『本と本の周辺』
11/10、2005 Update

このページは同人おすすめの本を中心に紹介します。本だけに情報をかぎるのではなく、 それをとりまく映画、アニメなどに話が発展することもあります。また、その時々に気 に入った本を紹介する人、 自分で決めたテーマにそって紹介する人、長い紹介をする人、 短く紹介する人、紹介の仕方も さまざまです。本好きのみなさん、気に入ったところ をお読みいただき、しばしおつきあいください。

2005/11・ 本と本の周辺


●ヤングアダルト的本棚
『わたしたちの帽子』 高楼方子 出久根育  フレーベル館

 十一月は、寒さに向かう季節だ。一日ごとに日が短くなるこの時期になると、元気印のわたしも、もの思いに沈みたくなってしまう。そんな秋に季節にぴったりな繊細でしっとりした作品に出会えた。なので、今月はそれを紹介。
 
 『わたしたちの帽子』は、五年生のサキが、改装中だけ古いビルの一室に引っ越す所から始まる。サキは、引っ越した先にあったタンスの中に古い帽子を見つけ、ひと目で気にいる。その帽子をかぶり逃げ出した小鳥のチルルを捜すうちに、サキは同じ帽子をかぶった育ちゃんと出会う。ふたりは、たちまち気があい、次の日から同じ帽子をかぶって迷路のようなビルの中を探険するのだが……。
 (育ちゃんってだれだろう。本当にいる子? それとも?)そんな疑問につき動かされて、ぺージをめくる手は早くなる。だが、作者の高楼方子さんは、あくまでしっとりしたタッチで、サキの心情をゆっくり丁寧にえがいていく。その繊細なのんびりさが謎めいた雰囲気を深めて、行間に色と味を感じさせる。古いビル内の描写は、すりガラス越しに秘密の世界をのぞきみするようなワクワク感を読者に与え、子供の頃にしたたわいない探険の楽しさを思いおこさせてくれる。ラストはわたしの予想とは違っていたが、それがまた楽しく、見事な夕焼けを見た後のような、ふっくらした気持ちになれる作品だ。
 出久根育のアンティーク家具のような雰囲気をもった挿し絵もぴったり。見返しの模様まで気配りされていて、だれかにプレゼントしたくなるようなきれいで味のある本だ。  (赤羽) 


 

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