私とファンタジー その7 『モンスターホテル』シリーズ  (堀切リエ)

モンスターホテルに乾杯!


●モンスター・ホテルに乾杯!

『モンスター・ホテルで おめでとう』(*1)
『モンスター・ホテルで こんばんは』(*2)
『モンスター・ホテルで あいましょう』(*3)
『モンスター・ホテルで なつやすみ』(*4)
『モンスター・ホテルで プレーボール』(*5)
『モンスター・ホテルで クリスマス』(*6)
『モンスター・ホテルで インターネット』(*7)
『モンスター・ホテルで おばけバラ』(*8)
『モンスター・ホテルで おどりましょう』(*9)
『モンスター・ホテルで パーティ−だ』(*10)
(柏葉幸子・作 高畠純・絵 小峰書店)

 『モンスター・ホテル』シリーズが10冊そろいました。
 うちでは息子が気にいって、小学校低学年から高学年にかけて、10冊通して読みました。私もよろこんでいっしょに読みました。ああ、楽しかった。
 この楽しさをどう紹介しようかと考えました。ストーリーを追って紹介するのでは、これから読む人の楽しみをそいでしまうので、全体を通しての設定や世界の特徴などを中心に紹介し、特に私がお気に入りの巻については、ちょっとつっこんで紹介します。
 人それぞれ10冊のうちでお気に入りの話も、モンスターもちがうと思います。息子とでもずいぶん違うものだなあ、と思いました。
 また、11巻目を『モンスター図鑑』としてつくってほしかったという私の希望で、《登場モンスター一覧》と《登場人間一覧》をまとめました。

●『モンスター・ホテル』におけるモンスターと人間の関係
 それを語るには、まず、モンスター・ホテルという場所の設定から。
 ちょっとこわいモンスターに、モンスターの世界に行って会うのと、こちらの世界へ来てもらって会うのとでは大ちがい。このホテルは、モンスターたちが町へ出てきたときに泊まるモンスター専用のホテルなので、ホテルの周りには人間の町が広がっています。そして、モンスター・ホテルの扉は、人間では開けられません。人間とモンスターの間には閉ざされた扉があり、人間は勝手にドカドカと入りこめないのです。モンスターと人間の間には、しっかりと一線が引かれています。
 人間が入らないように見はるのは、ホテルで働いている透明人間のトオルさんの役目です。『モンスター・ホテルでおめでとう』では、人間の子どもタイチが、モンスターの出入りの隙にホテルに入ってしまい、タイチを発見したモンスターたちは、「にんげんだ!」とおどろいて飛びのきます。
 タイチの方も「とんがった みみで、くちが みみまで さけたひとたち」を見ておどろきます。つまり、モンスターと人間は異種同士で、互いにこわがっている関係なのです。
 モンスターは、子どもにとってどんな存在かと考えると、「こわいもの、変なかっこう、自分とはちがう生き物、不気味……」。それなのに妙に惹かれて、こわいもの見たさに見たくなるもの、見るとこわいけれどおもしろいもの、笑ってしまうもの……。
 あれ? どうしてこわいものを見て、笑えるのでしょうか? これは緊張感が関係すると思うのですが、ちょっと緊張しているときこそ、ユーモアや遊び、おもしろさというものは際立ってくると思うのです(このシリーズのところどころに、いいえほとんど全編に散りばめられたユーモアは、踊りだしそうに浮きたっています)。だから、子どもとモンスターは切っても切り離せないもので、子どもにとっては、こわいという気持ちとおもしろいという気持ちは、意外に近いところにあるのではないでしょうか? 子どもの遊びをみていてもそう思われます。
 さて、シリーズ1作目の最初にしっかりとした線を、人間とモンスターの間に引きながら、人間、とくに子どもはその一線を越えてしまいます。

 モンスターたちを見ておどろいたタイチは、「タイチ、たんじょう日、おめでとう。」とモンスターたちに言われると、「ど、どうも、ありがとう。」と目をパチパチさせて、すぐににっこりします。
 モンスターたちの方はどうかと言うと、タイチの夢をのぞいて、ひとりぼっちで誕生日を迎えようとしていることを知った、悪魔族の長老デモンじいさんは、「かわいそうに。わしのたんじょう日と いっしょに、タイチの たんじょう日も いわって やるんじゃ」と言います。モンスターの方から、線を越えて手をさしのべています。
 デモンじいさんとタイチの年を足すと、ちょうど2000歳。もしかして、人間はモンスターたちといっしょに年をとって、今に行き着いたかな? だからいっしょにお祝いなんだ、なんて思ってしまいました。
 けれど一線を越えるには条件がありました。タイチは、夢魔のググスカさんに「ここであったことはみんな夢だった」と思うようにされています。モンスターと人間は、線を越え、また線を引きなおして、あちらとこちらへ別れるのです。
 モンスターと人間との間に線を引くことは、この物語の大きな柱になっています。一線を引いたうえで出会ったり、つきあったりするからこそ、緊張感が保てるのだと思います。このシリーズの特徴であり、短い物語でありながら奥が深く味わいも深い理由は、モンスターと人間との関わりが、つねに描かれているからではないでしょうか。
 『ホビットの冒険』は「行きて帰りし物語」と呼ばれますが、ここでもモンスターと人間との間の線を越えて行き、そうして線をひきなおしてもどってくる「行きて帰りし物語」になっているのではと思われました。

