山田睦月01
新しい才能の目覚めを焦がれて
      ――山田睦月『ハンプティ・ダンプティ・ロード』――

        (「Wings」1997年9月号〜1998年1月号+描き下ろし)

 山田睦月を最初に読んだのは、処女コミックス『ミッドナイト・ロンリー・モンスター』だった。孤独な 吸血鬼と少女の淡いラヴ・ストーリーが、心に残った。そして、そのコミックスにあった、5年後の イラストが未だに忘れられずにいる。あの続編はもう描かないのだろうか? 山田睦月の他のコミックスを 書店で見かけるたび中を確認したが、他のストーリーのようで結局購入する事はなく今日まできて しまった。
 で、何故、新刊でもない本書を購入したのかと言えば、“本が呼んで いた”というのが一番近い。本好きの人なら、きっとその感覚が判って貰えると思うが、 1年に何回かそんな時があるものだ。(本が「買って、買ってっ!」と呼ぶのだよ。いや、ホントっ!  (^^ゞ)で、当たりだったりすると、とても嬉しい。

       * * * * * * *

 買った時には気付かなかったが、カバーの折り返し部分のイラストを見た時、ドキっとした。

   身体ひとつ入りそうな大きな割れた卵の殻の中に、スッと背を伸ばして、少女が立っている。
   淡い水色の瞳は、遥か前方の地平線を見詰め、
   無造作に刈られた短い金色の髪は、僅かな風になびいている。
   華奢な体つきだが、胸と腰に巻き付けられた薄衣が、少女である事を伝えている。
   その薄衣からスラリと伸びた足は半開きに、片方だけ殻の外に出していて、
   背後の割れた殻の間から鎖が2本伸び、画面の外まで続いている。
   殻の中の鎖のもう一方は、もしかしたら、見えない右足首に巻かれているのかも知れない。
   表情は穏やかで、身体に沿って降ろした腕にも力は入っていない。
   けれども、その潔い立ち姿が、少女の意志の強さを伝えている……

 全体的に淡いパステルトーンでまとめられたその1枚のイラストは、それだけで、幾つもの物語を ぼくに語り掛けてくるのだった。
 もうそれだけで、ページを捲るワクワク感がいや増した。
       * chapter 1 を読んでいる
         * chapter 2 を読んでいる
           * chapter 3 を読んでいる
             * chapter 4 を読んでいる
               * chapter 5 を読んでいる
                 * chapter 6 を読んでいる
                   * あとがき を読んでいる(笑)

 で、読み終えた今、初めに感じたワクワク感は、残念ながら少し萎んでいる。コミックス1冊 描いて、序章が終わったに過ぎない。キャラクター達の背景と、舞台となる世界の輪郭と、それらが漸く 見えてきた処で終わってしまった。物語は、本当は、ここから始まるのだ。
 どうも山田睦月は、まだ、長篇の(物語の)文法を身につけていないようだった。先に挙げた 『ミッドナイト・ロンリー・モンスター』は、短篇連作として中々の完成度だった。けれど、その文法で 長篇を(物語を)描こうとしても、それは無理がある。キャラクターにも、エピソードにも、魅力的な 原石があるだけに、消化不良の物足りなさだけが残ってしまった。

 2巻は何時? ねえ、何時っ?

(2002.08.24)
テキスト:WINGS COMICS(ウィングス・コミックス);1998年4月25日初版発行; 本体505円+税


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