初詣(橘 百合華様より)

 

「初詣に行こう、知盛」
「…………」
「ねぇ〜知盛〜」
「…………」
「知盛〜聞いているの〜?」
「……すう・・・すう」
「え?もしかして…寝てる?」

銀髪、長身の寝ていると思われる知盛と呼ばれた男の前で何度も呼びかけている女の子は
春日望美という名でこの世界でこそはどこにでもいる普通の女の子なのだが、
異世界の京と呼ばれる場所では白龍の神子とか源氏の神子とも呼ばれ
剣の腕がめっぽう強く、平家が戦力としていた怨霊を封印できる存在で、
一方の知盛は異世界京にある平家の武将であり剣の腕では凄まじいものがあり
猛将と呼ばれる存在であるが、地位や名誉などには執着心がまるで無く
享楽的な思考の持ち主でもある為自分が納得のいく戦いを求めさすらう存在であった。

「う〜んやっぱり寝ているみたい。こんなの珍しいよね?」
「……………………」
(これは……滅多に無いチャンスかも?
こんな時に思いつくのは『顔に落書き』とか?ある意味ベタだよな〜
というかそんな事をしたら後で色々とまずい事になりそうだし…)
とまあ、望美は悪戯っ子みたいな顔になっていた。


「源氏」と「平家」決して相容れる事の無い二大勢力に属していた二人は
どうして出逢い気持ちを伝え合う事が出来たのか。
その原因として主に考えられるのは望美が京に来てから手に入れた『白龍の逆鱗』、
これは「時空移動能力」を持つ物で白龍が命を賭して望美に与えた物。
そしてこの『白龍の逆鱗』の力を使って知りうる人全てを助けようとしていた時に
彼の人知盛に出逢ってしまった事も原因の一つとなる。
これといった欲も無く家族や幼なじみに守られながら純粋無垢な状態で育ってきた望美は
初めて出会う『平知盛』という存在に今まで感じた事の無い衝撃を受けた。

悪戯顔な望美は寝ている(はず?)知盛にする悪戯を色々と考えていたが、
結果としては全て却下となった。
却下となった理由はたった一つ『悪戯をした事により一緒に初詣に行けなくなる事』を恐れての事から。
その代わりにある事を思いついたのでそれを実行に移した。
それは『知盛の寝顔を見ている事』。
望美の前でも滅多に寝る事が無いのでじっくりと寝顔を見ていたくなったのである。

一番最初に出逢った時は冷徹な顔で切り捨てられ、
二度目に逢った時は(知盛にとっては初対面)
「戦っている時のお前は実にいい顔をしていた……お前と俺は同類だな」などと言われ
終いには壇ノ浦で知盛と剣を交えた後で海へと身を投じた、望美にこの言葉を残しながら…。
「誰よりも生に貪欲で…それゆえに美しい…」と。
望美にとってそれは初めて感じる最大級の衝撃だったに違いない。
そして望美は気付いた、知盛の事が好きで誰にも譲りたくない・渡たせない…そう想う自分に…。

ダイニングテーブルの椅子を知盛が寝ているソファーの傍らに静かに置き寝顔を見始めた。
(寝顔なんて滅多に見る機会無いから今の内にじっくり見ちゃえ〜)
サラサラの銀髪に輪郭の整った端正な顔、無駄の無い均整の取れた身体。
見れば見る程カッコいいと改めて思った。
だがそれだけではない事も望美は十二分に解っていた。
(知盛の内面をもし知ったら他の女の子はまず『引く』よねぇ…。これだけ格好良くてもね…。
でもその方が私にとっては都合がいいんだけどね♪知盛の事独占できるし…ね)
この後望美は思わず知盛の銀色の髪の毛を触ろうして狸寝入りをしていた知盛に腕を捕まれて
引き寄せられ・抱きしめられたりなど初詣に出かけるまでに一騒動あった事はまた別の話。

望美が初めて持った欲望は『独占欲』
この純粋で激しい欲望はあっという間に望美の心を支配し、無限の迷宮へと誘ったのである。
それからは知盛と共に生きられる未来を探して数多の運命を駆け抜けた。
失敗もあったが、望美が決して諦めなかった事により彼女が望んだ未来を手にしたのである。
『知盛と共に在る未来、自分の為だけに傍に居てくれる幸福な未来』を………。

