御質問にお答えします
大艦巨砲伝説のデータデザイン
by 世紀末覇者
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0.はじめに
さて、恒例のEEGゲームへの質問回答コーナ、今回は、神奈川県のO氏他3名の方よりお便りを頂いたEEGゲームのデータデザイン方法に関する質問にお答えします。
O氏よりの質問抜粋「・・・前文略・・・貴サークルSLGの見事なデータに納得して感心したり、我が意を得て喜んだりしたりしています。ところでEEGの皆さんはどのようにデータデザインをしているのですか、EEG誌等で一度説明記事を書いて欲しいと思います・・・後文略・・・」
他に同様の内容を含む御手紙3通と何人かの方から口頭での質問を受けました。
そこで、今回は新作「大艦巨砲伝説」のデザイナー覚書を基にしてEEGで行われたデータデザイン手法の一例をご紹介したします。
ちなみに私達のデータデザインポリシーは、「ハードの数値データだけでなく、ソフトも重視したデータデザイン」です。
1.計画艦と実在艦
今回の「大艦巨砲伝説」には、前作の「八八艦隊物語 艨艟」以上に多数の未完成艦や計画艦が登場します。また、前作では小説で描写される性能を再現していましたが、今回はEEGのオリジナル作品としてデータ設定をする事を考えました。
そこで問題となったのが、この作品の主役である戦艦の性能データ、特に計画艦のデータと実在艦のデータ格差でした。また、実在艦でもデータを鵜呑みにする事はできません。
例えば、英国の代表的計画艦のインコンパラブル級やセント・アンドリュー級等ですが、あの排水量と船体サイズで発射衝撃の大きい20in砲を(正確には20in砲発射の衝撃を受け止めるのに必要な巨大な砲架システムを)満足に搭載し運用できるとは到底考えられません。(インコンパラブル級は論外!!)
史実でも彼女達の過度の性能は、海軍軍縮条約に対する英国の外交的カードの1枚でしかなかったと伝えられています。
また、同様に日本が建造を計画していた18in砲搭載戦艦の13号艦型も18in砲連装砲塔4基8門を搭載運用するには船幅が31mと狭く、排水量も足りないと考えられます。
あまり一般的に知られていない事ですが戦艦が戦闘中に受ける衝撃力で最も重大なものは、砲弾や爆弾、魚雷と言った敵弾の弾着や爆発ではなく、自艦主砲発射の衝撃力なのです(弾薬庫の誘爆等は当然別ですが・・・)。
特に投射弾量を最大にする斉発(全ての主砲を同時に発射)時に発生する衝撃力は凄まじく、大和型ならば18in砲弾が20発近く同時命中したのに匹敵する衝撃力を9つの砲架と3つの砲塔、そして船体が受け止めているのです。
そしてこの砲架と砲塔を搭載するためには当然ながら相応の船体サイズが必要とされるのです。このためパナマ運河問題を抱える米国は、最大船幅33mの制限を受けたため最後まで16in砲に拘っていました。
2.主砲と船体
まず、実際に完成した戦艦のデータに付いて鵜呑みに出来ない実例を紹介しましょう。
例えば、雑誌等の「大和VSアイオワ」論でアイオワ級戦艦の長砲身主砲から放たれる砲弾初速は、850m/sもあり最大射程も大和型の18in砲より長いとの記事を見受けますが、このデータを鵜呑みにせず先程の考え方で評価するとおかしい事が判ります。
何故なら、その初速で斉発(一度に全主砲を発射する)を行うと、その発射衝撃エネルギ総量(後記)は、大和型のそれに匹敵する物となり、大和型より排水量が小さく、船幅が狭いアイオワ級では、砲や砲塔、そして船体が発射衝撃を吸収しきれないため命中率や散布界が極度に悪化する上に、復元性が弱いため船体動揺の沈静化に時間がかかり次弾の発射速度が低下し、次弾の射撃照準にまで大きな悪影響が出てしまうため、夜戦のような近距離ならまだしも決戦距離(2〜3万m)での戦闘において大変不都合だからです。
しかも、アイオワ級は第二次世界大戦に参加した米戦艦の中でも重心が高く復元性の悪い部類に入る戦艦です。
実際のところアイオワ級の主砲弾初速が850m/sとされているのは、太平洋戦争末期や朝鮮戦争、ベトナム戦争、そして湾岸戦争での榴弾による対地艦砲射撃のデータで、榴弾の弾重は約880sです。
しかし1970年代には、あの有名なジェーン海軍年鑑にも最大初速850m/s、徹甲弾重量1230sと記載されていた事があるので間違いは余り責められません。(徹甲弾の最大初速と書いていないところがミソ。ジェーン誌はアイオワ級の最大速力を35ノットと掲載していた事もある。これは機関の耐久性試験における過剰負荷運転の記録・・・実際の作戦行動では、約31ノットまでしか発揮していない。ちなみに大和型は過剰負荷運転で29.5ノットを記録している・・・このデータを使えば高速戦艦の仲間入り?)
