「リエちゃんの遠足」
今日は二年四組の遠足です。バスの行き先は山のおくにある川です。
バスの中は、みんなのえがおでいっぱいでした。しかし、えがおのない女の子がひとりいました。
リエちゃんです。リエちゃんは水がこわくて、プールや川の中に入ることができません。
だから、うそをついて遠足を休もうと思ったほど川に行くのがいやでした。
川について、みんながバスをおりました。
リエちゃんのたんにんの先生は全員がそろっているかをてんけんすると、
「さぁ、みなさん、お昼までは自由時間です。でも、深いところやあぶないところは行ってはいけませんよ」と大きな声で言いました。
ほとんどの子が水着に着がえて川へ入っていきます。
川に入れないリエちゃんは、少し歩いて、川べにあった大きな石にこしかけました。
そして、川やまわりにあるたくさんの山々をながめました。
『つまんないなぁ』
リエちゃんは心の中で言いました。
「わっ!」
だれかがリエちゃんの後ろで大きな声を出しました。
おどろいて、リエちゃんがふりかえると、そこには先生が立っていました。
「楽しい遠足なのにリエちゃんはどうしてそんなにさみしい顔をしているのかな?」
リエちゃんは水の中に入るのがこわいことを言うと先生におこられると思って何も言えません。
「リエちゃん、川の中に入らなくてもここには楽しめることはたくさんあるよ。この石にすわったままでも楽しいことはあるしね」
先生はリエちゃんが水がにがてだということを知っていました。
「ほんとうに? 先生」
「もちろんだよ。先生はうそを言わないよ。そう、リエちゃんは目をつぶるだけでいいんだ」
「それだけ? リエは何もしなくていいの?」
「うん。目をつぶるだけなんだよ」
リエちゃんは先生に言われたように目をつぶりました。それをかくにんしてから、先生は小さな声で言いました。
「さぁ、耳をすましてごらん」
先生もリエちゃんの横にあった石にこしかけて、目をつぶりました。
『ばちゃ、ばちゃ、…』
最初に聞こえてきたのは、クラスのみんなが川で遊ぶ音でした。
『ざー、ざー、…』
今度は目の前にある川が流れる音が聞こえてきました。さっきまでは気にならなかったのに、今のリエちゃんにはとても大きな音のように感じました。
『じー、じー、…』
川のどこかで虫がないているようです。しかし、リエちゃんにはそれがどんな虫のなき声なのかわかりませんでした。
けれども、この声を出しているのはどんな虫なのかな、と見たことのない虫を頭にうかべました。
『ごー、ごー、…』
まわりの山々から聞いたこともない音が聞こえてきました。そのふしぎな音はすこしこわいような、どきどきするような、そんな音でした。
「どうだい?」
先生の声がとても大きく感じて、リエちゃんは「きゃっ」と声をあげておどろきました。
「楽しくなかったかい?リエちゃん」
先生は少し心配そうに聞きました。
「ううん、すごく楽しかった! いろんな音が聞こえてきてね。…あれ、もう聞こえないよ。虫の声も山の声も…なんでだろう」
今のリエちゃんに聞こえるのは、クラスのみんなが川で遊ぶ声だけでした。
「自然ははずかしがりやさんだね。こんなに声が小さいんだものね」
先生はそう言って、リエちゃんにわらいかけました。
リエちゃんも先生につられてわらいました。
川で出会った自然の声は、リエちゃんにとってつまらない遠足を楽しいものにかえてしまいました。
やっぱり遠足は、みんな、えがおのほうがいいですね。
おわり