『本と本の周辺』
9/12、2004 Update

このページは同人おすすめの本を中心に紹介します。本だけに情報をかぎるのではなく、 それをとりまく映画、アニメなどに話が発展することもあります。また、その時々に気 に入った本を紹介する人、 自分で決めたテーマにそって紹介する人、長い紹介をする人、 短く紹介する人、紹介の仕方も さまざまです。本好きのみなさん、気に入ったところ をお読みいただき、しばしおつきあいください。

2004/9・ 本と本の周辺


ヤングアダルト的本棚
『僕は悪党になりたい』 笹生陽子 角川書店
 児童書でブレイクしたあさのあつこの『バッテリー』が文庫になって積まれていた。大きなポップがついていて店員の一押しとなっている。でもその理由が「児童文学とは思えないおもしろさ」と書いてあり、ちょっとがっくり。どうも児童向けの作品と大人向けの作品の間には、やっかいな見えない壁があるらしい。そして児童向けのほうが、格下に見られているようだ。だが近頃は、そんな児童向けとか大人向けとかの壁を吹き飛ばしてくれそうな元気な作家が増えてきてるみたいだ。なので、今月はそれを紹介
 『僕は悪党になりたい』の主人公、兎丸エイジは、実にさえないやつ。奔放な母が仕事で海外に行くのに文句を言わず、父親のちがう弟のめんどうを、かいがいしくみてしまう毎日。おいおい、本当にこんなまじめな男子高校生いるのかと、つっこみを入れたくなるほど、けなげに働く。
 個性的でキャラの濃い友人にふりまわされ、弟にもふりまわされ、エイジはさすがにストレスがたまっていく。そしてこの損な役回りを脱して、自由に生きていこうと一大決心をするのだ。しかし…。
 ストーリーの中で何度も『ギルバート・グレイプ』というアメリカ映画が話題になる。たぶん作者は、この映画のファンで、現代日本版『ギルバート・グレイプ』を書こうとしたのだろう。結果は異なるがその試みは成功している。
 物語はテンポよく、読者をおどろかせながらぐいぐいすすんでいく。自由になりたいけどなれない、なぜかいつも周りの人に振り回されて自分を出すことができない…。そんな思いを一度でもかかえたことのある人なら、エイジのふがいなさにあきれつつも、「そうだよな、そんなこともあるよな」と思いをよせるのではないか。(赤羽)
 

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