激情 〜新緑の幸福〜

 

新緑が風に揺られて、噂話をしている。
<この部屋の主は、幸せ者ね>・・・と。

全ての呪縛から解き放たれた、オッドアイを持つ青年。
人離れした風貌とは裏腹に、彼の心は純粋そのもの。
それもそのはず、この世に誕生してから、
まだ4年しか経っていないのだから。
赤子のように純粋無垢の青年。
稀代の陰陽師に作られた人形の彼は、
ある少女の想いで、人になった。
全ては、少女の起こした奇跡。
少女の願いを叶えた白い龍の鈴の音は、今も少女の心に響いている。
まるで少女を守るように・・・。

「何故、隠れている?」
書物に目を通しながら、青年は振り返らずに格子の外にいる
小さな影に声を掛けた。
「あ。わかっちゃいました?」
格子の横から微笑んだ少女が、顔を出した。
稀代の陰陽師の最大の弟子と言われる青年に、
判らないものなどはない。
自分を人間にしてくれた、唯一の存在を判らない訳がない。
「当然だ。神子の気配は、何処にいても判る。」
振り向かずに答える青年の顔には、笑みがこぼれていた。
本人も気付いていない。
今、自分が笑っていることに・・・。

そこに少女が抗議の言葉を紡いだ。
「ねえ。いつになったら、名前で呼んでくれるんですか?」
少女の言葉に、さっきまで微笑んでいた青年の顔が曇った。
<龍神の神子>と呼ばれていた少女。
そして彼女を守っていた、青年。
つい、以前の癖が抜けないまま、2年の月日が経とうとしていた。
「・・・すまない。頭ではわかているのだ。お前はもう、<龍神の神子>ではないと。」
振り返り、辛そうな表情で、顔をしかめて答える。
その時、フッと辺りが暗くなった。
見上げると、少女が青年の目の前に立っていた。
少女は優しく微笑みかける。
両膝をついて、青年を細い両腕で抱きしめた。
「泰明さん。いいです。泰明さんだけの神子なら・・・。」
耳元で愛らしい声が、泰明の心に染み入る。
愛しい者の優しい声。安らぎを与えてくれる温もり。
そして、全てを包み込む存在。

「神子・・・。」
力強い両腕で、少女を抱きしめる。
言葉に出来ない想いは、全てその両腕が物語っているように。
息苦しさを感じた少女は、泰明から逃れようと、
身じろいた。
「や・・やす・・・」
だが、少女の言葉も聞かず、彼女の桜色に色づいた唇を
自分の唇で塞ぐ。
普段の冷静な彼からは、考えられないであろう、
情熱的な口付け・・・。
激しくて甘い・・・頭の中が、真っ白になっていく。
「う・・・ぅん。」
逃れることも許されず、考えることも出来なくなった少女は、
ただ泰明の背中の服をギュッと握り締めた。
激情ともいえるだろう、泰明の想いの全てを受け止めるために。

静かな時間・・・恋人達を見守るは、新緑のざわめきだけ・・・・。

 

 

沙桐姫様『遥かネット 〜沙桐姫のお部屋〜』
http://www.galstown.com./6/comicjungle_game/harukanetto/

[涙のひと言]

当サイトの10000HITのお祝いとして、沙桐姫様

が贈ってくださった作品です。

タイトルだけを見るとものすごい話…という印象を受け

ますが、とってもほのぼのとした熱々の二人の素敵なお

話です。二年も経っているのに、未だについ「神子」と

呼んでしまう泰明さん…でも、それをやさしく包み込む

あかねちゃん。温かな二人の気持ちが伝わってきます。

そして、激情を秘めた泰明さん〜〜〜キャ〜ッ!!

あかねちゃんになりたいわ〜!!・・・失礼しました。

沙桐姫様、こんな素敵なお話をどうもありがとうござい

ました!

 

 

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