「そのとき」
インターネットを始めたんだ
ガールフレンドに言うと、「ふーん」とテレビを見たまま気のない返事。
三つ年上の彼女は、パソコンのこともインターネットのこともまったく興味がないのは知っている。
何でも調べられるんだ
めげずに声をかけると、やっとテレビから視線をはずし、パソコンの前に座っている僕をやっと見てくれた。
僕は情けないことにちょっと安心してしまった。
「美容整形」それだけを言うと、パソコンの前まで来て、僕のひざの上にちょこんと座った。
美容整形って、二重まぶたにしたり、目を大きくしたりとかの、あの美容整形?
僕が聞くと、「ばかね。それじゃ目ばかりじゃない」とくすくす笑う。むっとする僕に関係なく彼女は僕を促す。言われた通りに検索すると、膨大なヒット数。その中で、テレビのコマーシャルで見たことのあったクリニックのホームページを選んだ。
耐え切れずに、
どこか整形するの?
僕は尋ねた。
それまで彼女がどこかにコンプレックスを持っているなんて聞いたこともなかったから。なぜか僕はどきどきしていた。
「うん?」という顔をして、やっぱり彼女はパソコンのモニタから目を離さずに一言だけ
「歯」と答えた。
歯?
「そう、歯を治したいのよ」
なんとなくそれ以上、何も聞けなくて、結局具体的に彼女が歯をどうしたいのかわからないままだった。
ただ彼女は何十分も無言でホームページとにらめっこをしていて、僕は彼女の言われるままパソコンを操作した。
それから一ヶ月もしないうちに、僕らは別れた。
彼女の歯はどうなったのだろう
ふと、そんなことを考える。
それから、僕は思う。
キミの歯は何もしなくても素敵だったよ
でも、彼女はきっと言うだろう。
「ばかね」
了
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