『本と本の周辺』
10/12、2004 Update

このページは同人おすすめの本を中心に紹介します。本だけに情報をかぎるのではなく、 それをとりまく映画、アニメなどに話が発展することもあります。また、その時々に気 に入った本を紹介する人、 自分で決めたテーマにそって紹介する人、長い紹介をする人、 短く紹介する人、紹介の仕方も さまざまです。本好きのみなさん、気に入ったところ をお読みいただき、しばしおつきあいください。

2004/10・ 本と本の周辺


ヤングアダルト的本棚
『真夜中の飛行』  リタ・マーフィー作 三辺律子訳 小峰書店

 この頃周りをみまわすと、友だち親子という関係がとても増えていて、それに比例するように頑固親父とかきびしい母親とかは聞かなくなった。成績にうるさい親とか過干渉の親は多い。でも、がんとして自分の方針をつらぬき、それを強いるような親はほとんど聞かない。携帯だって泣けば買ってあげちゃうし、カラオケのオールナイトだって「しかたないわねぇ」で許しちゃったりしている。物わかりのいい親をめざしている人が多いのだ。それがいいのか悪いのかは、わたしにはわからない。ただ、かつてきびしさから学んでいたものを、今は学べずにいるのはたしかだ。今月、そんなことを思ったのも、きっと『真夜中の飛行』を読んだからだろう。
 『真夜中の飛行』のハンセン家の女たちは、みんな飛ぶ能力をもっている。ほうきにのって飛ぶのではなく、体を風にのせて、自分意志で飛ぶ。一瞬でもできないと疑ったら、たちまち空から落ちてしまうというくらい、飛ぶのは命がけだ。
 そのハンセン家は、おばあさまの決めた規則でしばられていた。昼間飛ぶべからず、肉を食べてはダメ、男の人を家にいれてはいけない、細かいことまですべておばあさまの許可がなければすすまない家なのだ。主人公の少女ジョージァ・ハンセンは、そんな規則や、女ばかりの家族の暮らしに疑問をもちながらも、16歳の誕生日におこなわらえる単独飛行の儀式の準備をしていた。その儀式が終わったら、いつかこの家を出たいともこっそり考えている。でも、そんなジョージァの前に、突然、破門されていた叔母のカルメンがあらわれる。自由で、何にもしばられない生活をしているカルメンに刺激されジョージァの気持ちは揺れ動き、そして……。
全体を通して、ジョージァが空を飛んでいる時の気持ち(爽快感、恐怖、達成感など)が実によく描かれていて、読んでいるといっしょに空を飛んでいる気持ちになれる。結末は、予測できる範囲だけど、ジョージァのまっすぐなやさしさが気持ちよく、一歩ふみ出る勇気を読者に与えてくれるだろう。
 表紙の絵は絵本などで人気のある酒井駒子。この装丁に誘われて、わたしはこの本を手にとった。表紙は、時に物語り以上に物語りのことを表してると、この本で感じた。(赤羽)
 

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