跋 と 謝 辞

    本書は、異端の梶山季之論となるかもしれぬ、いくらか変わった作家論を纏めるた めの資料を、使いやすいように整理しただけのものである。
    主たる底本は、梶山美那江編『積乱雲 梶山季之−その軌跡と周辺』(前掲書)で あり、それを超えるものではない。
    簡単に言えば、梶山季之のすべての仕事を8群に分け、これに劇画化・ラジオドラ マ化など視聴覚化されたものを加えて9章構成とし、索引しやすいように、それぞれ を五十音図順に並べただけのことだ。
    ただし各章の配列は、ある程度、時代経過を背景に考えながら組み立てた。 すなわち、初めの3章に出てくる仕事は、いずれも、上京した梶山が背水の陣を敷 いて作家の座に挑んでいたころ、その生活を支えたものであった。
    第1章に少年ものを置いたのは、ウルトラ処女作の少年科学冒険小説「空魔軍」が 脳裏にあるだけでなく、梶山文学の基調には活劇的な要素がある、と思うからだ。
    少年ものが第2期でほぼ終わるのに対し、第2章のノンフィクションは第5期まで 続く。このなかには「日本の内幕」のような、すぐれた作品群もあるが、大衆社会と 出版社系週刊誌との相関関係で考えると、無署名ノンフィクションの175編は、き わめて興味深い。
    第3章の脚本は、第2期遅くに始まった「愛の渦潮」を除くと、後世に残るほどの ものはないが、第8章や第9章と一緒にして、大衆文化の問題として考えるほうが有 意義だろう。彼自身が人生における、活劇の主役だったのだ。
    第4章(短編)と第5章(長編)は、狭い意味での小説である。短編のなかの良い ものは、わりと早い時期に書かれている。文芸評論の対象になりやすいのは「族譜」 と「李朝残影」で、長編のほうは、第3期以後だ。大衆文学としての文質が明確な形 を取り出すのである。
    尾崎秀樹は『大衆文化論−活字と映像の世界』(1966年10月、大和書房)にお いて、泣きを浪曲に、笑いを落語に、怒りを講談に見出し、<大衆文学は大衆文化の 一環にすぎない>と考えた。
    第6章に集めたようなエッセイは、第1期から書かれているが、第7章の談話や講 演が多くなるのは、第3期以後だ。ここでは活字の比重は、ぐっと少なくなる。最近 における作家のタレント化は珍しくないが、830項(総計1030回)は、当時と しては少なくなかったはずだ。
    記号的に言えば、狭義の小説家としての仕事(S+R)は、談話等(T)の2/3 以下である。これらに関し推計学的な処理を施せば、さらに興味ある結論も出せそう だが、それは本書の限界外となるので、ここらで謝辞に移ろう。
    さて、本書は上梓までの過程において、各地の新聞社や図書館、および、多くのグ ループの諸兄姉から、御支援・御助言を受けた。
    まず、なにかと御鞭撻頂いた梶山美那江夫人と、季節社の梶山雄三氏、梶山美季さん に、御礼申し上げる。
    梶山グル−プや三土会(第三土曜日に集まっていた梶山関係の記者連中)の諸氏に は、これまでの原稿書きにさいしての引用や、梶山美那江編『積乱雲梶山季之−その 軌跡と周辺』出版記念会の前後にお手数をおかけした。ことに梶山グル−プでは岩川 隆、中田建夫、橋本健午の三氏、三土会では高橋呉郎、萩原実の両氏であり、以下、 同一グル−プ内では、五十音図順に記させて頂く。
    広島では、「梶葉」刊行委員会の岩崎清一郎、大牟田稔、小久保均、下川訓弘、竹内 泰彦の諸氏に、ことのほかお世話になった。旧広島二中関係では、絹谷一雄、三輪敏夫、森重一成の三氏のほか、松本正氏(川崎市)から多くの資料を頂いた。 そのほか広島 地方在住の女性では、志条みよ子、奈宮宏子、堀ちず子の皆さんから、東京では佐々 木久子さんから多くのことを教えられた。福岡の兼川晋、高槻の水原肇、鎌倉の伊藤 玄二郎、新潟の中島欣也の諸氏からも、教えられることが多かった。
    朝鮮テ−マに関しては、広島朝鮮史セミナ−の井上春子さんと原田環代表から御教 示賜ったし、旧京城中学に関連した資料は間瀬昇博士や棟重郁男氏から頂いた。ソウ ルに行ったさいは、核戦争予防国際医師連盟韓国支部の金永洪、孫春昊の両博士のお 世話になった。
    ハワイ関係では、苗字を五十音図順に並べると、ジョ−ジ・秋田、ア−サ−・伊勢 本、ハリ−・浦田、大久保清、テツ・島津、松井正人などの諸氏から、お世話になった り、教えられたりした。
    このあたりまでは、いわば目上の人に対する謝辞だが、仲間としての古書店の諸兄 姉にも謝意を表しておきたい。さしたる高値も付けずに探求書誌を通知して下さった 彼らは、売り手・買い手の関係ではなく、同志なのだ。
    同志といえば、一番身近なのは渡辺玲子である。法的には妻であるが、子離れの完 了したいまでは、むしろ同志のごとく暮らしている。彼女がいなかったら、このデ− タ−ブックは、1ペ−ジも作れなかったであろう。
    これら、すべての人に、心から感謝しつつ、筆を擱く。



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