IN MY LIFE


 「ビートルズのIN MY LIFEっていう曲を思い出したよ。知ってる?」

 フライパンを振りながら、すでにテーブルに付いている彼女へ声をかけた。

 「うん? 知らない。タイトルはぼんやりと」

 彼女はさして興味なさそうに、指輪をいじっている。

 「これまで出会った場所や人がいたけれど、どんな思い出もあなたにはかなわない…。こんな内容だったかな」

 「かっこつけスケ。どうせこの家で奥さんにも同じことを言ってたんでしょ」

 彼女は、テレビで見る顔も名前も知らない女優のように鼻で笑った。

 「そんなことないさ。僕は正直なだけだよ。ほんとうに。」
 
 肉と野菜が踊っていたフライパンの火を止めた。
 
 何か強いに匂いに邪魔をされ、香りがまったくわからなかったが、経験的にちょうど良いだろうと判断は簡単につく。

 「そう、どうでもいいけど。それより、どうしよう」

 キッチンを出ると、彼女が声をかけてきた。
 
 それから、ちらっと床に視線を送った。その視線を追いかけ、同じところへ視線を送る。

 視線の先には、一人の女性が静かに仰向けに倒れている。
 
 女性は、まるで勲章のように包丁を胸に突き立てて、ただ赤い血を抱いていた。

 「ほんとうにビールトルズはいい歌を書く」

                                               END