●10作のうちでただ1作、はじまり方の異なる話
 このシリーズは、いつも同じフレーズではじまります。
「まちはずれの ふるい ゆうびんきょくと、ちいさなこうえんの あいだに、モンスター・ホテルが あります。」
 けれど、『モンスター・ホテルでインターネット』だけは、異なるはじまり方をするのです。「はじまり方がちがう!」と、息子が叫んだのを覚えています。途中でそのさわりはでてきますが、全体のつくりとしてもほかの巻とはちがいます。モンスターの世界をまず描いて、そこに人間がかかわるのではなく、この巻だけは、人間の子どもの世界をまず描き、子どもに密着して描かれているのです。主人公の子どもの気持ちの流れにそって、モンスターが登場するのです。
 どうも私は最初、この巻を敬遠していました。子どもの気持ちにそってモンスターが登場するのは、なんとなくおもしろくないような気がしたのです。けれど10冊そろってみると、この巻のもっている味わいは、シリーズのなかではおもしろい輝きをしていることに気づきました。子どもとモンスターの関係も、他の巻より濃密に描かれていますし、「インターネット」という題名のように現代を背負った巻でもあります。

 人間の子どもマリエちゃんが、夜起きてトイレにいこうとすると、お母さんもお父さんも家にいません。消えてしまったのです。そこへ、ベッド・モンスターのいるぞうくんがでてきます。このいるぞうくんは、モンスターですがマリエちゃんの味方です。マリエちゃんといるぞうくんが、モンスター・ホテルに相談にいくと、ホテルのモンスターたちもすっかり消えています。人間もモンスターも同じ被害にあっていたのです。みんなを消してしまったモンスターは、マリエちゃんの通っていた幼稚園にいることがわかります。そしてなんと、マリエちゃんには、幼稚園時代にモンスターの友だちがいたのです。そのモンスターとは、あまのじゃく。その妹のあまねじゃっきこそが、みんなを消した(実はバックに吸いこんでしまった)犯人なのです。
 あまのじゃくと手をつないだマリエちゃんは、おへそがぐぐっと曲がることで、友だちだったことを思いだします。「どうして わすれてしまったのだろう」と思うマリエちゃんに、あまのじゃくは、「わすれて あたりまえなんだぞ」と言います。
 あまねじゃっきのかばんから、みんなが出てくるときに強い風がおこり、ほこりでできているいるぞうくんは、散り散りになって飛ばされてしまいます。マリエちゃんに、「ぼくのこと、わすれないで」と言いながら。
 あまのじゃくと手をつないで家に帰る途中、マリエちゃんはいるぞうくんが消えてしまったので、泣いています。でも、あまのじゃくは言います。「ないてくれるのは いまだけさ。にんげんは、モンスターのことなんて わすれちまうのさ。」 そう言って、あまのじゃくは、つまらなそうに肩をすくめて帰っていきます。あ、だからあまのじゃくになっちゃったの? と思わず声をかけたくなりました。
 さて、モンスターたちもいっしょに吸いこまれていたのですから、モンスターたちは、マリエちゃんにモンスターを忘れるまじないをかけられませんでした。だから、マリエちゃんは、いつまでもいるぞうくんのことを覚えていて、ベッドの下に向かって「だれかいるう?」と呼びかけます。「いるぞう!」と答えてくれたら、モンスターでいっぱいのモンスター・ホテルに、つれていってもらうつもりなのです。

