ももたろうリレー童話・第二作

『雪女と発熱男』

第一話 融けてしまいそう

酔う怪                                      



 雪にとじこめられた山小屋に一人のこっていた義人は、ある朝、体が熱くて目がさめた。ふつうの発熱とはちがうようだ。ふとんがグッショリぬれている。あわてて体温計を脇の下にはさんだ。
「ご、ごじゅーごどぉ!」
 いやいや、これは体温計がくるっているんだ。人間の体温は三六度ちょっと。熱が出たとしても四〇度くらいのはずだ。体温計をふって、また脇にはさむ。やはり五五度。べつの体温計をさがしてはさんだ。かわらない。
「のどがかわくわけだ。」
 そういって、台所に立った。氷のような水が心地よい。水で手を洗ってひたいにあてた。尋常の熱じゃない。
「でも、体温がこんなにあがったら、脳が煮えたってバカになるはずだ。いや、心臓だって爆発するだろう。でも、おれはいま、バカではないらしいし、心臓もおかしくない。だから、これは一時のことなんだ。」
 そう思うと、ホッとして朝ご飯を作りはじめた。おなかだけはいつものようにすいている。
 食パンを切り、卵を焼く。ふと鏡を見ると、顔が赤いほかは、昨日までとかわりない。
「うん、あいかわらず、おれはりりしい。」
 自分でうなずくと、食卓にすわった。ところが、食事が終わったとたん、体温が上がり始めた。
「これは六〇度はあるぞ。」
 義人はパジャマをぬぎすてると、氷のような風呂に飛びこんだ。
「うおーっ、気持ちいい。」
 待てよ。雪渓に飛びこんだら、もっと気持ちいいだろう。ほんとうの露天風呂だ。そう気づくと、義人は手早くTシャツとジーパンだけを身につけ、外に出た。雪が舞って道が見えない。でも地形は知っている。十分も歩けば、たいらな窪地がある。義人はそこを目指した。窪地につくと、義人はまた裸になり、いきなり雪にダイビングした。
「ヒュヨーッ。」
 全身の熱がうばわれていく。体の下でとける雪の感触が、なんともいえない。そのとき。
「なんて、はしたない。」
 女の声がした。
「えっ。」
 顔をあげると、窪地のふちに女が立っている。白い着物に白い帯。長い髪が風になびいている。切れ長の目がほほえんでいる。唇の赤さが印象的だ。あおむけでなくてよかった。
 女はスーッと義人のそばにきた。そして顔を見ていう。
「まあ、美しいかた。」
 そういわれてもなあ。
「あのう、服を着たいんですが。」
「ほほほ。では後を向いていましょう。」
 義人は服を身につけると女のまえに立った。背は肩ほどしかない。
「雪のなかじゃあ、話もできません。山小屋へいきませんか。」
 女はうなずいた。義人は手をのばして、女の手をとった。とたん。
「熱い! なんて熱いの。そばに近寄ってはだめ!。」
 女はさけびながら、二メートルもとびすさった。                                                                               

第二話に続く