「ぼくはね、大きく育つようにって、大ていう名前がつけられたんだよ」
大くんが、胸をはって、言いました。
「わたしはね、太陽みたいに明るい子になってほしいって、パパがつけたんだよ」
陽子ちゃんもやっぱり胸をはって言いました。
「ふーん」
二人の話をうらやましそうに聞いていたのは、すずねちゃんです。すずねちゃんの名前は、漢字で『鈴音』と書きます。鈴音ちゃんは、自分の名前がどうやってつけられたのか知りませんでした。だから、大くんや陽子ちゃんがとてもうらやましかったのです。
その日、鈴音ちゃんは家に帰ると、すぐにママの所へ行きました。
「ママ、わたしの名前のお話しをしてほしいの」
ママは、「ただいま」も言わないで、急にそんなことを言った鈴音ちゃんに少しびっくりしていました。
「どうしたの? 鈴音」
「大くんも陽子ちゃんも名前には理由があるんだって。でも、鈴音は、なんで鈴音なのか知らないの」
鈴音ちゃんは、少し泣きそうに言いました。
「そう、そうだったの」
やっとママも鈴音ちゃんの言っていることがわかりました。
ママは、「ちょっと待っててね」と言うと、部屋を出て行きました。
一分ほどして、ママは部屋にもどってきました。ママの手には、大事な指輪が入っている宝石箱がありました。
ママは、その箱の中から、何かをとりだしました。そして、それを鈴音ちゃんに見せました。
『チリン』
小さな鈴でした。
「これはね。ママが鈴音と同じくらいのころに、ママのママからもらった鈴なの。すごくきれいな音がするでしょ。ママはこの鈴が大好きなの。元気がないときや悲しいことがあったときに鈴の音を聞くと、『がんばれ!』って聞こえるの」
ママは少し恥ずかしそうに言いました。
「鈴音を産むときも、この鈴の音が励ましてくれたのよ」
「だからわたしは、鈴音になったんだね」
鈴音ちゃんがうれしそうに言うと、ママは首を横にふりました。
「ううん。ちょっとちがうわ。この子には、この鈴みたいに悲しんでいる人を元気づけるようになってほしいって思ったのよ。それで、鈴音っていう名前にしたのよ」
鈴音ちゃんは、世界中のどんな名前よりも『鈴音』でよかったっと思いました。そして、明日、大君や陽子ちゃんに胸を張って、私が『鈴音』の理由を言おうと思いました。
おわり