「1/12の朝」
深夜に働き、日の昇るころにアパートに帰るといった生活が大学を出てからもう2年も続いている。
肉体を駆使して働くため部屋の扉を開けると、そのままベッドへ導かれていく。
ベッドに住む眠りの精がすぐに魔法をかける。
魔法を解くのはいつも無愛想な電話のけたたましい音だ。
僕は携帯電話を持たないから、呼ぶのは部屋にある妙に角張った電話だけだ。
大学を卒業したときに実家に戻る友人が「やるよ」という一言をそえて、置いていったものだ。
なんとか身体を起こし電話に出るとこちらの言葉を待つことなく声が突き出されてくる。
「今日、みずがめ座が最下位だよー」
僕はなかなか声を出すことができない。なんとか自分の中にある声のボリュームを調整する。
「…うん。電話が鳴ったときからわかってるよ」
彼女は電話の向こうでけたけたと笑い声をあげている。
声に色がついているとしたら、間違いなくその笑い声は黄色だろうと思う。