 マリエちゃんは、モンスターとの間に線を引き直さないで、日常世界へもどってしまいました。この巻は「行きて帰りし物語」になっていないのです。ほかにもなんだか腑に落ちないことがあるので、現代的なコンピューターやインターネットがでてくると、法則もきれいにあてはまらないのかなあ?と思いました。あまねじゃっきは、インターネットを使ってモンスターや人間たちを閉じこめたわけではなく、夜10時過ぎてもテレビやパソコンを使っている者を、自分のバッグに吸いこんだのです。この方法は、ローテクですから、吸いこまれるほうがインターネットに代表される現代的なものにはまっている、ということになります。子どもの視点として読めば、けっこう納得できます。
 ただ、「おしおきしましゅ」と言って、10時になるとみんなを吸いこんでしまう、この物語の騒動の中心人物(モンスター)である、あまねじゃっきという存在は、鬼が島からひとりで遊びにやってきたという設定で、お兄さんのあまのじゃくは、マリエちゃんの幼稚園にいつもいるらしいのです。まあ、どこからモンスターが現れても、住んでいてもかまわないのですが、それまで、モンスター・ホテルという場所が設定されていた分だけ、ちょっとおさまりの悪い気がしました。
 けれど、人間もモンスターもいっしょくたに吸いこんでしまう、あまねじゃっきは、現代的なモンスターだという印象を受けました。モンスター界でも、現代っ子という感じでしょうか。しかも、モンスターは新しもの好きで、人間と同じにパソコンに夢中になっているので、モンスター・ホテルでは部屋に一台パソコンが設置されているというのです。つまり、パソコンを使っている者は人間、モンスターの区別なく、みんな被害にあってしまったのでした。現代では、新型機器の発達によって、逆に人間もモンスターも、境が希薄になっているのかもしれません。おもしろい現象です。

●不のエネルギーの発露が、モンスター
 私のお気に入りの巻は、『モンスター・ホテルでおばけバラ』です。
 この話の主役はおばけバラではありませんが、全体はガーデニングでまとめられています。人間界でもモンスター界でも、昨今はガーデニングが流行っているらしい。おばけバラは、赤いバラだったかと思うと、ボワンと白百合にばける珍種で、バラも百合も楽しめる、楽しみ倍増の花です。「世界にたったひとつの花〜」ではなく、「ひとつでいくつもの花になれる花〜」なんですね。
 話の主役は、なんといってもこけばあさんですが、この巻に登場する寝起きの悪いしにがみさんもなかなかです。こけばあさんが大騒動を起こしているあいだ、しにがみさんはずっと寝ています。巨大豆の木のつるにまきつかれ、つるされても、自分の馬を貸すときも、ずっと寝つづけています。惜しむべくは、物語の最後でずっと寝続けていたともう一言書いてもらえれば、もう一度笑えたのになあと思いますが、ユーモアいっぱいのシリーズらしい登場人物です。

 さて、こけばあさんは、緑大好きのモンスター。「緑の指」は植物を育てることの上手な人の指を意味しますが、こけばあさんの緑の指は、緑を育てるのではなく、吸いとるために使われます。そこがモンスターのモンスターたる所以。好きなものを育てるのではなく、枯らしてしまう。みんなのものではなく、自分だけのものにしてしまう。そして、緑を吸いまくろうという意欲にかけては、恐ろしくパワフルなこけばあさん。
 モンスターは、人間の鏡のような存在でもあるので、左右が逆というか、正負が逆であるおもしろさがあります。「正しく、前向きに発せられるエネルギー」を日々奨励される子どもたちにとっては、この「不のエネルギーのおもいきった発露」というのは、なんとも爽快であるのではないでしょうか。そんなところもモンスターの人気の所以だと思われます。

