秋です。山の木々たちは、赤くなったり、黄色くなったりと、いそがしく衣がえをしていきます。衣がえするのは山の木々だけではありません。公園の木も、街にならんでいる木々も衣がえをしています。
 チエちゃんの家の庭にあるイチョウの木も黄色くそまっています。
 そして、黄色い葉はひらひらと地面に落ちていきます。

 
 チエちゃんとお母さんは、イチョウの木の下で、その葉が落ちるのを見ていました。


「秋になって葉っぱが落ちるのはさみしいわね。まるでイチョウの木が『かなしいよ』って泣いているみたい」

 チエちゃんのお母さんが言いました。

 それから、お母さんは「ふぅ」と、ため息をひとつ落としました。

 チエちゃんもお母さんと同じようにイチョウの木を見ていました。けれども、チエちゃんにはイチョウの木が泣いているようには見えませんでした。それどころか、チエちゃんには、きれいな色をした葉っぱの落ちていくこうけいは、イチョウの木が笑っているように見えました。

 お母さんがお買い物に行くのを待って、チエちゃんはもう一度、庭に出ました。そして、木の下に落ちているたくさんのイチョウの葉を拾うと、自分のお部屋に持っていきました。

 どうやらチエちゃんはお母さんを元気づける方法を思いついたようです。

 しばらくして、お母さんがお買い物から帰ってきました。

 玄関のとびらを開けると、チエちゃんがお母さんを待っていました。

 「お母さん、こっちへ来て」

 チエちゃんそう言って、庭にお母さんをよびました。
 イチョウの木も、地面に落ちている葉もさっきと同じです。

 「どうしたの? チエちゃん」

 お母さんはふしぎそうにたずねました。

 「お母さん、落ちている葉っぱを見て

 お母さんは、チエちゃんが言ったように落ちている葉の一枚を拾いました。

 その葉を見ると、そこには顔がえがかかれていました。にっこりと笑った顔です。他の葉も見てみると、同じように笑っていました。

 「お母さん、イチョウの木はね。泣いてなんかないよ。ひらひらと落ちる葉っぱは、イチョウの木の笑い声なんだよ」

 チエちゃんの言葉を聞いて、お母さんは泣いてしまいました。 
 悲しかったわけではありません。チエちゃんのやさしい気持ちが泣いてしまうほどうれしかったのです。

 「イチョウの木が笑っているのに、お母さんが泣くなんておかしいよ」

 チエちゃんはそう言って、イチョウの葉と同じようににっこり笑いました。 
             
                          おわり

イチョウの木
タイトル
作/イラスト:さわね たかひろ
2001年10月