●『サブリエル――冥界の扉』 ガース・ニクス 主婦の友社
かなり分厚い本だが、おもしろくて一気に読んだ。
「古王国記」シリーズの一巻目。主人公は、魔法をあやつる十八歳のすらりとした黒髪の美少女。
死霊に捕らえられた父親を助けに、古王国に単身のりこむ。
敵か味方かわからない複雑怪奇な猫とともに、口笛で飛ぶ紙の飛行機で危機を脱したり、
船首像の青年を生き返らせたり、ファンタジーのおもしろさを堪能させる物語だ。
ちょっとおどろおどろしくホラーっぽいところもあるが、二巻目が待ち遠しい。 (紙魚)
● 『三日月ジョリー』 竹下 文子 岩崎書店
花粉症をわずらってから、五月がとても好きになった。
マスクをとって外を歩けるからだ。折しも、ツツジやフジと花々もいっせいに咲きほこっている。なんてすてきな季節! と神様に感謝したくなる。
その中で一番気に入っているのは風の心地よさ。さわやかで、なんだか楽しいことを運んできてくれそうな予感を含んでいる。そんな事を感じていると五月の風のような気もちいい作品に出会えた。なので今月はそれを紹介。
『三日月ジョリー』 は、ベテラン竹下文子の海の匂いがする作品。黒猫サンゴロウのシリーズでその実力は折り紙つきだか、またまたステキな作品を書いてくれた。
主人公のテールは海の特急配達便ドルフィン・エクスプレスの配達員。つまり船を使った宅配屋だ。
出だし、ハナさんというおばあさんの火事を止めるなど、どことなく『魔女の宅急便』を思わせる、でも、テールは、魔女のキキよりも、ずっともっとクールだ。でも、そのクールさ、自分を自分らしく守るためのうわべの殻。中をのぞけば、追われているルキのめんどうをみちゃうという、人情も秘めている。クールに見えて、実は、あったかいーーこういうキャラに女性は弱いんだよね。そのテールが、今回、黒丸商会というヤクザみたいなあやしげな所を敵に回してがんばっちゃうから、思わず引き込まれてしまうのだ。
だけど竹下文子のよさは、このキャラやストーリー展開だけでは語れない。行間の海の香りが漂っている所や、生きていくことの淋しさが、さりげなく描かれている辺り。特に、読者に「あなたは何をさがしてますか」と問いかけるラストシーンは、余韻を残した。
シリーズ第一作目の『ドルフィン・エクスプレス』もあわせて読むことをおすすめする。