『本と本の周辺』
11/10、2005 Update

このページは同人おすすめの本を中心に紹介します。本だけに情報をかぎるのではなく、 それをとりまく映画、アニメなどに話が発展することもあります。また、その時々に気 に入った本を紹介する人、 自分で決めたテーマにそって紹介する人、長い紹介をする人、 短く紹介する人、紹介の仕方も さまざまです。本好きのみなさん、気に入ったところ をお読みいただき、しばしおつきあいください。

2005/10・ 本と本の周辺


●ヤングアダルト的本棚
 『この本が、世界に存在することに』角田光代 メディアファクトリー

『世界の中心で愛をさけぶ』がベストセラーになったのはついこの間なのに、昨日、わたしがさがした大型書店では、もう一冊もおいていなかった。それくらい、最近の本の回転は早く、目新しい話題の本が、次々と本屋にうず高くつみあげられている。
 わたしは、暇さえあれば大型の本屋をぶらぶらする。ポップがゆれてたり、売れ行きのNO1からNO10と番号がつけられてたり、興味をひく工夫がされている所も多い。でも、時々にぎやかすぎてうんざりすることもある。どの本も読んで読んでとせまってくるからだ。
 ひと昔前の本屋は、そうではなかった気がする。「おまえに読めるものか」とこっちをにらみつける本もあったし、棚からとりだす時、思わす背筋をただしてしまう本もあった。そういう風格のある本を、急速に見かけなくなってしまった。これは、さびしいことだと思う。
そんなことを考えたわたしに、本が主人公の作品集が飛び込んできた。なので今月は、それを紹介。
『この本が、世界に存在することに』は、九つの短編が納められている。旅の先々で必ずめぐりあってしまう本、旅館の棚にあった本にはさまっていただれかの手紙、彼と別れることになり、彼といっしょに買った本をどう分けるか悩む女の子の話など、どこにでもありそうな話ばかり。殺人事件もでてこないし、恋人がよみがえってきたりもしない。でも、非凡に感じるのは、作者の細やかな心情描写と本に対する深く豊かな愛情が強く作品を支えているからだ。本によって豊かな時間をえたことがある人、本によって救われたと思ったことがある人、一時でもすべてを忘れて本の世界に没頭したことがある人、そういう人なら、この本にでてくる登場人物の思いに共感するに違いない。
 わたしがとくに好きなのは、『ミツザワ書店』という作品。新人賞をとった作家がプレッシャーにまけそうになり、地元に一軒しかなかった小さな古い本屋を訪れる話だ。せっかく行ったが地元の小さな本屋は廃業しており、主人のおばあさんも死亡していた。残っていた店舗に入れてもらった新人作家は、当時のまま山積みされている沢山の本たちの中に、新しい自分の本を置いてみる。その本の幸福そうな様子に、『不釣り合いでも、煮詰まっても、自分の言葉に絶望しても、それでも小説をかこう』と勇気をもらうのだ。
 これらの短編の初出は、WEBダビンチというインターネット。本への愛情あふれる作品たちが、雑誌ではなくインターネットから生まれたことに時代の流れを感じた。
                                                                 (赤羽)

 

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