 この巻には、人間とモンスターの、面と向かっての対決シーンが描かれます。自分が夢中に入れこんでいること(この場合は、緑、ガーデニング)が目の前にあると、人間もモンスターも気づかないうちに、ひょいと境界線を飛び越えてしまうようです。
 人間側は、モンスターとはぜんぜん関係なさそうな、庭いじりのすきなおじいさんで、こけばあさんは「ガーデニングじいさん」という呼び名が気にくわないと、けんかを売ります。ただそれだけの理由ですが、妙にうなずけます。同じものを好き同士なら仲良くなれそうなものなのに、じつはそうではないんですね。互いにこだわりが強いですから。
 「えらそうに。ガーデニングじいさんだって。」というこけばあさんのセリフには、思わず笑ってしまいます。対するガーデニングじいさんは、「おまえさん、ただの ばあさんじゃなかろう?」と、こけばあさんにつめよります。たしかに、たしかに。
 ガーデニングじいさんは、叫びます。「ようかいばばあだったんだな。」
 「ようかいばばあとは、しつれいな!」と、こけばあさんは怒るのですが、モンスターと妖怪とはどうちがうのでしょう? それとも「ばばあ」に反応したのかな? こけばあさんは、「じじいに ばばあよばわり されたくないね!」と力をこめて言い返し、二人ははっしとにらみあいます。ここまでは5分5分。
 「この ようかい ばばあが、にわを からしているんですぞ!」と、ガーデニングじいさんは、近所の人間をだきこみます。集団でこられては、こけばあさんの危機!
 と思いきや、しにがみさんから借りた馬で、空を駆けて追いかけてきたトオルさんとドラキュラだんしゃくが、こけばあさんを救いあげます。
 トオルさんとドラキュラだんしゃくの会話から、モンスターと人間の関係が語られます。
「たいへんです。こけばあさんが モンスターだと にんげんに ばれてしまいます。」
 ばれるとどうなるのでしょうか? 「にんげんの まちに あそびに こられなくなります。」 モンスターは人間の町に遊びにくるのが楽しみなんですね。「にんげんは、すぐ わすれる。しばらくおとなしくしていれば、また出てこられる。」と、ドラキュラだんしゃく。
 さて、人間たちの反応は? 空を飛ぶ馬がいるのを見て、「おお! やっぱり ようかいだあ!」とひめいをあげます。なんだか、かなり期待していた驚き方です。大勢のせいもあるのでしょうか、盛りあがっています。
 くやしがって手袋を食いちぎり、集めた緑をばらまいてしまうこけばあさん。空をかける馬から緑の風が吹きだし、街中に緑がもどるところは、映像的にも美しい場面です。
 そんなことがあっても、さすがこけばあさん。ぜんぜんこりません。「まけたわけじゃない。あしたも、みどりをすいとって、すいとって、すいとりまくってやる。」とこぶしをにぎります。
 けれど、町へ出たこけばあさんは、似顔絵つきの手配書にびっくり。
「みどりの ぼうしに、みどりの ドレス、みどりの てぶくろの おばあさんには 気をつけること。くさきを からす ようかい!」

 私の感想としては、こけばあさんもガーデニングじいさんも、ご近所の方々も、人間とか妖怪とかモンスターとかの一線を、たくましく乗りこえられているように見受けました。

●私たちのとなりにモンスター
 10冊あるので楽しんで書いているときりがありません。
 シリーズを通して、モンスターと人間たちとの関わりを拾ってみましょう。
 『モンスター・ホテルであいましょう』では、幽霊歴3年のドイツの幽霊ルードヴィヒさんが出てきます。かれはすでに幽霊ですが、生きているとき、つまり人間時代に日本の幽霊のおやえさんと恋に落ちます。ルードヴィヒさんは、幽霊だろうとかまわない、いっしょにドイツにきてほしいとたのみますが、おやえさんは「ゆうれいと にんげんが いっしょに いると、にんげんに わるいことがおこる」と、身をひきます。ルードヴィヒさんは、死んだら必ず幽霊になると約束して、みごと幽霊になってモンスター・ホテルにやってきたというわけです。二人は、モンスター(幽霊)になることで、人間とモンスターの間にひかれた線を越えました。

 『モンスター・ホテルでなつやすみ』には、子どものモンスターと人間の子どもがでてきます。おんぶおばけの子どもオンブブは、モンスター・ホテルに一人で来るという夏休みの宿題を実行中。迷子になって、人間の子どもまゆみちゃんの家に泊まって、まゆみちゃんにおんぶして、モンスター・ホテルのとなりの公園にやってきます。けれど、最後までまゆみちゃんは、オンブブがいることに気づきません。
 別れるときオンブブは、まゆみちゃんの後ろ姿に「どうも、ありがとうございました。」と、はっきり声にだしていいます。オンブブは、生まれてはじめて人間に自分の姿を見てほしいと思ったのです。まゆみちゃんは、「えっ?」と気配だけ感じてふりかえりますが、オンブブのことは見えませんでした。
 モンスターの子どもと人間の子ども、迷子になって不安だったオンブブと、引っ越ししてしまうボーイフレンドと行きちがいで会えなかった、まゆみちゃん。二人は不安を共有したせいで、姿が見えないにせよ、存在を知らないにせよ、間柄がグググッと近づいたのです。

 『モンスター・ホテルでクリスマス』は、人間ではなくサンタクロースとの関係がでてきます。クリスマスに外へでると、十字架を見て気を失ってしまうという、ドラキュラだんしゃくやカーミラさんに、悪魔族のデーモさん。ところが、彼らはトナカイからふり落とされたサンタクロースを助け、そりではなく竜のゴンさんに乗って、プレゼントを配って歩くことになるのです。モンスター・ホテルで看病をうけたサンタクロースは、ホテルが気に入って、オフのときに泊まりにきます。でも、モンスターではないのでドアがあきません。
 「ここは、モンスターのための ホテルですから、こまります。」というトオルさんに、「いいじゃないか。わしだって モンスターみたいなもんじゃ。なかまはずれにせんでくれ。」と、めちゃくちゃなことを言って入ってくるサンタクロース。でも、ちょっと気をつかったのか、フードのついた黒いオーバー姿です。
 「いいじゃないか。」と声をかけたのは、十字架もクリスマスも大嫌いなドラキュラだんしゃく。セリフが決まっています。「サンタも サタンも にたようなもんじゃ。」
  二人は、ホテルのロビーでワインを飲みはじめます。

