★はむはむの悲劇★

 


ある日、毛利家の某長男は、自分の部屋でお昼寝をしておりました。
春先は、ぽかぽかと気持ちがいいので、ぐっすり眠って、気付いてみると、何故かハムスターになっていたのです。
某長男は、混乱してしまいました。
先ず、何だって自分ばっかりこんなに不幸になるんだろう、と、どっぷりと落ち込んだ後で、どうしよう、と思いました。
悩んで悩んで、結局、仕方が無いので、弟達に相談しようと思った某長男は、短くなった足を細めに動かして、廊下に出てみました。
そして、呆然としてしまったのです。
何と言うことでしょう。
廊下が、それはもう、恐ろしく長いのです。
しかし、ここに居ても、どうしようもありません。
蔵のねずみ取りに飼っている猫に捕まってしまうかも知れません。
そう思った某長男は、てけてけと歩き出しました。
が、短い上に四つ足で、ハムスターなので、どうにもうまく前に進みません。
ころころと転びながら、何とか、某次男の部屋の桟に辿り付いた時には、もう疲れ果ててぐったりとしていました。
ところが、外遊びの大好きな某次男は、丁度、お留守だったのです。
ハムスターな某長男は、ぺたりと座り込んで、またしても不幸な気分にどっぷりと浸りました。
しかし、ハムスターの格好では、どんなに落ち込んでいても、誰も何も言ってはくれません。
それどころか、きっと、苛められてしまいます。
何とか立ち直った某長男は、長い長い廊下を歩いて、某三男の部屋に行く事にしました。
いつもは数分で行く廊下には、本当に、危険がいっぱいです。
歩いて行く家臣達は、そう足許など見ていないので、下手をするとぷちっと踏まれてしまいますし、足音も五月蝿くて堪りません。
それに、毛利家は、田舎の中小企業らしく、家の廊下でも何処でも、我が物顔にニワトリが歩いているのです。
勿論、みんなの御飯のおかずになるのですが、今の某長男は、兇暴な彼等にとっては新鮮なエサ以外の何物でもありません。
ニワトリに見付からないようにじわじわと歩いて、漸く、某三男の部屋に辿り着きました。
どうやら、弟は、部屋にいるようです。
嬉しくなった某長男ハムスターは、懸命に桟を乗り越えて、ちょこちょこと部屋に入って行きました。
しかし、どうした事でしょう。
途端、不意に足が動かなくなってしまったのです。
慌てた某長男は、無理に足動かそうとして、ころりと転んでしまいまったのです。
今度は、起き上がる事が出来ません。
これは、ひょっとして、と言う嫌ぁな予感がします。
某長男は、すっかり太くなった首をくるりと回して、今、自分が何の上にいるかを認識しました。
下にあるのは、案の定、ハエ取りリボンだったのです。

網戸屋の来ないような山の中に住んでいる毛利家中では、今、これが大流行しています。
厩舎や台所に無い家はありません。
そして、某長男なハムスターは、これが、ハエ取り以外にも、ゴキブリ取りやネズミ取りにも使えるかも知れない、と、嬉しそうに某三男が言っていたのを聞いていたのです。



このままでは、蔵のネズミや台所のゴキブリと同じく、弟に殺されてしまうではありませんか。
某長男は、同じようにはまってしまったアリ達と一緒になって、必死でじたばたしていました。
が、暴れれば暴れる程、ハエ取りリボンの粘着面に毛がひっ付いて、取れなくなってしまうのです。
引っ繰り返った情け無い格好であたふたしていると、某三男が、くるりと振り向きました。
そしてもそのまま一瞬、不審そうな顔をしているではありませんか。
ひょっとして、自分だと気付いてくれたんだろうか、と思った、某長男ハムスターは、物凄く期待しました。
「・・・・・毛の長いスナネズミがっ」
しかし、某三男は、どうやら、毛の長い珍種のスナネズミと思ったようで、嬉々として引き出しからハサミを取り出しています。
某長男ハムスターは、がっかりしながらも、とんでも無い、と思いました。
不幸自慢なら誰にも負けないと自負する某長男にとって、あんなシアワセな生物は意味不明の物体でしか無いのです。
尤も、スナネズミになったら、シアワセになれるかも、と思った事は過去何度もあったのですが・・。
しかし、今は、そんな物思いに耽っている場合ではありません。
他でも無い某三男は、珍しいものが大好きなのです。
このままでは、コレクションされてしまいます・・・・・・。



弟にコレクションされるなんて、ハムスターになっても人並みにはある某長男なりのプライドが許しません。
それに、昨今、巷で噂の「ぽけ○ん」にはまっている某三男に捕まった日には、体を黄色い絵の具で塗りたくられてしまうかも知れません。
今の某長男ハムスターは、それはそれはぽてっとしていて、一番人気のある「ぴかちう」にそっくりだったのです。
更に悪くすれば、色を塗られたまま、同じように「ぽけも○」にはまっている大内の御館様に献上されてしまうかも知れません。
某長男は、悪い方への思考なら、幾らでも展開出来てしまうのです。
自分の考えに、改めて慌てた某長男は、どうにも締まりの無いハムスター姿のまま、一層じたばたしてみました。
しかし、そんな抵抗も空しく、結局、張り付いていた毛をじょきじょきとハサミで切られてしまいました。
そうでもしなければ、ハエ取りリボンからは逃れられなかったのです。
しかし、取れた瞬間に逃げようとした御陰で、今度は某三男にぎゅうっと握られてしまいました。
これは、堪りません。
某三男は、兄上に見せようなどと元気よく言い出して、某長男が死ぬような思いで歩いて来た廊下を、数秒で駆け抜けてしまったのです。
さり気ない無常感を感じた某長男は、ぐったりとしてしまいました。
そして、何と無く、不幸な気分にまたしてもどっぷりと浸っていたのです。



車ならぬ弟酔いをしてしまった某長男が、ふと眼を開けると、そこには何と某次男では無く、某父親がいたのです。
某長男は、この父親がとても苦手なので、余計に、ぐったりとしてしまいました。
「父上!毛の長いネズミが!」
某三男は、嬉々として見せびらかしています。
某父親は、それを見て、はたと閃いたようでした。
某長男は、父親の机の上にある「ぽけも○ん大辞典」を見るや否や、嫌あな予感を感じました。
何とか逃げようと、足をびくびくと動かしましたが、その有様は、どう動いても矢張り「ぴかちう」のようでしかありません。
某長男は、弟にコレクションされた方がまだいい、と思いましたが、時はもう遅かったのです。

実は、ここの所、大企業・大内家の御館様は、「ぽけも○」にどっぷりと大はまりをしています。
その為、某父親は、「ぽけ○ん」の種類を覚えるのに苦心していました。
ご機嫌伺いに行って、「ぽけも○」の名前を間違えたりすると、御館様はあっと言う間に不機嫌になって、下請けの毛利家はいろいろと苦労しなければいけないのです。
取り成す為に差し出すカードも、なかなか気に入ってもらえるものがありません。
それで無くとも、もう何度も、御館様をむくれさせているのです。
これは、どうにかしないと、と思っていた所に、この「ぴかちう」に似たはむはむの登場です。

何と言ういい思い付きなのでしょう。
普段は愚痴っぽい某父親の、謀略向きの脳がフル回転を始めました。
こうなると、もう止りません。

かくして、某長男は、全身を黄色に塗られて、大内家に人質にされてしまったのでした。




 ※御協力・安芸門徒殿・ちょめ門徒殿(謝)



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