運動
反GMO同時行動がロシア各地で

  4月9日、ソシオ・エコロジー・ユニオン(Socio-Ecologic Union)の主催で、ロシア連邦の各都市で遺伝子組み換え作物(GMO)に反対する同時行動が行われた。
 モスクワでは、随一の繁華街コムソモール広場で集会を開き、チラシを配布、キャンペーンに参加した仮装した子どもたちが買い物に訪れた客にアピールし、注目を浴びた。
 またカザンでは大学のホールで展示会を催した。他の場所でも同様の行動がとられた。ロシアでこのような同時行動は初めてのことだという。


●遺伝子組み換え作物
ブラジルでGM大豆を巡り激しい攻防

 世界第2位の大豆生産国・ブラジルで、除草剤耐性大豆の認可を迫るモンサント社と、それを阻止しようとする環境保護団体・消費者団体との間で、激しい攻防が展開されている。3月末に、同国議会の特別委員会が、遺伝子組み換え作物推進のための報告を承認したからだ。同国では、モンサント社による種子企業買収が進んでおり、もし承認されればアルゼンチン同様、一挙にGM大豆一色になる可能性がある。
 ブラジルの大豆は輸出量が増えている。この2年間で、世界の大豆市場でのシェアが24%から30%にまで上がった。それは、米国・アルゼンチンの大豆がモンサント社の種子によってほぼ支配されたため、非組み換え大豆を求めるヨーロッパ等からの注文が増えたからである。もし、GM大豆が作付けされると、この市場を失う可能性が出てきたため、これまで沈黙していた農業団体が動き始めた。今年10月に行われる大統領選挙も絡んで、行方はわからなくなってきた。〔ガーディアン2002/4/17〕

本田技研が名大と耐倒伏性・高収量イネ開発へ

 トヨタと並びバイオテクノロジー分野に進出している自動車メーカーのホンダが、いよいよ遺伝子組み換えイネの開発に向けて動きだした。4月18日、同社の研究子会社である本田技術研究所が、名古屋大学教授松岡信らと共同で、稲の背丈を低くする遺伝子の働きを解明した〔各紙〕。背丈を抑えると倒れにくくなり、収量増加に結びつく可能性がある。今後は、関連遺伝子の解明に着手し、将来的には高収量品種の開発に結びつけたいとしている。


●政府動向
厚労、文科省、疫学研究の倫理指針まとめる

  厚労、文科両省がそれぞれ設置した疫学研究の在り方を検討する専門委員会が4月9日に合同会合を開き、倫理指針をまとめた。これは、疫学研究に必要な患者の診療情報などの収集に際しての一定の基準を示したもので、ヒトゲノム解析の倫理指針と同様に、インフォームド・コンセント(十分な説明による同意)が前面に打ち出されている。昨今、様々な先端医療技術が有効性や安全性が十分に検討されないまま、本人から形式的な同意を得ては実施されているが、この流れが疫学研究にまで広がってきた。ポストゲノムで新薬開発と医学研究のために、疫学研究の重要性が増したからだ。疫学研究は、糖尿病など身近な病気まで対象にするため、次々と個人情報が集められる可能性がある。同指針は、5月中にも告示される予定だという。

厚労省、「出自を知る権利」容認で問題山積

   不妊治療の枠組み作りを進めている生殖補助医療部会(厚労相諮問機関、厚生科学審議会)は、5月9日に開かれた会合で12回目を数える。前回、生まれてきた子どもの「出自を知る権利」を認める方針を打ち出したのは、新聞報道されたとおりである。これは、第三者から提供された精子や卵子、受精卵などを用いた人工授精や体外受精によって誕生した子どもが、自分の遺伝上の親を知ることができる権利である。出自を知る権利を認めるのは世界的な流れでもあり、それに沿って同部会でも容認することにしたのだが、問題は山積している。
 まず、精子や卵子、受精卵などの提供者の個人情報をどこまで子どもに知らせるべきか。そして、最も問題なのが、子どもの「出生の手段を知る権利」について。手段を知らされなければ、そもそも遺伝上の親を知ろうなどという発想には至らない。出生の手段の告知が親子関係に委ねられている以上、実質的にはまったく機能しない可能性もある。今後、民法上の遺産相続などの問題も含めて、さらなる議論が必要だろう。


●企業動向
デュポン社、次は高イソフラボン大豆

 米デュポン社が日本で販売認可をとっている遺伝子組み換え作物は、高オレイン酸大豆だけだが、次に認可申請する遺伝子組み換え作物を、高イソフラボン大豆とすることが明らかになった〔日経バイオテク2002/3/25〕。 
 同社は、モンサント社とは異なり、消費者メリットをうたった第2世代遺伝子組み換え作物を中心に開発・販売を進めてきている。イソフラボンは、もともと大豆の胚芽に多く含まれる女性ホルモン様物質で、更年期障害や骨粗鬆症に効果があるとして注目されている。同社は、この高イソフラボン大豆を健康食品として販売すると見られる。


ことば
*疫学
病気の原因などについて、多数集団を対象に調査して統計的に明らかにする学問。

*オレイン酸
脂肪酸のひとつ。LDLコレステロールを下げ、熱安定性を増す働きがある。大豆に含まれる脂肪酸は25%。このうちオレイン酸は17〜30%だが、高オレイン酸大豆は80%まで高めている。

*第2世代遺伝子組み換え作物
除草剤耐性や殺虫性などおもに生産者に効用のある遺伝子組み換え作物を第1世代遺伝子組み換え作物と呼び、栄養バランスを改変したものなど、消費者への便益を重視した遺伝子組み換え作物を第2世代という。