 『モンスター・ホテルでパーティだ』が最新作であり、10作目にあたるわけですが、このお話には大人の人間が登場します。百周年記念パーティの日に、モンスター・ホテルに迷いこんでしまったのは、宝石どろぼうの「ねこあし ししえもん」。すごい名前、名前からしてモンスターみたいです。でも、どろぼうであってもモンスターはこわいようです。震えているうちに、魔法のじゅうたんから落ちてしまった、巨人のアブドールのママを探しにいくのに、かり出されてしまいます。人間たちに囲まれて捕らえられそうになっているアブドールとママをみて、ねこあしししえもんは、盗んできた宝石をばらまいて、二人を助けます。
 モンスター・ホテルでパーティがはじまるころ、ししえもんは故郷へ帰っていきます。おんぶおばけのオンブブとまゆみちゃんの場合とは反対に、モンスター側はししえもんを人間だと認識していません。仲間だと思っています。ししえもんはどろぼうですから、人間の社会からはみだしかけていて、そんな人間だからこそ、モンスターと心の通いあったのでしょうか。
 ここでも、人間とモンスターとの間にひかれた線は健在です。モンスターは「気づかない」ということで線を守っていますし、人間側は気づかずにこえた線を自分でひいて帰っていきます。けれど、線のひき方にひとくふうあります。
 「また、ねこさんに あえるかな?」と問うアブドールに、ししえもんは「ああ、あえるさ。」と答え、モンスターの「ともだち」に手を振りながら別れていくのです。もし、二度と会えないとしても、自分をモンスターと思っているアブドールを、「モンスターのともだち」として認めているのです。
 ししえもんが落としていった宝石は、パーティ用のくす玉に入れられ、ツネミさんが拾って胸につけます。ラストの場面では、トオルさんとダンスを踊るツネミさんの胸に、小さな星の形のブローチがきらりと光っています。

 こうして、人間とモンスターとは、けっして同族同士の気楽なつきあいではないけれど、緊張感があって、それでいてちょっと暖かい間がらを保ちつづけるだろうことを、予感させて終わります。
 ああ、私も、モンスター・ホテルにもぐりこんで、せっかちですてきなドラキュラだんしゃくと、ホテルのロビーでワインを酌みかわしてみたい。モンスターのともだちがほしいものです。いえいえ、もうすでにいるのかもしれません。この10冊のなかにこんなにたくさん。
 どうぞ、モンスター一覧をつづけてご覧ください。(*)の数字は、上記の番号の巻に登場したことを表しています。
 また、高畠純さんの味わい深い絵についてもとりあげたかったのですが、長くなったので短く一言だけ。思わず並べてみたくなる、各巻ごとに少しずつちがうモンスター・ホテルの絵。『モンスター・ホテルでインターネット』のマリエちゃんとあまのじゃくが手をつないで帰る場面に浮かぶ、ひとコマの夜空。なんど見てもおもしろく、思わずにんまりとしてしまう味わいの絵です。