ちなみに古い書籍では、現在では正確なデータと判明している徹甲弾(被帽付徹甲榴弾)発射諸元の初速760m/s(弾重1225kg)だけでなく、初速810m/s(弾重1050kg)となっているものもあります。
この2つのデータは、一見すると初速や弾重がバラバラで異なるようですが、砲口エネルギー(後記)に換算すると双方ともに約36MJ/発となりますので、どちらも根拠がある数字だったのだと思います。
たぶん、初速810m/s(弾重1050kg)の方は旧サウスダコダ級(ダニエルズプラン艦)用に開発された長砲身16インチ砲MkU(計画性能初速850m/s、弾重1050kg)から推定した性能のようです。
それから榴弾射撃時は最大で約33MJと砲身へのストレスを軽減しています。
また、初速850m/sで弾重1225sの砲弾を発射したとしたら確かに大和型に匹敵する45MJ/発の砲口エネルギを持ちます。
初速850m/sは、散布界や発射速度を余り重要視せず(面制圧射撃のため照準に関する射撃方法が違う)、一斉発(全砲の半数程度を交互に発射する。交互撃ち方)で射撃する大戦末期や朝鮮戦争、ベトナム戦争での対地艦砲射撃のデータであり、大戦当時の対艦射撃の初速は760m/s程度だったのが正しいのですが、それでもこの約36MJ/発と言うのは、通常の40cm砲弾(サウスダコダ級、長門型、ネルソン級等)の約30MJ/発より砲口エネルギーが約2割も増大しています。
また、砲身長を50口径に延長して、初速をそれまでの16インチ砲(コロラド級750m/s)より増加させない事により砲身内加速距離を延ばしてストレスの発生する時間を分散させ衝撃の発生量や砲身の消耗を押さえています。
ちなみに大和級の強装薬射撃(通常は砲架等の耐久性を確認するために試験としてのみ行う)は、初速約830m/s、最大射程45kmとなりますが命中率や弾着散布界、発射速度が低下し、砲身の消耗も激しい等の諸問題が発生する事に加えて、何よりも通常発射で充分な威力を得られる事から全く使用されませんでした。
それからアイオワ級の後継艦として計画された16in砲12門搭載のモンタナ級は、大和型の405MJを上回る432MJの斉発衝撃の制御と防御力向上の為、常備排水量を大和型並に増大しただけでなく、遂に船幅をパナマ運河通過不可能な広さに拡張しました。
つまり、主砲発射により発生する衝撃と船体の規模や形状は此程に重要な関係で結ばれているのです。
ところで小説の「八八艦隊物語」では、サウスダコダ級(作中名アラバマ級)やライオン級が長砲身16in砲を搭載して登場しており、それをゲーム化した「八八艦隊物語 艨艟」では、敢えて小説と同様の活躍が可能なようにデータデザインしていましたが、実際に考えると、このような艦はバランスが悪く実用性に大きな疑問が発生してしまいます。
3.主砲塔集中配置方式
それからネルソン級やリシュリュー級が採用し、St・アンドリュー級やインビンシブル級でも計画され、さらに大和型の初期計画案にも有ったことで、近頃巷で評判の主砲塔集中配置方式も、現実的に考えると案外理論倒れで現実的な方法ではなかったようです。
例えば、主砲塔集中配備方式を世界で初めて採用した完成戦艦であるネルソン級は、排水量が同等の日米の16in砲搭載戦艦と比べ重装甲で主砲も1門多く、速力も航続力延長のため電気推進を採用したコロラド級よりはやく外見的には成功作でした。
級名 国籍 主砲 水平装 垂直装 基準排水量 速力
門数 甲mm 甲mm トン kt
ネルソン級 英 9 356 158 34000 23
コロラド級 米 8 343 89 33000 21
長門型 日 8 305 146 33000 26
