ももたろうリレー童話・テーマ「桃」第一作

「兆しの木」


二、狛犬                            赤羽 じゅんこ

 
 二人は、すばしっこく住宅街をずんずんとかけていった。桃子は、おくれてはいけないと必死でおいかけた。すぐ横までおいついた時、二人に声をかけた。
「ねぇ、どこ行くの? 兆しってむかえ行くものなの?」
「ううん。ふつうはむかえに行かなくても、兆しのほうから現れるよ。でも、今どこかでひっかかっていて、こっちに来れないみたいなんだ」
「だから、そのじゃまを取りのぞきに行くんだ。このままだと、いつまでも桃の花は咲かないし実もならない。そんなのイヤだろ」
「うん。まぁ」
 思わずうなずいてしまったけど、本当は全然わかってなかった。第一、掛け軸の中の子がここにいること自体納得できない。
「ついてくればわかるさ。いそいでいるんだ。早くおいで」
 二人はまたスピードを早めた。桃子は、何度も人とぶつかりそうになりながらおいかけた。途中で、近所のおばさんに出会い、ひとりでそんなに急いでどこに行くのかとたずねられた。
二人は、桃子にしか見えないと気づいたとたん、背中がゾクリとした。同時に、うきたつ気分にもなった。いきなりお話の主人公に抜擢されたみたい。特別になったって感じだ。
 二人がむかった先は、町はずれの古い神社だった。おじいちゃんがよくおまいりしていたお気にいりの場所。たしか、おじいちゃんは、ここの神主さんとも仲良しだったっけ。
 神社は小高い丘の上にあるので急な階段をのぼらなければならなかった。桃子は、息をきらせながらやっとのことで階段をかけあがった。でも、前を行く二人はすずしい顔。まったく疲れていない様子。
 境内の入り口には、二頭の狛犬がいてこっちをにらんでいた。少し口をあけているほうとあけていないほう。どちらもなかなかこわい顔をしている。二人は、二頭の狛犬の前に分かれて足をとめた。そして、石でできたその像に話かけた。
「これから兆しをむかえにいく。力をかしておくれ」
 二人は、せのびをして狛犬の足をポンポンとたたいた。すると、驚くことに二頭の狛犬の太いまゆがグイッとあがったんだ。
「おや、ひさしぶりだな。何用かな」
「兆しが来られないみたいなの。じゃまがはいってる」
「そのことなら、おいらも気がついていた。ところで」
 狛犬のやぶにらみの大きな目がギョロリと動き桃子をとらえた。
「そこのチビ。こいつは、だれだ?」
 いかにも気にいらないって調子で言い、もぞもぞと足を動かした。桃子は、ふるえあがった。
「桃子だよ。あのじいさんのまご」
「ほほう。この子が桃子か。だから、おまえらのことが見えるのじゃな。よし。それならおれが乗せていこう。兆しの子は兆しを呼ぶって言われてるものな」
 桃子と聞くと、狛犬の顔がみるみるやわらいでいった。かたまった体をほぐすようにのびをしたかと思うと、ピョンと石の台からとびおりた。そして、乗れというようにかがんで、背中を桃子にさしだした。(つづく)