大好きな季節に
家の外に出ると、とたんに刺すような日差しが降り注いできた。
「うわあ……」
思わず情けない声が漏れてしまう。早くもくじけそうな心を奮い立たせ、私は手をかざして影を作ると空を仰いだ。腕の隙間から空の青が一面に広がっていて、私はいつか行った海のことを思い出していた。
「また行きたいな」
幼いころに両親に連れられていったあの光景。遠くに出掛けることがなんでもなかった幸せな時代。同じようにはしゃいでいたお姉ちゃんと、争うようにきれいな貝殻を拾い集めた懐かしい思い出。
今日の日差しは刺激的過ぎて思わず涙がこぼれてきてしまう。こんなところで泣いていたら変な人に思われてしまうかもしれない、私はさりげなさを装って歩き出した。
さりげなさついでにスキップをしてみる……すっかり祐一さんに毒されていることに気づきおかしくなった。
そう、こんな日にわざわざ外に出たのは祐一さんと会うため。そうでなかったら、きっと私は一日中家の中でごろごろとしていて、お姉ちゃんに、そんな風だといつか豚になるわよって皮肉げに言われてしまうのだ。そして追い打ちをかけるように、栞が愛想をつかれたらあたしがアタックしちゃおうかななんて言うに決まってる。
そこで私は改めて自分の体を見下ろした。相も変わらず靴がはっきりと見えるくらいすとーんと落ちていく貧相な体。1時間悩んで選んだ服は、結局長袖の大人しいティーシャツとチェックのスカートにオーバーニーソックス。たまには肩を露出させた服を着て祐一さんをどきりとさせてみたいけど、あいにく私の肌は弱い。それにそんな服を着たところで、お姉ちゃんに似合わないって笑われるだけ。何を着ても似合うお姉ちゃんには私の悩みなんて分からないんだろうな。
それでも祐一さんは私がいいって言ってくれた。私のありのままを肯定してくれる、だからこれでいいと思うのは強がりでもなんでもない。ときおり見せる祐一さんの目つきには気がつかないであげようと思う。
そして忘れてはいけないのはこのストール。寒い時には防寒具として、この季節は日よけとして十分に役立ってくれる。祐一さんには変な顔をされたけど、もう体の一部みたいになっていて、ないと逆に落ち着かない。祐一さんにそう言ったらライナスみたいだなって笑われた。
いけない、待ち合わせの時間に遅れちゃう。自分なりの急ぎ足で道を急ぐ。いっちに、いっちに、心の中でかけ声を出す。
「暑いなあ……」
すぐに息が上がってしまった。お医者さんに無理は禁物だって言われているけど、もう少しなんとかなると思っているのに。今でも定期的に検査は受けているけど、なんの異常も見つかってはいない。もどかしいけど、今までが今までだからしょうがないと思うしかない。
「きっと祐一さんも分かってくれるはず」
気分が軽くなったところで、私はまた空を見上げてみた。
今度は青一色の空に、白い雲がビルの向こうから流れてくる。ぼんやりとゆっくり動くさまを眺めているうちに、私の大好きな食べ物が思い浮かんできた。
「そうだ、一緒にアイスを食べよう」
この陽気ならきっと祐一さんも喜んで食べてくれるだろう。あの頃に食べたアイスもおいしかったことには違いないけど、こういう季節こそ、ひときわその冷たさが体に染みて心地よい。
一番食べたい時に食べたい物が食べられる、なんて素敵なことなんだろうか。
知らず知らず、私の足は先程よりも速く動いていた。