しかし主砲は、データ上なら1門当たり2発/分の発射が可能なのですが、小さなバイタルパートによる主砲搭ターレットの構造限界で砲架構造が制限され、加えて主砲威力と船体のバランスが悪く動揺安定性にも問題が有り(重巡並に悪い!)遠距離射撃や斉発が事実上困難でした。
また、バイタルパートを縮小した無理な設計による不具合が多数発生し、その上に機関配置と増長性にも制限を受けたため最大速力が23ノットの低速艦となりました。
ネルソン級が度重なる改装により、これらの問題点を改修し何とか実戦可能となったのは30年代も後半になってからでしたが、同時期までにコロラド級や長門型が長距離砲戦能力と水雷防御能力の向上のため排水量を約5000トン程増大させたのに対して、抜本的な改造は行えませんでした。このため英国では、以後類似設計の艦を建造する事も無く、ネルソン級の2隻も終戦直後にさっさと退役させています。
ただし、ネルソン級が第二次世界大戦中は、主に低速を理由として活動に多くの制限を受けていたと言うのは、割り引いて考える必要があります。何故なら同じく低速のR級やクイーン・エリザベス級は船団護衛等で活躍しているからです。ネルソン級の活動が少なかった理由は、英国戦艦として最強の威力を持つ16インチ砲搭載艦で有ったために、ビスマルク追撃戦を例にするように、ドイツ軍戦艦戦力が壊滅するまでは、常に予備戦力として待機を命じられている事が多かったからです。
4.バランスの取れた仏式
しかし、主砲塔集中配置方式の設計思想で成功した戦艦も有るので、この問題は複雑になります。その成功した戦艦とはフランスのダンケルク級とリシュリユー級です。
ダンケルク級とリシュリユー級は、砲塔被弾面積減少と防御力強化のための4連装主砲塔を採用しましたが、これによりバイタルパート小型重装甲化と機関部容積の拡大に成功し、耐久性と速度性能の双方の向上に成功しています。
列強各国の条約明け型戦艦が大和型やアイオワ級を代表とする様に、間に艦橋構造物を挟んで前2基、後1〜2基の主砲塔を搭載する方式を選んだ中で唯一の特例です。
特にリシュリュー級(15in砲8門、舷側装甲330mm、甲板装甲150mm、排水量三万五千トン、速力30kt)は、高初速(830m/s)、高発射速度(2発/分)の15in(38cm)砲を搭載して16in砲搭載艦にも匹敵する砲戦能力を得ていました。
このため高いレベルで攻防走のバランスが良いリシュリュー級の性能は、キング・ジョージX世級を上回り、1941年当時には世界で唯一ビスマルク級に対抗できる戦艦と称された程でした。
この成功の理由は、当時主流になりつつあった16in砲を条約枠である基準排水量三万五千トンの船体に無理に搭載しないで、敢えて15in砲を搭載して攻防走のバランスを保つ選択をした事に有ると考えられます。
同じ設計思想に見えても1920年代に軍縮条約を見越して限りある排水量で最大の武装を積み込む事を目標として設計されていたネルソン級と、条約期限切れを見越して攻防走のバランスを取る事を重視していた仏国式は、その土台となる船体の設計思想に付いて大きな違いを生じていたようです。
ちなみに条約的な排水量制限を受けないで設計された大和型は、初期の主砲塔集中配置方式での公試排水量7万トンに対して、前方2基、後方1基のオーソドックスな配置の設計で公試排水量6万9千トンと同等の性能を持つことに成功しています。
大和型の主砲配置が一般的なものに落ち着いた理由は、主砲塔集中配置方式の戦艦建造に経験が無かった事と、ネルソン級の苦労の一部が伝わっていた事に加え、日本海軍が光学照準を重視していて、後部艦橋に搭載する測距装置による射撃諸元算定の支援を得るためオーソドックスな配置を選んだとも考えられます。
5.最大の戦艦
