ズルズルっと鼻をすすったら、ゴホゴホッと、またまたせきが出た。
 そうなんだ、今日のぼくは、かぜひきっコ。

自分のお部屋で、ふとんの中。学校は、お休みしちゃった。

別に喜んでるわけじゃないよ。ううん、どっちかっていったら、学校に行きたいよ。

だって、だって、すごーくたいくつなんだもの。
 ママが、「かぜひきっコは、ふとんの中で、ねてなきゃだめ」だって。

やることといったら、古くて、大きな柱時計を見ることぐらい。

 ふとんの中から柱時計を見上げると、十時三十九分…。
 さっき見たときから、三分しかたってないや。
 なんでだろう? 
 ぜんぜん時間が進まない。柱時計がいじわるしてるんだよ。きっと。

 あぁ、クラスのみんなは、今ごろ、何をやっているかなぁ。
 えっと…今日の二時間目は、算数の時間だ。
 さとう先生は、算数の時間には、教室の前に出して、黒板で計算をさせるんだ。
 誰が前に出て、黒板の計算をやったんだろ。
 今日は、二十三日だから、出席番号二十三番の人かもしれない。
 さとう先生は、よくそうやって指名するんだ。
 二十三番は、なかじまくん…かな。

 チック・チック・チック…。

 あれれ。
 さっきまで、ぜんぜん気にならなかった時計のはりの音が、すごく大きな音に聞こえる。

 ズルズル。ゴホゴホ。

 十時五十一分。
 ちょうど、学校では、三時間目が始まったところ。

…体育の時間だ。
 今日は雨がふったら、体育館でとび箱をやるって先生が言ってた。
 ちょっとだけ起き上がって、窓の外を見ると雨だ。
 ぼくはとび箱が苦手だけど、さぼったんじゃないよ。
 明日、しんちゃんやこうたくんに何か言われたら、いやだな。

「ほんとに、かぜひきっコなんだ」

ぼくは、声に出して、言ってみた。

なんか、へんな声。自分の声じゃないみたい。
 ズルズル。ゴホゴホ。

…チック・チック・チック…。

うとうと。

…チック・チック・チック…。

あ…少しねちゃった。

あ! ぼくは、おそるおそるふとんの中のズボンを見てみた。

はぁーよかったー。
 なんか、おしっこをもらしちゃったような気がしたんだー。

からだ中がぬれているような、そんな感じ。

ちがうや。
 ほんとにからだ中、ぬれてる…。

あせ…?

わっ! 時計を見ると、四時三十分。
 もう、学校も終わっている時間だぁ。

なんで?? 

「ママ―!」

あれ、いつの間にか、鼻水もせきも出ない。元気になっちゃった!

                                             おわり

かぜひきっコ
この作品は平成13年1月21日に中日新聞サンデー版「みんなの童話」コーナーで入選をいただきました。
作/イラスト:さわね たかひろ