たかし君が通っている小学校には、いろんな「校内けいほう」が出されます。
 天気予報などで言っている洪水けいほうとか大雨けいほうと同じけいほうです。

例えば、学校内で風邪が流行していると、「かぜけいほう」、ちこくする子が多い日が続くと、「ちこくけいほう」、テストがたくさん予定されている日には、「テストけいほう」…まだまだたくさんあります。
 校内けいほうの声は、いつも校長先生です。校長先生は、「わたしではありませんよ」と言っていますが、みんなは校長先生だと知っています。

 校内放送の「キン、コン、カン、コン」という音が鳴ると、たかし君のクラスのみんなは耳をすまします。
 いいえ、たぶん、他のクラスの子たちも、「けいほうが出るのかな」と、じっと耳をすましています。
 けれども、それは、けいほうが恐いからではありません。
 その逆で、けいほうが楽しみなのです。
 だから、校内放送がけいほうではなくて、先生への連絡などだと、がっかりしてしまいます。

 実は、今日も新しいけいほうが一つ出されました。
 今日の午前中は、小学校の生徒みんなで近所の農家さんから借りている畑に行きました。
 そして、そこで作ったサツマイモを掘ったのです。
 「あれれ」と思うくらい小さいものから、「うわー」と言ってしまうくらい大きなものまでたくさんありました。
 掘っているときは、みんな夢中です。
 けれども、掘り終わるころには、ほとんどの子たちがくたくたに疲れていました。

 明日には、恒例行事のクラスごとに掘ったサツマイモの重さ比べが行われます。
 たかし君の学校では、運動会や音楽会に負けないくらいの大きな行事です。
 けれど、今日の午後は、いつもと同じようにどこのクラスも授業があります。

もちろん、たかし君のクラスも授業があります。
 たかし君のクラスは算数の時間です。

先生のお話しをちゃんと聞こうと思うのですが、サツマイモ掘りで疲れているたかし君の頭には、なかなか黒板の数字が入っていきません。

たかし君は、思わず、「ふわー」とあくびをしてしまいました。
 隣の席のけんた君も「ふわー」と、たかし君よりも大きなあくびです。
 すると…。

「キン、コン、カン、コン」

「みなさん、ただいま小学校では、大きなあくび、小さなあくびたくさん発生しています。みなさん、サツマイモを掘るのと同じくらいに一生懸命、お勉強をしましょう。あくびけいほうでした」

「キン、コン、カン、コン」

放送が終わると、あくびをしていた子たちは、照れたように笑いました。
 それを見て、他の子たちも笑いだしました。
 その笑いのおかげで、いつのまにか、あくびはどこかに消えてしまいました。
 どうやら、あくびけいほうは解除しなくてはなりませんね。

                                 おわり

校内けいほう
この童話は、中日新聞サンデー版「みんなの童話」コーナーで入選をいただきました。
作/イラスト:さわね たかひろ