それから戦艦の大きさの限界に付いてなのですが、戦艦で最も重要な要素は主砲による戦闘力だと考えます。そして、主砲を巨大化させればそれを支えるため必然的にに艦の排水量や全長、全幅が巨大化します。つまり20inや30inと言った巨大な砲を積んで満足に運用するためには、極めて大きな船体が必要になります。
しかし現在においても運用から見て軍艦が満足に作戦できる大きさは10万トン程度が限界とされています。例えば現在最大の軍艦は、排水量約10万トンの米原子力空母ジョン・C・テニスです。また、最大の戦艦はいまだに大和型です。
これは戦艦が、戦闘だけでは無く、航海、艦隊運動、修理、整備と言った、軍艦として、そして船として必要な行動を行う事を考えての結果です。
具体的には、軍艦としてだけでも回避行動等の操艦性や触雷後の浸水水圧等のダメコン問題、曳航の是非、ドックの利便性等で限界があります。つまり巨大タンカーのように船が巡航から停止までに数時間、旋回半径がkm単位の戦艦では艦隊運動等できないのです。
その意味では、陸上において戦艦と類似した立場にある戦車が第二次世界大戦後も50年以上の進化を続けながら、その重量が50〜60トンの間をこえなかった事と共通した問題があり、技術的ブレークスルーが無い限り限界と言うものが有るようなのです。
また、一般船舶においても運用効率や世界に多数ある海峡や諸島域の航行性、そして安全性等の問題から来る船体サイズの限界がある事は事実で、運用効率の悪さにより一時流行した100万トン級超大型タンカー等も近頃は廃れてしまいました。
我々は、もし第二次世界大戦後も戦艦が水上艦艇の主力の座を保っていたとしても15万トン(戦艦は空母より密度が濃く重いので現用空母の10万トンを基に約15万トン)が限界の時代が長く続くのでは・・・と考えました。
こう言った理由で、EEGオリジナル戦艦は余り巨大にしませんでした。それでも15万トンもあれば充分に超巨大戦艦です。
6.現実との比較への枠組み
このように実在艦は物理法則に強く縛られているのですから、物理的制約のクリアーや各能力のバランスを後回しにして、机上のみで考えられている可能性の高い計画艦の性能資料と同次元で単純にデータ製作を行うと大きな無理が出ます。
特に、これらの計画艦の性能とパナマ運河通貨制限を持つ実在した米国艦の性能格差は大きくなります。つまり大戦間に登場した計画艦の予想性能には、以外と企画倒れの艦が存在するのです。
しかし、このゲームの趣旨として実在した戦艦と計画艦やオリジナル設定艦を同じ土俵で戦えるようにしてやる必要がありました。
ですから今回のゲームへ登場する計画艦のデータに付いては、艦船造船関係の入門書や軍事専門誌等を参考に、自分達で判る限りの知恵を絞り、現実化可能な許容内に入るよう計画時データより大分弄ってあります。
つまりデータの改竄(!:良く言えば修正)が行われています。データ改竄(オイオイ)は、主に艦形が変化しない程度の排水量増加と主砲ランクの下方修正で、これにより実現可能と私達が考えたレベルに当てはめています。
例えば、インビンシブル級は最高速力を33ノットから31.5ノットに低下させ、St・アンドリュー級は主砲を18in砲へ縮小し、ダニエルズプランのサウスダコダ級は主砲初速を低下させ、13号艦型は船幅を拡大する等です。また、建艦競争時代の戦艦は、各艦ともに長門型やコロラド型がそうであったように公試排水量を増大させて1940年代に対応できるようにしています。
7.データの作成(貫通力)
ところで具体的な戦艦の性能データ製作ですが、今回は攻撃に使用するパラメータが今までの攻撃力から、攻撃力と砲威力のふたつに分かれたため威力に付いては主砲弾重量と初速をベースに、攻撃力に付いては砲口馬力と呼ばれる単位時間当たりの投射弾エネルギーをベースに算出しています。