《登場モンスター一覧》
○透明人間のトオル・・モンスター・ホテルで働いている。町を歩いているときにペンキをかけられたので、完全な透明にもどれないで、姿がぼうっと見える。白いシャツ、黒いズボン、頭にかぶった赤いネッカーチーフがトレードマーク。仕事熱心でお客さん思いのまじめな性格。(全巻通して登場)
○キツネのツネミさん・・にぎやかなところの好きな山のキツネ。古い葉っぱで化けそこねて、人間の姿に耳としっぽのある中途半端な姿のままになってしまう。モンスター・ホテルで働くことになり、トオルさんとは恋人同士に。料理も得意。(*2から以後全巻)
○ドラキュラだんしゃく・・せっかちでおしゃれで、ワインが好きで、野球やガーデニングにすぐはまってしまう、つまり乗りやすい質。買い物好きでもあるらしい。ウェットのきいた性格で、じつは心やさしき好人物。(*2*5*6*7*8*9*10)
○カーミラ・・ドラキュラだんしゃくの奥さん。カンオケを改造した真っ赤な車を、すごいスピードで乗り回す。真っ赤なマントの裏の20個のフックに、お供のこうもりをぶらさげているが、いつも何匹か振り落としてきてしまう。迫力も魅力もあるが、そっけないやさしさも。(*3*10)
○3人の魔女・・恋愛映画をみてメソメソ泣いて、鼻をかむので、よけいに鼻がたれさがってしまったらしい。フライドポテトを食べながらビデオを見るのが好き。いつも3人そろって登場。(*1*2*5*8*10)
○デモンじいさん・・悪魔族の長老。コワコワ月のウェーン日が誕生日。1993歳。肩にペットのふくろうをとまらせている、しわだらけのおじいさん。(*1*10)
○こあくまたち・・デモンじいさんの孫、20人いる。フォークのようなくまでを持っている。まだ子どもなので、十字架もこわくない。(*1*2*6*10)
○ミイラ男・・熱いところに住んでいるので氷がめずらしい。スケート場のおじさんに「けがにんがスケートなんかしちゃ、だめだよ」と注意される。(*1)
○ざしきわらし・・ざしきのない家が多いから、どこに住むか考えて、好きなところに住むことにした。(*1*10)
○仙人・・どじょうひげで、雲に乗って移動する。ワインがお好き。地上1メートルに浮かぶ雲の下をすり抜け、タイチはモンスター・ホテルに入ってしまう。そのために登場したのか、一度きりの登場でした。仙人てモンスターだったの??(*1)
○ググスカ・・悪魔一族のねむりの精。しにがみといとこ同士。水玉もようのパジャマを着ている大男で、そばにいる人は眠ってしまう。ググスカさんに会うときには、コーヒーをがむ飲みしましょう。(*1)
○あくまたち・・デモンじいさんのこども、10人いる。くまでを持っている。*6に登場するデーモさんが、デモンじいさんの子どもなのかはわからない。(*1*10)
○ドドリム・・デモンじいさんの姪の夢魔。めがねをかけたやせたおばさんで、ホチュウ網で人間の夢をつかまえていたずらをする。(*1)
○フランケンシュタイン・・鏡に写った自分の顔を見てはふるえてしまう、こわがり。(*2)
○ろくろっくびおばけ・・頭はねていても、体は先に起きてドレスアップできる、便利なモンスター。(*2)
○タヌキ・・いろいろな人間に化けてはみるけれど、なぜかみんな太り気味。(*2)
○がいこつ・・デートのときには、骨と骨のつなぎ目にゴマ油をさすおしゃれなスケルトン。(*2)
○きゅうけつきのおやこ・・好物はトマトジュース。こうもりの姿をしている。(*2)
○オニのしんこんさん・・二人でなかよくナンキンマメを食べて幸せ。(*2)
○はんぎょじんのかぞく・・子どもの好物は、海藻のプリン。(*2*10)
○カッパ・・モンスター・ホテルに来るまでに頭のお皿が乾きかけてしまう。好物はみそをつけたキュウリ。(*2)
○オオカミおとこ・・力もち。大きなリュックサックをせおってホテルにやってくる。好物は羊の丸焼き。(*2*10)
○はでなゆうれい・・ラメ入りの着物を着て、オオカミおとこのリュックに腰かけて移動するちゃっかり者。カラオケ好きで、自分専用のひとだまのスポットライトを風呂敷に包んでもち歩いている。スイカ模様の浴衣が寝間着がわり。(*2)
○ゆきおとこのふゆきさんとゆきおんなのコオリさん・・新婚夫婦。熱いところにいると溶けてしまう。(*2)
○モンスターやさい・・お日様の光がきらいなので、地下室で育つ。食べ頃になると「わたしを食べたらカエルになるぞ!」とか、叫んでおどす。(*2)
○ルードヴィヒ・・ドイツ出身で、幽霊歴3年。元ピアニスト。恋人のおやえさんをモンスター・ホテルで待っている。(*3)
○おやえさん・・元ピアノ教師の幽霊。レストランの地下に閉じこめられていた。灰色のワンピースを着たかわいいおばあさん。(*3)
○ねこまた・・探偵。しっぽが2つに分かれている。トレンチコートのえりを立てて着ている。大変な事件でなく、迷子の子猫探しの仕事が多い。(*3)
○なくちゃオニ・・トラの皮のパンツに眼鏡をかけて、教科書を抱えている。人間にとりついて、「○○しナクチャ」とイライラさせるらしい。(*3)
○オブリー・・おんぶおばけ。オンブブのお母さん。ショートパンツにランニングシューズという出で立ち。(*4)
○オンブル・・おんぶおばけ。オンブブのお父さん。やっぱりランニングシューズをはいている。おんぶおばけはみんなスマート。人間におんぶして、耳をひっぱって行きたい方向に歩かせる。(*4)
○オンブブ・・おんぶおばけの子ども。ランニングシューズをはいている。人間を操ることはまだできない。泣いているまゆみちゃんを思わずなぐさめる、心やさしいおばけ。(*4)
○かみなりのかぞく・・赤ちゃんの練習用の小さなたいこを買いに町へきた。(*5)
