『本と本の周辺』
8/10、2005 Update

このページは同人おすすめの本を中心に紹介します。本だけに情報をかぎるのではなく、 それをとりまく映画、アニメなどに話が発展することもあります。また、その時々に気 に入った本を紹介する人、 自分で決めたテーマにそって紹介する人、長い紹介をする人、 短く紹介する人、紹介の仕方も さまざまです。本好きのみなさん、気に入ったところ をお読みいただき、しばしおつきあいください。

2005/8・ 本と本の周辺


●ヤングアダルト的本棚
 『となり町戦争』 三崎亜記 集英社
 『パジャマガ−ル』 きどのりこ くもん出版

 暑い暑い夏。だらっとした頭がピリッとする二冊を紹介。
 一冊目は、すばる文学賞受賞作で直木賞の候補にもあがった『となり町戦争』。この作品、一ぺ−ジ目から驚かされた。黒い囲みの「となり町との戦争のお知らせ」という文字が目にとびこんできたからだ。で、それを見た主人公の僕は、驚きながらも、けっこう冷静なのだ。なんだこれは! と、わたしは首をひねった。だって、戦争だよ。普通、逃げようとか、その開始の理由を知ろうとか、実態をたしかめようとか、しないでいいの? もしわたしが主人公なら、役場に電話したり、友人や知り合いに聞いてまわったり、大騒ぎするに違いない。でも、本の中の僕は、能動的なことはなにもしない。そんな態度にあきれながらも、となり町との戦争がどんなものか知りたくて、ぺ−ジをめくると、実に奇妙で不可解な戦争が描かれていた。血は一滴も流れず、戦車や銃弾もでてこない。休戦日まである役場の論理にもとずいた静かな戦争。ただ、戦死者だけは、確実に増えていっている。
 そんな中、主人公の僕は、拠点偵察の任務を命じられ、役場の香西さんと疑似結婚し、となり町にうつりすむ。ここでも、僕は割り切れない気持ちをもちながらも、たんたんと任務をこなしていく。始まった時と同じように、唐突に戦争は終わりをつげ、そして……。
 わたしは読み終わっても、この戦争はなんだったんだろうという割り切れなさと違和感をずっとひきずった。しかし、この違和感こそ作者のねらいなのだと思うし、そこにこの小説の新しさもある。静かで血が直接見えない、たんたんとした戦争……、考えてみればこれほど恐ろしいものはなく、イラクの戦争ともどこかつながっている。時代が揺れ動いている今、となり町戦争みたいなことがおこらないという保証はどこにもない。
 
 二冊目の『パジャマガ−ル』は、色合の異なる三作品がつまった短編集。どれも心の奥にひびく芯のある作品だ。
 まず、題名の『パジャマガ−ル』。学校を拒否して、いつもパジャマですごすアッコが、ミナの部屋の下に見える公園で穴をほっている。どうもミナを意識してほっているように見える。どうしてだろうと注意深く観察すると、ミナの飼猫のマヤを生き埋めにする穴をほってるようなのだ。ミナはダッシュしてマヤを助けるが、アッコに対する嫌悪感はつのる。しかし、そこからふたりのぎこちない友情が始まるのだ。父親からの暴力、弟の病気など、作品に描かれている情況は重く、話もけっして軽い友情話ではない。でも、そこにはたしかな現実がしっかり描かれていて、だからこそ、最後のハンザキ(オオサンショウウオの稚魚。体が半分にさかれても生きていると言われてこんな名前がついた)の脱皮にたとえたエピソ−ドに胸が熱くなる。
 この他、岩手県の遠野の機織りのモヨ婆が不思議な力で孫の命を助ける話、宮古島で老女のマブイ(魂)をさがしてあげようとする風子の話などが続く。どちらも生と死の境にふれる話だが、底に流れているまなざしはとてもあたたかい。きどのりこというベテランの作家だからこそ書けた世界だと感じさせられた。(赤羽)
 


 

ホームへ