『本と本の周辺』
5/10、2004 Update

このページは同人おすすめの本を中心に紹介します。本だけに情報をかぎるのではなく、 それをとりまく映画、アニメなどに話が発展することもあります。また、その時々に気 に入った本を紹介する人、 自分で決めたテーマにそって紹介する人、長い紹介をする人、 短く紹介する人、紹介の仕方も さまざまです。本好きのみなさん、気に入ったところ をお読みいただき、しばしおつきあいください。

2004/5・ 本と本の周辺


『台所のマリアさま』  ルーマー・ゴッデン  評論社
 
 名作『人形の家』を書いたルーマー・ゴッデンの作品です。複雑な味わいをもつ『人形の家』にくらべ、『台所のマリアさま』はストーリーも登場人物もシンプルです。シンプルであるがゆえに力強く、読みすすむにつれて胸が熱くなり、再読、再々読しました。私としては『人形の家』よりこちらが好きです。
 主人公は9歳の男の子グレゴリー。たいへん無口で、お母さんにいわせれば自分にしか関心がなく、自分の部屋には7歳の妹のジャネットしか入れません。グレゴリーの両親は共働きでしょっちゅうお手伝いさんが変わり、時には二人は隣近所にあずけられたりします。そこにウクライナ人のマルタというお手伝いさんがやってきました。若くはないマルタは一日中台所にいておいしい料理を作り、グレゴリーとジャネットはマルタの昔話を夢中になって聞きます。でもマルタは幸せではありません。それは故郷の家のように台所にマリアさまがいないから。グレゴリーはマルタのためにさまざまな困難を乗り越え、多大の犠牲を払ってマリアさまを作りあげます。グレゴリーの部屋で完成したマリアさまを見せられたお母さんは、わっと泣き出します。
 これほどの名作を今まで知らなかったなんて……。わが子が小さいときに読ませたかったなあ、とたいへん残念です。
 
 今回は『ネシャン・サーガ』について書こうと思っていました。『ネシャン・サーガ』は予言、魔法、友情、悪との対決などなど盛りだくさんのファンタジーでした。不可思議で魅力的だったのが、主人公ヨナタンとこちらの世界のジョナサンの関係です。でも第二巻目でその謎?にもけりがつき、面白さが半減したように感じられました。それでも一気に最後まで読めました。(紙魚)
 
『日本の森にオオカミの群れを放て』(文・吉家世洋、監修・丸山直樹、ビイング・ネット・プレス)

 『ももたろう』の購読者になってくださっている田村正一さんは、「日本オオカミ協会」の副理事長をされています。今回、上記の本と協会発行の雑誌『フォレスト・コール』bP0を送ってくださいました。
 日本オオカミ協会の目的は、「オオカミと生態系についての科学的で正しい情報を提供することで、日本におけるオオカミの復活と、それによる森林生態系の維持、回復に寄与すること」となっています。
 さて本書によると、日本の自然生態系の頂点にはオオカミがいて、絶滅して1世紀たらずだそうです。生態系の頂点を失うことによって、生態系が大きく変化し、日本の自然は急速に崩壊へむかっていると捉えます。一例をあげると鹿が増えすぎ、樹皮をかじりとって木を枯死させ、そのために種を育てる役目をしているコケが枯死し、原生林が急速に崩壊していくのだそうです。
 本書の大半は、日本の森林にオオカミを復活させる計画についてかかれています。絶滅したニホンオオカミと同じ先祖をもつ、中国のオオカミを日本の森林地帯に放すという計画です。これは、最先端の生態学に基づいた、合理的で壮大な自然の修復計画なのだと本書は説きます。
 「オオカミが人を襲ったらどうするの?」「いきなりオオカミを復活させたら、生態系がよけい狂ってしまうのでは?」「オオカミが増えすぎたらどうするの?」「人が生態系を故意にいじっていいの?」「だいいち、そんなこと可能?」・・
 疑問はたくさんあると思うので、そういう方は本書を読んでみてください。欧米では、オオカミ復活計画にずっと以前からとりくんでいて、実際にイエローストーン公園には、カナダのオオカミが放されたそうです。
 ううむ、アメリカなら広いからだいじょうぶなようか気もするが・・なんてのは安易なイメージでしょうね。そういえばテレビでオオカミ牧場をつくっている人を見たことを思い出しました。日本で、なぜオオカミと呼ばれるのかというと、これは大神の意であり、オオカミは山の神、またはその使いとして崇められてきたのです。たしかにオオカミは、物語の世界ではたくさん生きているのに、実際に日本にいないのはなんともさびしいですね。かといって、オオカミの復活がそんなに簡単なのかは素人の私には判断がつきかねます。生態系の回復をめざして活動する他のグループや団体から、「オオカミ復活計画」はどのように捉えられているのでしょうか? そこも知りたいと思いました。
 ほかの種を絶滅させたり、復活させたりする力をもつ人間は、生態系のどこにも属することができないはみだし者。そのはみだし者が考える知恵で、自然にどのくらいの手当てができるのかしらと、なんだか明るい気持ちになれない私でした。関心はあるのになんの努力もしていなくてごめんなさい、と誰にともなく頭を下げました。(堀切)


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