覚悟の家出

 

しかし、この犬は迷い犬。おそらく本当の飼い主が探しているだろうということ

で、警察にも届けに行きました。でも、警察では

生き物は預かれないからお宅の方で預かっててください」

と言われて、母は笑顔で犬を連れて戻って来たのです。

そして、新聞にも「柴犬を預かってます」と出したので、多くの人が家に見に来

たそうです。でも、彼らは犬を一目見るなり

「うちの子じゃない!!」

と言って、泣きながらガッカリして帰って行ったそうです。

犬なんてみんな同じ顔をしているのにどうしてわかるんだろうとそのころの私は

とても不思議でした。中には動物愛護協会から電話がかかって来て、

「韓国では赤犬を食べるそうですから、韓国の人が引き取りたいと言って来ても

 絶対に渡さないでください。」

なんてことも言われたそうです。い…犬を食べちゃうの?? 今まで犬とはまっ

たく無縁の世界にいたので、とってもミョーな感じでしたが、ワールドカップの

時にもそういう話題が出ていたので、本当なんですね。びっくり!!

 

うちで飼い始めて2ヶ月経っても飼い主はまったく現れませんでした。

そんなある日のこと…

うちの母が犬を散歩に連れて行った時、近くの医院の前である女学生の集団に

会ったのです。その中の一人の女の子が母の連れていたジョンを見るなり

「あっ、うちの○○だ!!」

と言って、駆け寄って来たそうです。そして、犬の方も懐かしそうにしていたら

しく…

何でも高校の合格発表の時に連れて行ったら、途中でいなくなってしまって、そ

のまま行方不明になってしまったとのことでした。

そこで、母は向こうの名前と連絡先を聞いて、うちの連絡先を教えて後で家族で

うちに引き取りに来るように言ったそうです。

 

そして、その日の夕方、母親とその時あった娘さんと二人の男の子の4人で家に

訪ねて来たそうです。

でも、その元の飼い主が来た時、ジョンはおばさんには手をやって少しご挨拶を

したらしいのですが、その後はうちの母の横に戻って来て、ちょこんと座って、

お客様を接待するという態度を取っていたそうです。そのせいか、はたまた別の

事情があるかはわかりませんが、元の飼い主のおばさんが子供たちに

「○○を連れて帰る?」

と言うと、子供たち3人は一斉に首を振り、そして、

「このうちにお願いする?」

と聞くとみんなで頷いたとのことでした。

そして、元の飼い主に

「お宅で飼ってください」

と丁重にお願いされて、もともとジョンを飼いたがっていた母は大喜びで承諾し

て、晴れてJONJONはうちの正式な飼い犬になったのであります。

 

ここで、疑問点が一つ。

犬は帰巣本能があって、迷った時などは家の方向へと向うということですが、

ジョンの場合は行方不明になった地点から自宅とはまったく逆方向へと向ってい

たのです。

で、方向音痴の犬なのかなぁと思っていたら、うちで飼うようになってから脱走

したことが何回かあったのですが、その時は毎回ちゃんとひとりで家まで帰って

来たのです。

そのことから考えると、ジョンが自分で反対方向に逃げたとしか考えられないの

ですよね〜

そこで…

うちではこのJONJONの不可思議な行動をそれ以来“覚悟の家出”と呼ぶよ

うになったのでありました。

 

元の飼い主さんから聞いて、犬の真名もわかったのですが、本当の名前はとって

も和犬らしい立派なお名前。ある意味フルネームは芸能人のようで…

でも、本人は洋風な(?)名前がよかったのかしらねぇ??

 

そして、自分の選んだ家で自分の選んだ名前でジョンは新たな生活を始めること

になったのです。

 

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