山田睦月を最初に読んだのは、処女コミックス『ミッドナイト・ロンリー・モンスター』だった。孤独な
吸血鬼と少女の淡いラヴ・ストーリーが、心に残った。そして、そのコミックスにあった、5年後の
イラストが未だに忘れられずにいる。あの続編はもう描かないのだろうか? 山田睦月の他のコミックスを
書店で見かけるたび中を確認したが、他のストーリーのようで結局購入する事はなく今日まできて
しまった。
で、何故、新刊でもない本書を購入したのかと言えば、“本が呼んで
いた”というのが一番近い。本好きの人なら、きっとその感覚が判って貰えると思うが、
1年に何回かそんな時があるものだ。(本が「買って、買ってっ!」と呼ぶのだよ。いや、ホントっ!
(^^ゞ)で、当たりだったりすると、とても嬉しい。
* * * * * * *
買った時には気付かなかったが、カバーの折り返し部分のイラストを見た時、ドキっとした。
身体ひとつ入りそうな大きな割れた卵の殻の中に、スッと背を伸ばして、少女が立っている。
淡い水色の瞳は、遥か前方の地平線を見詰め、
無造作に刈られた短い金色の髪は、僅かな風になびいている。
華奢な体つきだが、胸と腰に巻き付けられた薄衣が、少女である事を伝えている。
その薄衣からスラリと伸びた足は半開きに、片方だけ殻の外に出していて、
背後の割れた殻の間から鎖が2本伸び、画面の外まで続いている。
殻の中の鎖のもう一方は、もしかしたら、見えない右足首に巻かれているのかも知れない。
表情は穏やかで、身体に沿って降ろした腕にも力は入っていない。
けれども、その潔い立ち姿が、少女の意志の強さを伝えている……
全体的に淡いパステルトーンでまとめられたその1枚のイラストは、それだけで、幾つもの物語を
ぼくに語り掛けてくるのだった。
もうそれだけで、ページを捲るワクワク感がいや増した。
* chapter 1 を読んでいる
* chapter 2 を読んでいる
* chapter 3 を読んでいる
* chapter 4 を読んでいる
* chapter 5 を読んでいる
* chapter 6 を読んでいる
* あとがき を読んでいる(笑)
で、読み終えた今、初めに感じたワクワク感は、残念ながら少し萎んでいる。コミックス1冊
描いて、序章が終わったに過ぎない。キャラクター達の背景と、舞台となる世界の輪郭と、それらが漸く
見えてきた処で終わってしまった。物語は、本当は、ここから始まるのだ。
どうも山田睦月は、まだ、長篇の(物語の)文法を身につけていないようだった。先に挙げた
『ミッドナイト・ロンリー・モンスター』は、短篇連作として中々の完成度だった。けれど、その文法で
長篇を(物語を)描こうとしても、それは無理がある。キャラクターにも、エピソードにも、魅力的な
原石があるだけに、消化不良の物足りなさだけが残ってしまった。
2巻は何時? ねえ、何時っ?
(2002.08.24)
テキスト:WINGS COMICS(ウィングス・コミックス);1998年4月25日初版発行;
本体505円+税