○ムカデ・・50本の足に新しいくつを買うために町へきた。(*5)
○からかさおばけ・・水玉もようで一歩足の傘おばけ。青い長靴を買おうと思っている。野球の試合で、ドラキュラだんしゃくのバットがわりになり、ボールをけとばして活躍。(*5)
○スパイダスマン・・スパイダーマンに似ているスパイダスマン。有名なスパイ。名の由来は「スパイだす」?(*5)
○やしゃひめ・・悪魔族一の美女。まっすぐな黒髪にミニスカート。切れ長の目におちょぼ口。怒ると髪は逆立ち、目はつりあがり、口は耳まで裂けて別人になってしまう。ドラキュラだんしゃくも逆らえない。目立つことが大好きで、カラオケも得意らしい。(*5*10)
○やみまる・・子牛くらい大きな黒犬。やしゃひめのお供。(*5*10)
○ゾンビきょうだい・・ゾンビあにとゾンビおとうと。着古した服が好きなので古着屋で服を買う。地面を走るより、もぐる方が早い。(*5)
○たぬきのたしち・・野球が大好き。人間に化けて村の朝野球のチームに入っている。ずっと補欠だったらしい。(*5*10)
○ねこまたのおたまさん・・公園の猫のクリスマスパーティに出るためにモンスター・ホテルに来た。(*6)
○しっぼぼ・・大きなバッグをもったおばさん。バッグからしっぽを出してこっそり人間のおしりにつける。しっぽがつくと、忘れんぼやくいしんぼあわてんぼになるらしい。(*6)
○ゆうれいのきょうだい・・おじいちゃんにカイロを買うので町へ来た。(*7)
○ランプのきょじん・・アラジンに懐中電灯を贈ろうかと考えている。(*7)
○りゅうのゴン・・羽のある竜。卵の子に飛行機の絵本を買いにきた、気の早いお父さん竜。(*6)
○デーモさん家族・・悪魔一族。十字架が苦手。(*6)
○サンタクロース・・飛行機に驚いたトナカイにそりからふり落とされて、モンスター・ホテルの近くに墜落。モンスター・ホテルで看病されて、すっかりホテルが気に入ってしまう。(*6)
○いるぞう・・ほこりでできたベッドモンスター。ベッドの下に住んでいる。マリエちゃんのために、お父さんとお母さんを探す。(*7)
○10じモンスター・・夜の10時に、ファミコンやパソコンやテレビを見ているとでてきて、見ている人を消してしまう、といううわさのモンスター。正体はあまねじゃっきだった。(*7)
○やまんば・・モンスター金貨を人間のお金をかえ両替機の監視カメラに映っていた。(*7)
○よろいのゆうれい・・イギリス出身。朝の体操が日課。ガチャガチャとうるさい、うるさい。(*7*8)
○てんぐ・・監視カメラに映っていた。(*7)
○メドゥサ・・監視カメラで映っていた。(*7)
○あまねじゃっき・・黄色い帽子に、水色のスモック、かばんをかけて、手にはさみを持っている女の子。10時すぎまでパソコンやテレビを見ていると、「おしおきでしゅ」と言って、かばんに吸いこんでしまう。10時になると20人に分身できる。鬼ヶ島から来た。(*7)
○あまのじゃく・・あまねじゃっきのお兄さん。マリエちゃんの幼稚園時代の仲良し。髪がツンツン立っている。手をつなぐとおへそがグググっとまがっていくらしい。(*7)
○しにがみ・・寝起きがとっても悪い。馬といっしょに寝ている。(*1*8)
○しにがみさんのうま・・空をすごい速さで飛べる。(*8)
○ぬりかべ・・おしろいを塗って塗ってぬりこめてお化粧する。(*8)
○うみぼうずとマーメイド・・夫婦。塩を入れたお風呂が好き。(*8)
○こけばあさん・・がぶがぶの帽子に手袋をはめた全身緑色のしわだらけのおばあさん。緑が大好きで、緑をどんどんすいとってしまう。パワフルなおばあさん。(*8)
○おばけバラ・・真っ赤バラの花束かと思いきや、ボワンと白い百合に化けてしまう、モンスターのガーデニングで話題の珍種。(*8)
○ひとつめこぞう・・巨大豆の木につりあげられ、ブランコみたいとはしゃぐ元気なモンスター。豆の花も発見。(*8*10)
○巨大豆の木・・こけばあさんのネックレスがこわれて、地下室へころがって芽がでた。モンスターたちをつるでつかまえて、ぐんぐんと伸びつづける。キャベツくらいの豆がなる。(*8)
○ねずみおとこ・・恋人に、スイス製の特大チーズのプレゼントを考えている。巨大豆のの枝をがりがりかんで、しにがみさんのうまを放してやった。(*6*8*10)
○ケンタウロスのおやこ・・人間の体と馬の体の半分ずつの容姿。笛の名人。日本の笛を探しにモンスター・ホテルにやってきた。(*9)
○かげにんじゃ・・大きなコーヒーゼリーのように見える。人間の影にもぐりこんで、人間を操る。(*9)
○みつめこぞう・・きれいなボーイソプラノ。歌が得意。(*9*10)
○おばあさんぎつね・・日本舞踊の先生。名前は、はなぎつね ここのつ。しっぽが9本ある。若い人間の女に化けて、町でエアロビクスを習うつもり。(*9)
○クモ・・2匹でひと組。足にかばんと鍵のたばをぶらさげている、不動産屋。関西弁で話す。「もうかりまっか?」(*9*10)
○ひひの家族・・双子の子どもに、双子用のベビーカーを買いにきた。(*9)
○オニ・・力もち。その他、記述がないが、鬼族の好物は豆らしい。(*10)
○カラステング・・カラス・コテングは光るものが好き。ししえもんの落としたブローチを、パーティ用のくす玉に入れた。(*10)
○きょじんのアブドール・・魔法の絨毯に乗って飛ぶ。体を大きくしたり小さくしたり、調節自由。巨大足で、気づかぬうちにねこあし ししえもんをモンスター・ホテルに押しこんでしまう。(*10)
○アブドールのママ・・はでな仮装が大好き。とくに宝石をつけた着ぐるみがお気に入り。ワニの着ぐるみを着たまま、魔法の絨毯から落ちて人間につかまりそうになる。(*10)


