●『本格小説』 水村美苗 新潮社
極上のお酒のような小説。読後、陶然となりました。
『本格小説』という題そのものからして大胆だけれど、正統小説といってもいいな、と思います。小説の世界の豊穣さ、おもしろさに我を忘れて読みふけりました。
まさに堪能させられたという感じです。
物語の構成は入れ子の入れ子と複雑です。まず 本格小説の始まる前の長い長い話 があり、「私」がこの小説を書くにいたった経緯が語られます。そこだけでじゅうぶんにおもしろく、本格小説が始まると、この部分が生きてきます。
本格小説の骨格は作者も書いているように『嵐が丘』で、主人公の東太郎とよう子の、子ども時代からの恋は悲劇に終わります。
読み終わって、時間、時の流れがせつなく胸に残りました。そして真の主人公は、否応なく過ぎていく日々、過ぎていく人生、それと重なった戦後五十年の日本の変貌ではなかろうか、とも思えました。
「ももたろうの」の締め切りが迫っているのに、こんなにも余韻嫋々の本にとりつかれ、後悔しています。
でも、図書館でリクエストして、やっと順番がまわってきたものですから。(紙魚)
● 『おへそのカニくん』 柴田佐和子 ひくまの出版
「キーくんのおへそから、カニくんがでてきて、おしゃべりを始めました」
表紙の裏のそんな言葉に、「えー! どんなおはなし?」と1ページ目を急いでめくりました。
物語は、ときにハラハラドキドキしたり、ホンワカしたりしながら、最後のユーモラスな一行で、気持ちよく着地が決まります。
さばさばしたクールなおかあさんも、いい味をだしてます。 (山田)