まず今回から導入した新パラメータの砲弾威力と装甲防御力に付いてです。
砲弾の貫通威力に付いては、戦車砲の貫通威力予想で用いられる砲弾重量と初速の二乗の積を2分して得られる砲弾のエネルギー総量の計算を基本値とし、射距離2万メートルと3万メートルでの空気抵抗等の減速値を修正に加えた結果と現在判明している日本戦艦や米国戦艦の主砲貫通力データから各主砲の威力を弾着時の予想エネルギー量で比較して推定貫徹力を算出しています(米国戦艦に付いては「Battleships UNITED STATES BATTLESHIPS, 1935-1992 REVISED AND UPDATED EDITION」が極めて便利でした)。
■砲弾発射時の保有エネルギ E=1/2・m/g・v2
艦名 砲弾初速 砲弾重量 砲口エネルギ
大和型 780m/s 1460kg 45319592J
アイオワ級 760m/s 1225kg 36100000J
V・ヴェネト級 870m/s 880kg 33983265J
リシュリュー級 830m/s 885kg 31105944J
サウスダコダ級 705m/s 1225kg 31064063J
長門型 780m/s 1000kg 31040816J
ビスマルク級 820m/s 880kg 30189388J
コロラド級 750m/s 1050kg 30133929J
ネルソン級 790m/s 920kg 29294490J
R級/Q・E級 750m/s 880kg 25255102J
K・G・X級 755m/s 720kg 20939694J
※サウスダコダ級:新戦艦=条約明け型
また、ゲームデータに於いて遠距離と近距離で主砲の威力が変化する戦艦があります。それは、遠距離に於いて砲弾エネルギの減衰が著しい砲弾を発射することを表しています。
砲弾エネルギー減衰の重要要素である空気抵抗は、最大直径と速度の2乗の積を基本に多くの修正により表されます。この空気抵抗が大きく効果を及ぼし2万5千メートル以上の遠距離で大きく砲弾エネルギーが減少してしまい近距離で求めた威力カテゴリーから外れてしまうのが威力の変化する戦艦です。
これは、主に主砲弾初速が得に速い(800m/s以上)戦艦を該当させています。
戦車砲に付いても同様ですが、貫徹威力の基となるエネルギを速度より重量に依存している方が距離に影響されないのです。また、重量に依存している方が速度低下の影響が小さく弾道が素直になるため遠距離砲撃戦での命中率が向上します。
もっとも、この威力算出も砲弾の形状抵抗等を同一としたり、ランク分類のため大きく四捨五入しているので絶対ではありません。
こうして作成した威力データですが、驚いたのがイタリアのヴィトリオ・ベェネト級の長砲身15in砲の砲弾エネルギが近距離ならアイオワ級の16in砲弾に迫る大きさだった事です。これは近距離で長砲身16in砲に匹敵する貫通力を持っている事となります。
また米戦艦の主砲弾が、新戦艦のノースカロライナ級から初速より弾重を重視していて、遠距離での威力低下が小さい事です。
ちなみに米国も当初は初速重視でしたが30年代後半から弾重重視に変更しています。
こうして見ると日英の16in砲は、初速と弾重のバランスが良く、遠距離と近距離の双方で優れた砲だったと言えます。
また、当然ながら長砲身の採用で初速と弾重を増加したアイオワ級の主砲は、未完成艦を除いた16in砲搭載艦の中で最強威力です。
8.データの作成(装甲)
装甲に付いては、威力算出のところで各主砲砲弾の推定貫徹力を求めたので、その値と各戦艦の水平装甲、垂直装甲、主砲塔正面装甲、主砲塔天蓋装甲を比べて決定しました。
