りつ関東学院大“蒼浪祭”ライブレポ



11月3日。関東学院大学法学部小田原キャンパスでは蒼浪祭最終日を迎えていた。

今にも泣き出したいような空からぽつりぽつりと雨滴が落ち始めたのは、昼前ごろ であった。

肌寒い生憎のお天気となってしまったが、りつをはじめ、スタッフ一同が出番を待つ7号館の一室には、熱い空気がみなぎっていた。曲想をイメージするりつ、ギターの調子を見るジェームス氏、パーカッションを軽快に叩く松本。それぞれが本番に向けてテンションを徐々に高めてゆく。心地よい緊張感がメンバーを包む。

 雨天のため、オープンチャーチで予定されていた野外ライブは、急遽8号館の学生ラウンジへと場所を移す。三方がガラス張りの開放感のある広々とした特設会場で、ライブが始まったのは午後2時。しばらくマイクやスピーカーの調子をみたあと、りつは長く美しい髪を両手で後ろへ跳ね除けると、マイクに向かって一言「りつです」と低く呟くように言った。そして第一曲「イナズマ」が鋭いギターのストロークとともに始まった。やや硬い感じだった声も、最初のリフレインあたりからズンズンと伸びやかになってゆく。りつのクールさのなかに若々しい情熱を秘めた歌声が響くにつれ、会場には学生たちが次第に増えていった。こうして、彼女は、「イナズマ」に続き、「もみじ」、ニール・ヤングの「Heart of Gold」、「ガケップチ」、「青春の悪あがき」、「あいたい」の6曲を一気に歌った。7月に「青春の悪あがき」でCDデビューした彼女は、その後、数々のライブをこなすなかで確実に成長していると思われた。歌やギターのテクニックは言うに及ばず、舞台での姿に、風格さえ感じさせるようになっている。「これなら、後夜祭ではもっと・・・」と夜のステージへの期待が高まる。

 
雨脚が強まるなか、学園祭実行委員たちの心配をよそに、ハリントンホールはほぼ満席の入りであった。5時過ぎに後夜祭が始まったころには、会場はむんむんする熱気に満ち溢れていた。                                                                         



そんななか、りつが再び登場する。先ほどは、深い秋色の衣装だったが、一転して真っ赤な衣装が華やかで美しい。多くの照明を浴びた彼女は聴衆に落ち着いた挨拶をし、しばしの沈黙ののち歌い始める。持ち時間の関係から、プログラムは午後に歌った曲のなかからニール・ヤングのものを割愛した5曲。見事というほかない歌いっぷりであった。深く伸びのある声には独特な艶があり、聴く者の心を捉えて放さない。彼女の歌声には、魂を揺さぶる測り知れない「力」があった。それがとりわけ遺憾なく発揮されたのは「もみじ」であった。季節に相応しい選曲ということもあったが、この曲は、ひとの心の奥底にしみじみと沁みこんでゆく深い味わいを湛えていた。青春の挫折を歌うだけがりつではない、ということを強く感じさせてくれた。フォーク、ロック、歌謡曲・・・それらすべてが渾然一体となった不思議な魅力をもった歌手、それがりつなのだということを再認識させてくれる傑作であった。

 彼女の歌が進むにつれ、会場全体が彼女と一体化していった。自然と手拍子が起き、歌に合わせてリズムを刻んでゆく。そんな聴衆全体の暖かい応援に包まれて、りつは別世界から舞い降りて来た妖精のように美しく光輝いて見えた。全曲が終了しても拍手は鳴り止まず、「りつ!りつ!」叫ぶ声があちこちから聞こえた。

 ライブ終了後のロビーでは、りつの歌に感動した多くの若者たちが彼女を取り囲み、握手を交わしたり、盛んにカメラのシャッターを切る光景が幾たびも繰り返された。りつ本人はといえば、大仕事をやり終えた充実感のなかで、今回のライブを企画し、さまざまなサポートをしてくれた実行委員のメンバーと互いの労をねぎらっていた。

 大学学園祭ライブという大舞台を見事にこなしたりつは、今後、アーティストとしてより一層大きく成長するだろうし、またそれを心から願わずにはいられない。

 りつ、素晴らしい感動をありがとう!



                                                                 坂口哲啓


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