場所は変わって知盛宅から程近い小さい神社に来ていた。
本来なら参拝するべきの鶴岡八幡宮は普段から観光客が多い上に初詣となれば更に人が増える・という事で
面倒くさがりの知盛は却下し、近所の神社でお参りするいう事に決まった。
望美としては知盛と初詣に行ければ何処でもいいと思っていたので特に気はしていない様だ。
参拝後望美と知盛は屋台の方へと行った。
「……お前…よく食うな…将臣の言った通りだな。」
「えっ、将臣君何を…言ってたの?」
何やら察しが付く様で少し嫌そうな顔で聞き返した。
「『望美の初詣といえば[屋台での買い食い]なんだが食べる量が凄えから今の内から覚悟しておけ』とそう言われた。」
「………そう・なんだ」
(ま〜さ〜お〜み〜く〜ん〜後で覚えておきなさいよ〜(怒))
と将臣に対して怒ってはいるものの、否定はしなかった。
なぜなら左手には袋入りの綿飴とりんご飴・右手にはお持ち返り用のお好み焼きと焼きソバ・
その上すでにクレープとフランクフルトなどなど食べていたのでどんな言い訳も説得力ゼロだからである(笑)
しかも「あっ!タコ焼き〜、買ってくるから知盛はそこで待ってて〜。」と言いつつ買いに行く始末である。
そんな望美を見ながら知盛はクッと笑い(あいつは面白いな、やはり普通の女とは違うな…)
楽しそうな顔でそんな事を思いつつ望美を待っていると女が二人連れで近づいてきた。
「お兄さん、一人?」
「一人だったら私達と一緒に遊ばない?」
「お兄さんカッコいいよねぇ〜」
見た目は高校生位の軽そうな感じの女の子が知盛に声を掛けたが、
本人は聞こえない・気付かない振りをして全く相手にしていなかった。
(…面倒なのが来た…望美、早く来い…)そんな事を考えていると
「知盛お待たせ〜」と望美が知盛の傍に駆け寄った、が案の定女二人組みに絡まれた。
望美は彼女たちを軽くいなしていたがある言葉がきっかけで屋台売り場近辺はプチ修羅場となってしまった。
その言葉とは『彼に一目惚れしたからさっさと別れて欲しい』である。
その言葉を聞いた望美は笑顔を作ったが目は決して笑っておらず、背中からはどす黒いオーラが出ており
そこには〔別れろだって〜(怒)お前なんかに彼の相手は絶対務まらないからさっさとこの場から消えろ!〕
が書いてあるかの様に見えるのである。
しかし知盛の一言によりプチ修羅場は終わりを迎えた。
「俺は…お前なんかに興味なんぞ無い…、また興味を持つ事も無い…
俺にはこいつがいればそれで良いからな…。さっさと目の前から消えろ、さもなくば……クッ…」
知盛の表情を見た二人組は命の危険を感じた様でその場から脱兎のごとく逃げていった。
望美達もその場を早々に離れ知盛の自宅近くまで来ていた。
「ねえ知盛さっき私がいれば良いとか言っていたよね?」
「そんな事も言っていたな…」
「嬉しいなぁ〜♪」
「後数年位は確実に楽しめそうだな…と思ったからな…」
「えぇ〜、何それ〜、喜んで損した〜」
「後はお前しだいだな…俺を…楽しませてくれよ…望美」
「もちろんよ!受けてたつわ!!」
「…そうこなくては…な…」
望美が微笑みながら知盛の手を繋いでみても離さないので隣を見たら、
知盛が柔らかな表情になっていたので望美は嬉しくなった。
そして二人は知盛の自宅へ行きそのまま寝正月したとかしないとか。

因みに知盛に余計な事を吹き込んだ将臣は望美の頼みを断れない譲の協力の下に出来た
『お仕置きオムレツ』
を食べさせられて望美のお仕置きをしっかり受けたとさ。


                                    終わり

 

 

[涙の一言]

お友達の橘 百合華様より頂戴いたしました。

百合華様は自サイトを持っていらっしゃらないのでこれがオン

ライン初公開です!V(^0^)

 

“新春展示部屋2008”の扉絵に↑のようなチビちもがいた

んですけれど、何とこのチビちもこと知盛の一言を見て、この

小説を思いつかれたそうです。こんなさりげなく扉絵の片隅に

置いてあったカットからこのような素敵な小説を書いていただ

けるなんて、何だかとっても嬉しいですねvv(*^.^*)

 

望美ちゃんが(寝たふりをした・笑)知盛の寝顔を眺めるとこ

ろ…殺伐とした運命を乗り越えて来た2人が現代でやっと手に

した穏やかな時間みたいなものが感じられてホッと温かい気持

ちになります。
確かに知盛ぐらいの見目麗しい男性が一人でいたら女の子たち

が次々に寄って来るでしょうね。でも、この世界で“あらゆる

意味で”知盛の相手が出来る女の子なんて望美ちゃん以外いな

いですから(笑) うっかり声掛けちゃった女の子たちは皆さぞ

かし怖い思いをすることでしょう。(^。^)
将臣くんは一言多いところが災いしましたね。でも…小さい頃

から望美ちゃんの手料理を食べて(食べさせられて?)来ている

だろうからもう免疫が出来てるかも!?(爆)

 

百合華様、ステキな創作をありがとうございました。

 

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