「この湖はね、日本で二番目に汚れている湖なのよ。…あら」
カナちゃんのママは、そう言って、ボートから少し身をのりだして、水面に浮いていた空き缶を拾いました。
湖に浮かんでいるこのボートには、カナちゃんとカナちゃんのママが乗っていました。
「あっ、ママ見て、あそこにもお菓子の袋があるよ」
カナちゃんが、湖面を指さしました。
ママは、カナちゃんが見つけたお菓子の空き袋を見て、少し寂しそうに笑いました。
「この湖は、ママにとって宝物なのよ」
カナちゃんには、なぜこの汚い湖がママの宝物なのかわかりませんでした。
「ママが、カナと同じくらいの頃におじいちゃんやおばあちゃんに何度もこの湖につれてきてもらったの。その時は、今よりもう少しきれいだったんだけどね。ボートに乗ったり、魚釣りをしているのを見ていたり…。すごく楽しかったの」
「ここにもお魚さんがいるの?」
カナちゃんは、湖をのぞいてみます。
ママは、カナちゃんが水に落ちないように、体を支えました。
「お魚さん? いるわよ。たくさんね」
「ぜんぜん、見えないよ。あっ、また空き缶だ」
カナちゃんが言いました。
「そっか。でもね、この湖にはね、ゴミよりもたくさんのママの思い出が浮かんでいるの。だから、この湖はママの宝物なのよ。もちろん、カナもパパもおじいちゃんもおばあちゃんも宝物よ」
カナちゃんは、少し考えてから、にっこりと笑いました。
「ママの宝物は、ポケットに入らないものばかりだね。カナの宝物はね…」
カナちゃんはそう言って、ズボンについているポケットに手を入れました。
そして、ポケットから、小さなメダルとアメ玉と髪の毛につける小さな髪飾りを出しました。
「ポケットに入るものばかりだよ」
カナちゃんは、小さな手のひらに乗っている宝物をママに見せました。
「あっ、でも、でもね、ママもパパもおじいちゃんもおばあちゃんも、みーんな、カナの宝物だよ」
カナちゃんは、あわてて一息に言ってしまうと、ほっ、と息をはきました。
そんなカナちゃんを見て、ママはすごく楽しそうに笑いました。
すると…。
『ポチャン!』
ボートのすぐ近くで、魚が水面をはねました。
カナちゃんとママは、驚いた顔をして、顔を見合わせました。
そして、もう一度くすくすと二人で笑いました。
おわり