特に垂直装甲や砲塔天蓋装甲が弱い旧式戦艦は防御力にペナルティーを付けています(Xで表されます)。
できるなら遠距離と近距離における各部分の投影面積等から被弾確率を求めたりしたかったのですけど、所詮は給料取り、そんな時間は見つからないので今回はここまででデータ作成を終了しました。
また、装甲材質に関しては、時代による修正を加えています。このため旧式の装甲材を使用しているSt・アンドリュー級やダニエルズ・プラン戦艦、八八艦隊計画艦等の装甲は、旧式戦艦同様若干弱めに設定しました。
それから厚さが500oをこえるとVC鋼鈑より約1割も耐弾性が大きいと評価(史実)された大和型のVH鋼鈑は、特別修正を加えました。当然、このVH鋼鈑は、アイオワ級等の米戦艦の装甲鋼鈑(圧延均質鋼鈑相当の装甲鋼鈑と考えられる)と比べても、1割以上の耐弾性を持ちます。もちろんアイオワ級には500oをこえる装甲鈑は使われていないのですが・・・。
VH鋼鈑は表面硬化装甲の一種で、圧延均質鋼鈑とは若干違う物ですが、米国の装甲鋼鈑より優れた部分があるため(薄ければ米国製、厚ければVH鋼)、終戦後日本へ進駐した米国調査団の技術者を驚愕させ、多数の資料を本国へ持ち去ったそうです。(もっとも最重要書文章類は、全て焼却済みだったとか・・・さすが帝国海軍!)
装甲厚に付いての資料を比較すると大和型の18in砲は、米国のモンタナ級の主要装甲(水直406mm、垂平155mm、砲塔天蓋197o)を3万メートルの距離で、また砲塔正面やバーペット部ですら2万メートル以上の距離で貫通する事が可能な事がわかります。
18in砲弾防御と豪語する(日本の書籍だけのようですが・・・)ですが、18in砲の前には以外と呆気ないものです。なぜならばモンタナ級は、アイオワ級が搭載砲より1ランク威力の劣る従来型16in砲弾に対する防御をしていたのに対して自艦(モンタナ級、アイオワ級)の長砲身16in砲弾に対抗できる装甲を有すると言うオーソドックスな設計思想で建造される予定だっただけなのです。
その理由には、米軍が大和級戦艦の主砲を長砲身16in砲と思いこみ18in砲を装備していたと知ったのは終戦後だった事があげられます。(史実です)
また、ドクトリン的に遠距離砲戦を軽視していた米戦艦はモンタナ級に至っても上面装甲が弱く、遠距離で致命傷を受ける可能性が捨て切れません。モンタナ級と比較してかなり格下のリシュリュー級やキング・ジョージX世級の砲塔天蓋装甲が220o程あるのに、アイオワ級で184o、モンタナ級でも197oと言うのは薄すぎるのでは・・・18in砲の貫通力は3万mで230oもあるのに・・・。
9.データの作成(攻撃力)
次に攻撃力ですが、これに付いては火砲システムの性能を表す時にしばしば使用される砲口馬力と、「海軍砲術史」に掲載されていた敵艦撃破に必要とされる砲弾命中数表を基に決めました。
詳しく説明しますと攻撃力の算出は、1分間当たりの砲口エネルギ総量、つまり主砲砲門数と主砲発射速度、そして砲弾エネルギから基本値を算出し、それに修正を加えて求めています。
例えば各国戦艦の砲口エネルギー総量は下記の通りです。
艦名 主砲数 発射速度 砲弾E 砲口E総
モンタナ級 12 2.0/分 36MJ 864MJ
大和型(近距離) 9 1.8/分 45MJ 729MJ
アイオワ級 9 2.0/分 36MJ 648MJ
サウスダコダ級 9 2.0/分 31MJ 558MJ
ビスマルク級 8 2.4/分 30MJ 576MJ
長門型 8 2.0/分 31MJ 496MJ
K・G・X級 10 2.0/分 21MJ 420MJ
※サウスダコダ級:新戦艦=条約明け型
