新谷かおる02
『紅たん碧たん』 (「週刊少年サン デー」'84・7月増刊号〜'85・9月増刊号,全13回)

 正確な処は、今、定かではないが、この作品の初回単行本の少年サンデーコミックス版は、1巻が出た まま、残りのページ数が1冊分にならず、長いこと、未刊のままだった様に思う。その後、随分経ってから、 白泉社のB6版のジェッツコミックスで2巻物で出て、それが完結版だったのではないか。
 この当時、新谷かおるは、『エリア88』や『ふたり鷹』を連載中で、共にヒット中だった。それに比べ、 『紅たん碧たん』は、増刊号にひっそり掲載されていた感が強い。
 確かに今、改めて読み返してみても、新谷かおるのまんが人生の中で特筆すべき作品だとは、思えない。 ただ、僕の中で、この『紅たん碧たん』は、長らく未刊のままだった記憶と相俟って、妙に引きずっていた 作品なのだ。
 しがない下町のヤクザの組長が亡くなってひと月、残された組を何とか切り盛りする内縁の妻“碧姐さん” のもとに、16歳の少女“紅葉”が訪ねてくる。そこへ、組の弁護士先生が飛び込んできて、実は、亡く なった組長は、その“紅葉”と結婚していたと言うのだ。――尤も、それは、亡き組長のドジで、本来、 内縁の妻“碧姐さん”との間に提出する筈の婚姻の書類と、陰ながら援助していた昔馴染みの忘れ形見との 間に提出する養女縁組の書類とを間違えた為だった。処が、訂正しようにも、組長は既にこの世の人でない。 で、法律上、16歳の母と28歳の娘が、一緒に暮らす事になる。その上、その16歳の女子高生は、 ヤクザの組長を継ぐ事になるのだ。そして、それから・・・
 ――とまあ、それだけの話と言ってしまえばそれまでだが、下町のヤクザの人情話に16歳の女子高生が 絡んで起こるドタバタと、時折見せる鉄火芸者“碧姐さん”の凄みが、妙に心地いいハーモニーを生んで いる。短いし、ラストはちょっと呆気ないが、僕は気に入っている。

 だだ、ひとつだけ引っかかっていることがある。「ゴッドファーザーがやって来た!?の巻」のラスト ページで“紅葉”が<万蔵親分・・・あたしを/養女にしたかったのは/ただ昔の約束を/はたしたかった だけ/なのね・・・/めんどう・・・みてもらって/いえた義理じゃ/ないのかもしれない/けど・・・ やっぱり・・・/悲しい・・・>と言っているのだが、この問題、このままほったらかしでいいのだろうか。 万蔵親分の名誉回復の機会が与えられずに、結婚騒動のドタバタに紛れてウヤムヤになってしまった気が するのだが?

 ともあれ、宜しければご一読を。

(2001.07.29)
テキスト:白泉社文庫JETSシリーズ;1998.12.20初版発行;本体581円


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