『本と本の周辺』
7/15、2004 Update

このページは同人おすすめの本を中心に紹介します。本だけに情報をかぎるのではなく、 それをとりまく映画、アニメなどに話が発展することもあります。また、その時々に気 に入った本を紹介する人、 自分で決めたテーマにそって紹介する人、長い紹介をする人、 短く紹介する人、紹介の仕方も さまざまです。本好きのみなさん、気に入ったところ をお読みいただき、しばしおつきあいください。

2004/7・ 本と本の周辺


― 「赤毛のアン」の秘密 ―  小倉千加子  岩波書店
 
 カナダではとっくに忘れ去られた「赤毛のアン」が、なぜ日本で読み続けられているのか? その秘密に迫ろうという本だ。長らく日本で読みつがれている理由は 第8章「ロマンチック」の呪縛 にまとめられている。 
 まず、日本において「ロマンチック」と呼ばれるものが「赤毛のアン」の中に満ち溢れていること。そしてアメリカではなくイギリスの自治領カナダの作品であること。また、『赤毛のアン』のテーマは結婚であり、近代結婚とは、少女に「自立」をそそのかしながら、勤勉に努力した少女が「自立」したゆえに陥る疎外感と孤独感を、「ロマンチック」な恋愛を媒介にして、女性が本来ある「身分」に戻す制度である。それは社会全体の制度秩序を温存させる制度であるがために、戦後の国家要請にぴったりと合致した物語であったこと。そう分析していて、うーん、なるほどなあ、と思った。
 モンゴメリは結婚相手を愛情からではなく相手の学歴や職業によって決めたことや、「女性であること」と「作家であること」の両立不可能性に、自殺という結論を出したことなどが書かれていて、これにはおどろいた。
 おそらく筆者は「赤毛のアン」の熱心な読者ではないだろう。その論にうなずける点は多々あるにしても、「赤毛のアン」の熱心な読者のわたしは、読後、釈然としなかった。「赤毛のアン」シリーズの魅力は、小さな村の人々や生活を活写していること、保守的であったとしても、田舎の足が地についた幸福な生活が描かれていること、にあると思うのだが。(紙魚)
 

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