そしてこれに国別命中率や距離による弾速の低下、ドクトリンの違い等の修正要素を加えて単位時間当たり弾着エネルギ総量を導きだし、「海軍砲術史」に掲載されていた敵艦撃破に必要とされる砲弾命中数表から算出した敵艦撃破に必要なエネルギ総量を基にして基本値と比較して、そのデータを大まかにランク分けして下記のように攻撃力データとしました。
(遠距離攻撃力/近距離攻撃力)
大和型 4/5
モンタナ級 4/4
アイオワ級 3/4
サウスダコダ級 3/3
長門型 2/3
もちろん修正要素がデザイナー意志により大きく左右されているし、大まかなランク分けも行われているため、これが絶対のデータでは有りません。悪く言えばデータ製作の最後の段階で私感が大きく入り込んでいます。
例えば、データ製作のために修正要素としましたものに以下があります。
1.長砲身砲の弾着散布界の拡大
2.砲弾の後流干渉による弾着散布界の拡大
3.水中弾効果
4.国別の命中率修正
5.遠距離戦における有効射程の差
6.国別の練度やドクトリンの差
これにより国別の命中率修正や水中弾等にボーナスを受けている日本軍は、攻撃力がトータルで約1.1倍されていますし、フランスは0.8倍、イタリアとソ連は0.7倍されています。
このように大雑把に修正を入れていますが、それでも自分達の評価による優劣と実際の戦艦の優劣に大きな間違いは少ないと考えています。
ちなみに遠距離と近距離に付いては、第二次世界大戦開戦当時に想定されていた戦艦の戦闘距離を基に、決戦距離である概ね2万5千メートルの距離を境に遠距離と近距離としています。
10.データの作成(防御力)
攻撃力に対する重要な性能データである防御力は、このゲームの戦艦性能データの中で最も大雑把なものと言えます。何故ならば艦全体の防御力と言うのは、計算的に求めるのが難しく、そのため今回は史実資料や「海軍砲術史」の敵艦撃破に必要とされる砲弾命中数表等を基に、各戦艦の建造年による防御思想やバイタルパート以外の防御力(装甲、隔壁数、ダメコン能力)、そして排水量等を基に、例えば耐15in砲防御モデル艦と言った基準モデルを作り、そのモデルを平均として、デザイナーの主観で決めています。
もちろん実戦において設計時の想定を上回る驚異的な耐久力を見せつけた大和型、キング・ジョージ・X世級、シャルンホルスト級やビスマルク級等はボーナス修正を付けました。その意味では実戦で良い結果のない(主要データは、第三次ソロモン海戦のサウスダコダ=大破だけ)米戦艦は不利に扱われているかもしれません。
11.おわりに
さて、こうしてやっとデータが完成させたのですが、ゲームデータとしてすっきりさせるため最終的に大雑把なカテゴリー分類をしたため、完成してしまうと案外あっさりと纏まってしまって寂しく感じたりもします。
しかし今回、このようなデータを大量に作ってみた事は、資料調査や計算プログラム等の手間が多かった事を加えても、私にとってなかなか楽しく、良い経験でした。
ちなみにデータ作成に使用した日本語の主要参考文献は、「海軍砲術史」「造船工学便覧」「艦船工学入門」「火器弾薬ハンドブック」「世界の艦船各号(含む別冊)」「ジェーン年鑑各種」「シーパワー各号(廃刊)」等でした(この他に多数の洋書を使用)。
また、本作品へ登場する艦艇の中にライオン級、大和型、ガスコーニュ級等多数のEEGオリジナル設定艦があります。それら架空艦の性能等は、頁数の関係で未発表ですが、この文章に書かれている事等を基に嘘ではありながら納得できる範囲の嘘として私達がデザインした艨艟達です。機会が有りましたらEEG誌かサイトにて発表させていただきたいと思います。
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