『本と本の周辺』
12/12、2004 Update

このページは同人おすすめの本を中心に紹介します。本だけに情報をかぎるのではなく、 それをとりまく映画、アニメなどに話が発展することもあります。また、その時々に気 に入った本を紹介する人、 自分で決めたテーマにそって紹介する人、長い紹介をする人、 短く紹介する人、紹介の仕方も さまざまです。本好きのみなさん、気に入ったところ をお読みいただき、しばしおつきあいください。

2004/12・ 本と本の周辺


 ヤングアダルト的本棚
 『安房直子コレクション』 安房直子作 偕成社

 12月になると一年のしめくくりという気持ちになり、今年の一冊をえらんでみたくなるものだ。今年もたくさんおもしろい本に出会い、そのたびに、ため息をついたり、目をうるませたり、ラストの意外さに息をのんだりしたが、やはり今年の本をわたしが選ぶとしたら「安房直子コレクション」だろう。50才の若さで亡くなったファンタジー作家、安房直子氏の主要な作品71点とエッセイ40点あまりを掲載した作品集である。お話の内容べつに全七巻にわかれていて、最後の七巻目には、作品目録と年譜がついている。帯に「どうしても読みたいあの話」とあるが、ファンにとっては、まさにぴったりの形容だろう。  安房直子さんの作品のよさは、たくさんの人が語っているので、わたしが言うまでもないが、あえて言わせてもらえば、心の奥深い所に眠っている淋しさにそっとよりそうような童話だと言いたい。どの物語も静かで、どこかせつなく、かげりが感じられる。こつこつと自分の世界にうちこむ世渡りがうまくない職人など、不器用な内気な主人公も多くでてくる。  しかし、選びぬかれた言葉からたちあがってくる作品世界のイメージは、くっきりとあざやかだ。描写が観念的でなく視覚的で、ひとつひとつの場面が頭の中にはっきりとひろがるからだろう。だから、読みおわったあと、いつまでもその世界が残る。なので、桔梗の花を見るたび、親指と人差し指をあわせて窓をつくってのぞいてみるし、耳そうじをするたび、耳の中に秘密をおとしてしまった少女のことを考えてみたりする。そして、山椒の木のすりこぎをみるたび、風になってしまった女の子のことを思い浮かべるのだ。  自分が児童書をかくようになって知ったのだが、安房直子さんにあこがれて童話をかきはじめた女性の作家は数多くいる。初め安房直子さんと同じような世界を描き始め、真似では安房直子さんをこえられないのだと思い悩み、それぞれ自分の描く世界を模索して見つけていかれている。そういう意味では、安房直子さんは、あこがれであると同時に、立ちふさがる大きな壁でもある。いつか彼女を越える世界を書かれる人が出て来られるのだろうか? 出てきてほしいような、出てきてほしくないような、ファンとしては複雑である。 (赤羽)
 

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