『本と本の周辺』
1/12、2005 Update

このページは同人おすすめの本を中心に紹介します。本だけに情報をかぎるのではなく、 それをとりまく映画、アニメなどに話が発展することもあります。また、その時々に気 に入った本を紹介する人、 自分で決めたテーマにそって紹介する人、長い紹介をする人、 短く紹介する人、紹介の仕方も さまざまです。本好きのみなさん、気に入ったところ をお読みいただき、しばしおつきあいください。

2005/1・ 本と本の周辺


●ヤングアダルト的本棚 
『となりのこども』 岩瀬成子 理論社

 児童書を読んでいて、こんな子、めったにいないだろう!って思うことがしばしばある。とってもしっかりしていて、物の道理をわきまえていて、前向きで、元気でと、すごくいい子だったりする時だ。きっと、わたしがそういうのとはかけ離れた子どもだったから、よけいにそう思うのだろう。同時にキャラ作りに撤しすぎて、わざとらしいと思うこともある。どちらも、作品の流れでそう描いているのだから、それが一概に悪いとはいえないし、それでおもしろいこともある。でも、そういうタイプの話ばかりだと、たまには、ちょっと違った子どもが描かれている作品も読みたいと思ってしまう。そう、読者とは、とてもわがまままなのだ。で、そう思ってさがしていたら、今回、ばったりと出会えた。

『となりのこども』は、岩瀬成子のひさびさの連作短篇集だ。
 夜歩き常習者の麻智、夢のお告げをノートにかきつけている理沙、人形と話をするおばあさん、親切心をおこしたために自転車を盗まれて母親に怒られる姉妹と、登場人物は、どの人もどこか不器用で、他人とのかかわりがあまりうまくない。そういう人たちの、日常生活における気持ちのうずきとときめきが、静かで落ち着いたタッチで描かれている。
 とくに、最後の作品『鹿』にひかれた。麻智は、仲良くなった年下のあずさちゃんをかわいく思ったかと思えば、次の瞬間、うっとおしくていやだと思ったりする。本を読んでとねだられることにうんざりして、麻智は、あずさちゃんを図書館においてこようと考えてトイレに行く。結局は、泣きそうな顔で自分をさがすあずさちゃんを見ておいてこられないのだが、その時の一瞬わきあがってきたいじわるな思いをふりかえり、麻智は、「自分で自分の気持ちがわからなかった」と表現する。そして、手をつないでの帰り道ふたりで白い鹿を見るのである。ここで重要なのは、鹿が本当にいたかどうかということではない。ふたりでいっしょに不思議なことを共有したということだ。
 読み終わって、そうだよなって思う。子どもの頃って、つかみどころのない気分にふりまわされて、いじわるな気持ちになったり、やさしい気持ちになったりしていた。だから、けんかや仲なおりを繰り返していたのだ。そんな中でハッとするほどいいこともあったし、思いだしたくないみじめな思いや後悔もした。
 岩瀬成子は、そんな等身大の子どもの喜びと不安を、過剰な演出をすることなく自然に描いている。なので、読者は、心のすみをきゅんとつねられたような気になるのだ。(赤羽)
 
 

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