『本と本の周辺』
8/12、2004 Update

このページは同人おすすめの本を中心に紹介します。本だけに情報をかぎるのではなく、 それをとりまく映画、アニメなどに話が発展することもあります。また、その時々に気 に入った本を紹介する人、 自分で決めたテーマにそって紹介する人、長い紹介をする人、 短く紹介する人、紹介の仕方も さまざまです。本好きのみなさん、気に入ったところ をお読みいただき、しばしおつきあいください。

2004/8・ 本と本の周辺


ヤングアダルト的本棚

『アグリーガール』 ジョイス・キャロル・オーツ
          神戸万知 訳 理論社

 アテネオリンピックが始まる。テレビも、盛り上げようと各社そろってアテネの話題を取り上げている。その盛り上げネタのひとつに、アテネをミテネというキャッチで民放のアナウンサーがでてくるCMがある。それを見て、びっくりした。民放の女子アナがみんな同じ顔に見えてしまったのだ。みんなきれいで理知的でステキな女の人たち。でも、個性がみられない。笑い方まで、とてもそっくり。
 でも、これは、なにもテレビの中だけの現象じゃない。街で見かける女の子たちもそうだ。女子高校生は、みんな同じくスカートを短くし、濃いマスカラをつけたまつげをビューラでめいっぱいあげて、目をぱっちり見せている。例外もたしかにいるが、ほとんどの人って「みんなと同じ」が好きなんだなって思ってしまう。きっと、安心するんだ。その気持ちは、わからなくない。わたしだって、そういう部分は多いにある。だけど、ひとりくらい、この暑さをふきとばすような個性的なカッコいい子はいないかなっと思っていたら出会えた。ただし、本の中で。
『アグリーガール』の主人公、アーシュラ・リクスは、ロッキーリバー高校にかよう背の高い、バスケットボールが好きな女の子。アーシュラは、ある日、目ざめた瞬間に、自分はただのみにくい女の子ではなくてアグリーガールなんだと気づき、それ以来、心配症のウジウジしたいた自分を卒業する。アグリーガールは、自分の体にコンプレックスをもったりせず、他人の目をも気にせず、堂々と自分を生きている。他の子と摩擦をおこし、バスケット部をやめたりしてママを心配させるが、そんなこと、アグリーガールはかまわない。
 そんなアグリーガールの学校で爆弾騒ぎが起こった。警察がつかまえたのはマットという男の子。カフェテリアでふざけて学校を爆破してやると言った冗談を聞きかじった人に通報され、爆弾テロ犯人のぬれぎぬをきせられたのだ。仲良かった子がだれもマットをかばってくれない中、アグリーガールだけが、あれは冗談で、それを間にうけるなんておかしいと証言する。これでマットは解放されたが、マットの周囲の友人たちは彼をさけ、マットは、どんどん精神的においつめられていく。そんなマットとアグリーガールは再び出会い、独特な深い友情を育てていく。
 一本のでたらめな告げ口の電話が、ひとりの男の子の運命をかえてしまい、まわりの人たちが、かかわらないでおこうとさける側にまわる……この展開が、今の社会をとてもよく映し出していて、リアルでこわい。母親、父親までが、子どもたち以上に動揺し、かかわらない方をすすめる。そんな中、自分の信念にしたがって動くアグリーガールは実にカッコよくて、スカッとする。人を信じること、自分を信じること、どちらもなまやさしいものではなく、痛みをともなうことで、だからこそ尊いのだと自然に感じられた。だから、帯にかかれていた「自分らしくあることは、こんなにも痛く切ない」という文は、この本を紹介するのに実にぴったり。ひとりひとりの個性をのばすには、それを許容する社会が必要なのであって、社会にその器がない所で、個性的であることは、非常にエネルギーがいるし、疲れることなのだ。
 作者は、文中にいくつも、送らなかった(送れなかった)メールをもりこんで、登場人物の心の迷いをすくいあげてみせてくれてる。くどくど説明するのでなく、削除したの一言が、なによりもその時の気持ちをあらわしていて、とても効果的だと思った。
 読みおわった後、わたしは、中島みゆきの「ファイト」という歌の一節を思いだした。「たたかう君のことを、たたかわない奴らが笑うだろう……」(赤羽)

 

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