《登場人間一覧》
○郵便局の局長さん・・タイチのおじいさん。モンスター・ホテルのとなりの郵便局で働いている。(*1)
○タイチ・・7歳。モンスター・ホテルに入りこんで、デモンじいさんといっしょに誕生日を祝ってもらう。(*1)
○タイチのおとうさんとおかあさん・・会社で忙しく働いているが、タイチの誕生日を思い出してあわてて迎えにきた。(*1)
○レストランのもちぬしとコックさん・・ナクチャおににとりつかれて、寝たまま地下室のふたをこわしてしまう。ゴクロウサンでした!(*3)
○まゆみ・・ボーイフレンドのけんたくんと会えなくて泣いているところを、オンブブに見つけられる。オンブブをせおって、モンスター・ホテルのとなりの公園へやってくる。(*4)
○ケンタ・・ひっこしていってしまう、まゆみちゃんのボーイフレンド。(*4)
○野球の相手チームの人たち・・ホームランをやみまるにとられ、キャッチャーフライを網によじのぼるスパイダスマンにとられ、ゾンビきょうだいは土のなかをもぐって盗塁し、からかさおばけはボールを蹴ってヒット。1ー0で負けて、首をかしげた。お気の毒!(*5)
○マリエ・・夜中におきたらお父さんとお母さんがいないので、いるぞうくんといっしょにモンスター・ホテルへ。いるぞうくんにまた会える日を待っている。(*7)
○マリエのお父さんとお母さん・・10時モンスターに消されてしまう。本当は、あまねじゃっきのかばんの中に吸いこまれた。(*7)
○ガーデニングじいさん・・植木市へ通う、ガーデニング好きなおじいさん。こけばあさんと負けずに対決する。(*8)
○ガーデニングじいさんの近所の人たち・・こけばあさんとしにがみさんのうまと多分ドラキュラだんしゃくとトオルさん(洋服だけ?)を目撃した。(*8)
○こあくまたちにクリスマスプレゼントを届けてもらった子どもたち・・あまねちゃん、はるきくん、なつみちゃん……。みんな眠そうだけれどうれしそう。(*6)
○空き劇場にやってきた人たち・・昔、劇場でプロポーズした老夫婦。おばさんたちのグループ。雨やどりにきたおじさんグループ。5,6人のおにいちゃんたち。モンスターたちとは気づかずに、舞台を楽しむ。(*9)
○ねこあし ししえもん・・宝石どろぼう。モンスター・ホテルにもぐりこんでしまい、巨人のアブドールとその母親を助けて、友だちになる。(*10)
○町の人たち・・犬を連れた人、ワニを囲んでさわぐ人たち。宝石目当てでさわいでいる人たち。パトカーのおまわりさん、ほうせきやさん。(*10)

○○堀切リエ・・モンスターと人間の一覧をつくった人間。(巻外)

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