『本と本の周辺』
4/12、2004 Update

このページは同人おすすめの本を中心に紹介します。本だけに情報をかぎるのではなく、 それをとりまく映画、アニメなどに話が発展することもあります。また、その時々に気 に入った本を紹介する人、 自分で決めたテーマにそって紹介する人、長い紹介をする人、 短く紹介する人、紹介の仕方も さまざまです。本好きのみなさん、気に入ったところ をお読みいただき、しばしおつきあいください。

2004/4・ 本と本の周辺


●ヤングアダルト的本棚

『NO.6 #1』  あさのあつこ 講談社 YA! ENTERTAIMENT
『NO.6 #2』

 春休みに父母を連れて、ウワサの六本木ヒルズに行った。回転ドアの事件がおこる少し前だった。
 六本木ヒルズは、予想通り混んでいて、予想以上に家族連れが多かった。ビルの中は、おしゃれで塵ひとつなく、迷路のようにいりくんでいた。迷った末、何階もつらぬいた大きな吹き抜けの空間にでた。上を見ると空中廊下がいくつも交差して渡っている。あれ、こんな景色、どこかでみたことがあるぞと、わたしは、記憶のページをめくった。いきあたったのは、手塚治虫の漫画。かつて手塚氏がマンガの中で描いた未来のショッピングセンターの中ととてもよく似ているのだ。
 きっと幼い頃のわたしは、その手塚氏の描いた未来の光景をワクワクしながら読んだのだろう。でも、今、そのマンガとよくにた空間にいる私は、あまりワクワクしていなかった。それどころか、こんな大きなビルばかりつくっちゃってだいじょうぶかなって不安の中にいた。未来を思う時、不安をともなうようになったのは、いったいいつの頃からだろう……。そんなことを思いながら、最上階の展望台からどこにも隙間のない東京の街を見下ろしたのだ。
 ということで、今月は未来を題材にしたお話を紹介。

『NO.6』はあさのあつこのティーン向けの新シリーズ。舞台は2013年。題名のNO.6というのは、選ばれた者だけが住める理想的とされる管理都市のことだ。
 主人公は紫苑という少年で、幼児検診で最高ランクに選ばれたエリート。十二才の誕生日、家に迷い込んできた同い年の追われている少年を助けてかくまった。少年はネズミと名乗り、次の朝には、もう姿を消していた。だが、かくまったことは市に知れ、ここから、紫苑の運命が変わる。
 四年後、エリートコースをはずされた紫苑は、公園管理の仕事についていた。公園で人が死ぬ事件がおき、市は、かつて問題行動をとった紫苑を犯人にしたてあげるためつかまえようとする。その危機をすくってくれたのが、ネズミ。ネズミの誘導で追っ手をふりきり、管理都市をぬけだすことにふたりは成功する。でも、この成功は理想都市NO.6を敵にまわした逃亡生活の始まりでもあるのだ。
 まず、キャラ設定がいい。紫苑とネズミの対比おもしろい。話題作『バッテリー』でもそうだったように、性格も生き方も対象的な男の子ふたりを登場させ、違い認識させながら、友情の育っていく様子を巧みに描いる。乱暴な会話、そっけない態度、それに反して揺れ動きひかれていく少年たち。若い読者たちは、テンポのいいストーリー運びと、こきみいい会話に、きっと、ひきこまれていくだろう。
 ただ、情景の描写、未来の描き方ととなると少しものたりない。より奥行きのある作品にするために、そのあたりのさらなる充実を期待したい。
 だが、まだ、シリーズの二巻がでたにすぎず、物語は始まったばかりだ。紫苑とネズミ、このふたりが理想都市NO.6に、どういう形で挑んでいくのか、これからが楽しみである。(赤羽)
 

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