●『ムギと王様』 エリナー・ファージョン 石井桃子訳 岩波書店
年末年始忙しくしていたら、むしょうにファージョンが読みたくなりました。
エリナー・ファージョンの作品はとりとめないものが多いと思いますが、読んでいくうちに気持ちが浮世離れしておだやかになっていき、そこが大好きです。「ムギと王様」は、幻想的で不思議なお話や、「十円ぶん」のようなリアルなもの、寓話、昔話のようなもの、と多様なジャンルの二十七編の中短編集です。今回おもしろかったのは、「ガラスのクジャク」「西の森」「サン・フェアリー・アン」。
最後の「パニュキス」も捨てがたい作品でした。五つの男の子キュモンの恋物語とでもいうのでしょうか。キュモンは従姉妹のパニュキスが大好きで大好きで、いつもいっしょ。きれいな小石も花もみんなパニュキスにささげます。歌までつくってあげるのです。ところがある日、パニュキスを失うかもしれないことに気づくのです。キュモンは笑わなくなりパニュキスのそばをはなれません。パニュキスは「たのしそうにして」と手をふりはらって、かけていき、きえてしまうのです。
切なくてこわいお話。でもこんな話を子どものときに読んでいたら、と思います。
ファージョンは学校に行きませんでした。雑多な本が詰め込まれていたほこりだらけの「本の小部屋」で夢中になって読書にふけりました。その部屋のちり、ほこり、それは「星くず、金泥、花粉……いつかは土の下にもどり、ふたたびヒアシンスの形をとって、大地のひざから咲き出すちりあくたたち」 そう彼女は書いています。(紙魚)