2人だけの秘密

 小学校の頃、“帰りの時間の反省会”とか“帰りの会”ってのが有りませんでしたか?。帰りの時間になると、日直、又は学級委員が教室の前に出て、「きょうのはんせいかいをはじめま〜す。なにかありませんかぁー」と言って始まるやつです。そこでほぼ毎日主役になるのが、私でした。「きょう、しんちゃんがわたしのけしごむをたべたぁ!」、「やすみじかんに、しんちゃんがわたしに“ばか”っていった」、「きゅうしょくのじかん、しんちゃんが、わたしが“やめて!!!”っていってるのに、わたしがぎゅうにゅうをのむときにへんなかおをする」などなどなど………。恥ずかしながら、私は栄光のレギュラー出演でしたよ。たまたま私が日直で帰りの会の司会の時なんか、もう悲惨でしたよ、ホント。ま、想像してみてくださいよ、情けなくなりますから。そんな私とは対蹠的に、“優等生”というのは必ずいるもんです。実は私のクラスには、反省会では私ばかりが出て来てしまうので、先生が「“良い方の反省会”と言うのもやりましょう!」と言って、反省会には“良い方”と“悪い方”ってのが有ったんです。“良い方”の反省会は、だいたい女の子が出て来るかと思いきや、実は人気のある優等生(『ドラえもん』で言うとデキスギ君みたいな子)がレギュラーって事が多かったんです。勿論私はそんな子を妬んだりはしてませんでしたよ。だって私にとっては“悪い方”が私、“良い方”がデキスギ君っていうのが当たり前で、それがとても自然だったのですから。
 しかし、「デキスギ君もやっぱり自分と同じ人間なんだなぁ」と思う出来事が有ったのです。ある日、私は放課後一度帰宅してから、学校に忘れ物をして来た事に気が付き、直ぐ学校にUターンしたのです。学校に戻ると当然学校は誰もおらず、シ〜〜〜〜〜ンとしていて、なんだか気味が悪かったのを今でも思い出します。元来、怖がり屋の私は、恐る恐る教室に近づいて行きました。「こ・こんな事なら、弟か誰かを一緒に騙して連れて来れば良かったなぁ〜」と思い、急ぎ足で教室の前まで来ると、気のせいか「ぴ〜、ぴ〜」という音が教室から聞こえて来る様でした。私は教室の前で立ち止まり耳を澄ますと、たしかにまた「ピピピのピ〜」と聞こえて来ます。「こ・こ・怖い!!!もしかしてショッカーの黒の戦闘員だったらどうしよぉ〜」とビビリましたが、「ええい!俺も男だぁ!」と思いながら覚悟を決め、思い切って「だ・だ・誰だぁーー!!」と言って教室のドアをガララと開けました。す、す、すると、そこにはショッカーの黒の戦闘員ではなくデキスギ君が、クラスのマドンナ的存在のA子ちゃんの笛をくわえて吹いてるではありませんかぁ!私も驚きましたが、デキスギ君も相当動揺した様子で、「お・お・お前も吹くかぁ?」と私に声を掛けて来ました。私は「どうしようかなあ」と、ホンの一瞬だけ迷ったものの、「お前の口のつけたのなんて嫌だよ!」と毅然と断り、教室を走って出ました。
 次の日の反省会で、前日の放課後の出来事をばらしても良かったのですが、私はしませんでした。エライでしょ?優しいでしょ?私って。それでも、私はA子ちゃんがデキスギ君の口をつけた笛を吹くのは許せなかったので、A子ちゃんには「おい、お前の笛、さっき俺が落として踏んづけちゃったから、洗って来た方がいいぜ」と上手く言っときました。しかし運悪く、それを聞いてた他の女の子が、反省会で「きょうしんちゃんが、A子さんのふえをふんづけました」と言ってしまったのです。参りますよね、ホント。しかし、そこでデキスギ君がパッと手を挙げ、「それはわざとじゃないからわるくありません!」と言ってくれました。あ〜、ありがたい。みんなも「しんちゃんよかったね、おこられないで」と言ってくれました。デキスギ君、ありがとう!君のお陰で助かったよ!………ってちょっと待てよ?な、な、なんで私が礼を言わにゃいかんのじゃぁ?でも、ま、良いかぁ、何十年も前の話だし。


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